「あ、英智さん。これ、次の企画書です」
「え?……昨日言っていた?随分早いね」

fineでのレッスン後、名前ちゃんは思い出したように分厚い資料を渡してきた。

最初こそ彼女の企画書は台本じみて、創作物のような、詩的な表現が目立っていたが、一度添削をするとその後は完璧なものが提出されるようになった。文才とはこういうものかと感心させられたものだ。

「はい、筆が止まらなくなって、徹夜してしまいました」
「名前」
「ひゃっ!あ、嘘です嘘です、寝ましたよ〜」

後ろから話を聞いていた渉が名前ちゃんを咎めるように睨む。彼女が正式にプロデュース科に転科してからもう随分経つけれど、仕事ぶりは流石天才と言ったところだ。

衣装縫製もすぐに覚えて楽しげにこなしているし、月永くんに習って作曲もしているし、渉と一緒に演劇部でも活躍している。

だからこそ、こうして彼女が何かに夢中になって無茶をすれば、渉が彼女を叱りつけるのだ。

「寝かしつけてきます。構いませんね?」
「うん、ぜひそうして。今日はレッスンも終わって、プロデュース科としての仕事もないはずだからね」
「あぁ待って、今凄く目も意識も冴えてるの!今なら良いものが書けそう……!」

月永くんと似たような衝動を抱えた彼女を、渉はぺちんと軽く叩いて抱き上げ、レッスン室を出て行く。

「……日々樹先輩が、天使さま天使さまって言うからどんな人かと思ってたけど……寧ろ、二人でいると凄く人間っぽいですよね」

桃李が呆れたようにそう言うと、なんだか笑えてきてしまった。確かに、渉の人間らしいところは、名前ちゃんの前ではよく見られるような気がする。

「彼らには、彼らにしかわからない世界があるんだろうね。……でも、人間か天使か神かなんて置いておいて……実体がなんなのかなんてわからなくても、互いが互いの存在をあるがままに認知している……そういう関係は、凄く羨ましいなって思うよ」

ぽんぽんと桃李の頭を撫でると、桃李は眉を寄せて難しそうに首を捻る。

「仲が良さそうで何より、ということですよ、坊っちゃま」
「わっ、わかってたもん!ていうか英智さまにはボクがいるじゃないですか!」
「ふふ、そうだね。ありがとう、僕の可愛い桃李」