「ひなたくんのお家って猫ちゃん飼ってるんだ」
「そうだよ。璃黛さんは、なにか飼ってるの?」
「んーん。お母さんが動物苦手だから飼ったことない。猫、良いなぁ〜」

ふわふわの毛玉の姿を思い描いて、璃黛の表情は綻んだ。

学内の昼休み。璃黛は、2winkのプロデュースについて相談しようと、ひなたの居る1-Aにお邪魔していた。
当初の教室には、「2年生」という異物を意識する空気が漂っていたものの、会話が脱線し始める頃にはすでにそれも馴染んでいた。ひなたと照明について議論していたはずなのに、何がどうしたのか。話しの矛先はペットに変わり、加えてRa*bitsの一年生も巻き込み、気づいた時には、璃黛は創の淹れてくれたお茶を優雅にすすっていた。

こんなことしてる場合じゃなかった。
我に返って話しを戻そうとした矢先のこと。ひなたから発せられた言葉に、璃黛はまんまと釣られる羽目になる。

「璃黛さん、今日って時間ありますか? 良かったら、帰りに家寄って猫に会っていきません?」
「いいの!?」
「もちろん。その代わりっていうかついでっていうか…レッスンも見てもらえれば嬉しいな〜、なーんて」
「よし、乗った」
「えっ!良いんですか!?」
「うん、いいよ。ひなたくんこそいいの? こう見えて行動力はある方だから、本当に行くけど。それより勝手に決めちゃって、ゆうたくん怒ったりしない?」
「ん〜…するかも。璃黛さん、ちょっと待ってて! ゆうたくんも呼んでくる!!」

言うが早いか、ひなたは隣のクラスへと駆けて行った。
壁越しに、ひなたの「ゆうたくん!」と呼ぶ声と、ゆうたの「アニキ、うるさい」という声が廊下を伝って漏れてくる。少しして、双子のはしゃぐような声が聞こえたかと思えば、それとは別に、「お隣のClassroomにお姉さまがいらっしゃるのですか!?」という声もわずかに聞こえた。もしかしなくても、いまのは司くんかな。

創の厚意から、璃黛が2杯目のお茶に手を伸ばすころ、バタバタと忙しない足音がふたつ。いや、みっつ。不規則な音を立てて、こちらに向かってきていた。
教室の扉に目を向けると、まず顔を出したのは1-Aに出戻ってきたひなたくん。続いて、連れられてきたゆうたくん。最後に、「ダッシュ、ダッシュだぜ〜!」と言って、楽しそうに後ろを付いてきた天満光。……えっ、なんで光くん!?
そう思ってる合間にも、光は「本当にね〜ちゃんがいたんだぜ〜!」と言って、璃黛に飛びかからん勢いできゃっきゃとはしゃいでいた。来た経緯を光に問えば、

「理由なんてないんだぜ〜! ひなちんとゆうちんがダッシュしたから、俺も着いて来ちゃっただけなんだぜ〜!」

と、言って教えてくれた。
うん、最高にバカ可愛いな。思わずだらしない笑みが漏れる。いい子いい子と、ペットにするように光の頭をわしゃわしゃと撫でた。きゃっきゃと嬉しそうにする光とじゃれてるうち、午後の始業の予鈴が鳴った。


放課後。少しのお菓子を買い、同じ顔をしたふたりに挟まれながら、璃黛は彼らの自宅にお邪魔した。
ただいま、とそれぞれ口にする双子に続いて、「お邪魔しま〜す」と一声かける。ふと、ふたりの視線が低いことに気づいて玄関を覗いてみると、そこには小さな家主いた。ちょこんとラグの上に座り、主人とその客人を出迎えてくれている。

「にゃ〜あ」
「うっ…かわいい…」

おすわりをして迎える猫の姿に、ぽろりと本音が漏れる。
ピンと立つ耳は、余所者の声を聞き分けているようだった。その証拠に、ジッと見つめるまんまるな瞳と交差する。あなたは、だあれ? とでも言うように見つめる瞳に誘われ、璃黛は上がり框(かまち)に腰かけた。
上がってくださいという兄弟の声を耳に入れつつ、まずは行儀よく座るその背中に触れる。

「ふふ、お利口だね」

撫でていても視線を外さず見つめてくる姿に、自然と口元が緩む。
何往復か撫でたあと、「ちょっと上がるね」と声をかけると、その子は小さく「にゃあ」と鳴いた。

「璃黛さん、こっちこっち!」

と、部屋から半身を覗かせるひなたが手招いている。
そちらに目を配りながら向かっているところ、足元に何やら違和感。気配のようなものを感じて視線を落とすと、触れるか触れないかの微妙な距離を保って、さっきの猫が着いてきていた。

「おっ、珍しい。璃黛さんのこと気になってるみたいよ」

ひなたはそう言って、部屋に入る前にその子を抱き上げた。
ちょっと、自分で歩けるのに。と抗議するように、その子は「にゃ〜ん」と一声鳴いた。そして、やだやだと身体をよじって、ひなたの手から逃げようとしている。
ぽやっとして眺めていた次の瞬間、逃げ道を見つけたと言わんばかりに、その子は璃黛めがけて飛んできた。え、わぁ、なんて変な声をあげながら、とりあえずキャッチ。赤子をあやすように背をとんとんと撫でると、大人しくそのまま抱かれていた。
それを見ていたゆうたは、もう一匹の猫とじゃれ合いながら笑い、ひなたはがっくりと肩を落とした。

「やれやれ。いつも一緒の俺より、初めましての璃黛さんが良いって? 妬けるなぁ…」
「だってそいつ、オスだし。男のアニキに抱かれるより、女の子の方が良いってことでしょ」
「なんだと〜! そのうち、ゆうたくんも飽きられて、そいつも璃黛さんに取られちゃうんだからね。覚悟してよね!」
「あ〜はいはい。それより璃黛さん。お昼の話しの続きをお願いします。俺、アニキからしか内容聞いてないんで」

猫を操るように手招きし、ゆうたは言った。
璃黛は猫を抱いたまま近場に座り、「ちょっと降りてね」と声をかけて、抱いていた猫を離した。そのまま鞄を手に取る。がさごそと動く腕に興味を持ったのか、ゆうたにじゃれていたもう一匹も、とてとてと歩いて璃黛の近くに移動する。
二匹に見守られながら、見つけ出した企画書を双子に手渡し、プロデューサーの顔になった璃黛は説明を始めた。
二人は目を通しながら、きちんと璃黛の声に耳を傾けている。だから、気づいたのかもしれない。璃黛の話す声に異変を感じ、双子は同時に視線を上げて彼女を見た。

そこには、笑いを誤魔化しながら話しを続ける、璃黛の姿があった。
どうやら、二匹の猫の毛がくすぐったいらしい。よく見ると、ソックスとスカートの間の素肌の柔いところに、二匹の猫のしっぽがまとわりついている。

「あ、ちょっと! そこは駄目だってば! あはは、もう。さっきからくすぐったいよ〜」

微笑ましい光景だが、なんだか、二人はいけないものを見た気分になった。
同時に、構って欲しいとじゃれてる猫たちを見て、少しだけ、羨ましい気持ちにもなった。

不意に、「あのさ、」と双子の声が同時にかぶる。先に言葉を発したのは、弟のゆうたの方だった。

「…アニキ。俺さ、今、すごくあいつらになりたい」
「…ゆうたくん。実は俺も全く同じこと思ってた」

2016.05.12
にゃ〜ん


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