青い空にモクモクと浮かぶ真っ白な雲を見上げていると、なんだか全然知らない異世界に来たみたいだ。どこまでも続く蒼い海と、海で思い思いに遊ぶ先輩たちを見てひとり、溜め息をつく。

ビーチパラソルの下、私だけ普段着のままでぼんやりパラソルの外を見つめている。

「……私なにしに来たんだろ……」

レッスン中に倒れるし、ライブも最低限の援助しかできなかったし、かと言ってこの日差しのなか思いきって皆と遊ぶこともできないし……と考えると、なんだか私だけ別に来ない方が良かったんじゃなんて思えてくる。実際あんず先輩だけでも十分だっただろう。

「な〜にをうじうじしておるんじゃい」
「っ朔間先輩、」

 どうしてこの人はいつでも私がつらいときに寄り添おうとしてくるのだろう。やけにさまになるサングラスをクイと押し上げ、先輩はパラソルの下に寝そべる。

「暇なら日焼け止めをぬってくれてもいいんじゃぞ?」
「やですよ」
「じゃ、我輩が塗ってやろうか」
「もっと嫌です、どうせここから出ないからいいんです」

私は体育座りをしたまま、自分のひざに顔を埋めて不貞腐れたような受け答えをする。朔間先輩はまるで父親みたいな顔をして、私の服のすそに触れる。

「眩しくてたまらんじゃろう。ああして屈託なく日差しの下で遊んでいるのを見ていると」
「…………」
「無理に交わろうとせんでもよい、我輩とて今あれにまじるのは流石に無理じゃ。しかしひとりでいるのは退屈じゃろうて、我輩と暇つぶしでもせんかえ」
「……なにするんですか?」

 顔を上げて隣を見ると、私の服のすそで遊んでいた先輩も顔を上げてニヤリと笑った。

「日陰でも楽しめる海の遊びといえば……ずばり、砂遊びじゃ♪」
「す、……あははっ、砂遊びするんですか? 朔間先輩が? ふふ、似合わなすぎる! あははっ」

思わぬ提案に、思わず気が抜けてけたけた笑ってしまう。朔間先輩は私を見て満足そうに笑い、起き上がると、どこからか持ってきた小さなバケツに海水を入れてまたパラソルの下へ戻ってきた。

 砂浜の砂で山をつくったり……という程度の遊びかと思いきや、朔間先輩が謎のこだわりを見せて精密なお城を作り上げたり、ムキになってツルツルの泥団子を作ったり、途中から日々樹先輩が参戦してもはや遊びではないような像を作りはじめたり……なんだかんだ砂遊びはかなり白熱した。

「お城とか像とか、綺麗なのに残せないの残念ですね」

もうそろそろ砂浜を去ろうという頃になると、なんだか名残惜しくなってそう呟いた。すると夕陽に照らされた朔間先輩が、私を見て穏やかに微笑む。

「残せないからこそ良いんじゃよ。……そのぶん、この楽しかった時間を覚えていておくれ」

大きな手が私の頭をポンポンと撫でる。兄のような気安さで、父親のような寛大さで、朔間先輩は私に接する。それが心地良いようでむず痒くもあった。むず痒く、もどかしく、不満でもあった。

「朔間先輩こそ。ボケて忘れたりしないでくださいね」
「……そうじゃな。くく、いやいや、心配せずとも忘れたりはせんよ。後生大事に覚えておこう」

 どこまで本気なのか、先輩はそう言って楽しそうに笑う。夏休み中のバカンスは、なんだかんだ楽しい思い出を最後にして幕を閉じた。

これから何度も夏がくるだろう。そのたびに自分の抱えた後悔を、そして何より彼が与えてくれた幸福を、きっと大事に思い出そう。