「……あっつーい…」

「……暑いねぇ〜…」


思春期の男女が部屋に二人きり、なんてシチュエーションでやることなど一つに決まっている。

……と言いたいところだが、私と渚はただの友達だ。
いや、正確にいえば、私は彼に少なからず好意を持ってるからそうでも無いんだけど。
それでも渚とは、同性できゃっきゃしてる友達なんかよりも仲がいい自信がある。

今も男女が密室の(正確に言えば部屋を出れば親は居る)部屋にいるのに、お互いうちわ片手に暑いと唸りながら、冷たいフローリングに寝転んでいる。というのも、このクソ暑い日に限って家のクーラーが壊れてしまったからだ。

業者は午後、真夏の熱気のこもる部屋に扇風機一つでは、どう足掻いてもオアシスには程遠い。
各自必死にうちわで扇ぎながらも、すぐに暑さに負けて手が止まってしまうのだった。


「あつい……涼みたい……」

「僕もだよ〜」

「じゃあ、どこか出かけるー?」

「でも璃黛ちゃん、出かけるにしても、外は考えられないくらい暑いと思うよ〜?」

「でも部屋も暑いよー」


そうダラダラと会話をしている途中で、あ!と何かを思い出したように急に渚が起き上がった。


「璃黛ちゃん、やっぱ出かけようよ!暑いけど冷たくて楽しめるとこ!ね?」


そう言って、渚はウキウキした表情で私に問いかけてきた。
そのまま立ち上がり、私の返事も待たず、いそいそと部屋を出る準備を始めていた。










「気持ちよかった〜!」

「そうだね。私も夢中で泳いじゃった。」


あの後、渚の家に一瞬だけ寄って電車に乗り、学校の近くにある海岸沿いに来て海水浴をしたのだった。

暑いけど冷たいってこういうことかと納得し、泳げば時間はあっという間で、日が傾き始めたことにも気づかないくらいに夢中で遊んでしまっていた。


「あ、渚、アイス食べようよ!」

「いーね!」


そうと決まれば、帰り道にある小さな駄菓子屋さんへと駆け込んだ。

アイスケースを覗き込もうとしたところで、ふと掛けてあるカレンダーが目に留まった。
新しい月にめくられたカレンダーだが、何かが引っかかる感じがする。

考えても答えが出てこないので、私は夢中でアイスを選ぶ彼へと話しかけた。


「ねぇ、今日って…何かあったっけ?」

「ん〜?……あ、あった!イチゴミルクアイス!」

「渚、私の話し聞いてる?」

「ん〜?今日は……あ!僕の誕生日!」

「え?!」

「おばあちゃん、これください!」

「ちょ、渚、ストップ!!」


満面の笑みで会計をしようとした彼に私は待ったをかけた。
好物を目の前にお預けを食らった彼は、顔を少し曇らせながらジト目でこちらを振り返る。


「……璃黛ちゃん、なあに?」

「私、それ、初めて聞いたんだけど。」

「あっれ〜?そうだったっけ?」

「そうだよ!」

「ごめんごめん!でも璃黛ちゃんと海に行けたから、僕、それがプレゼントでいいよ〜」


そう言うが早いか、渚は笑顔のまま、会計をするためにまた歩みを進め始めた。

まだ話しは終わっていないと言う代わりに、彼の空いてる左手をむんずと掴み、私は更に待ったをかけた。
また足止めを食らってムッとする渚を余所に、彼が右手に持ってるアイスをふんだくる。
私はそのままの勢いで自分の選んだアイスと共に、素早く会計を済ませた。


「はい、誕生日おめでとう。…って言っても、知らなかった埋め合わせ程度だけど。」

「わぁ!璃黛ちゃん、やること男前〜!」

「うるさいな。」

「へへ、ありがとう!」


渚の言葉に照れながらも、誕生日を知らずに一日を過ごしてしまった罪悪感と共に、自分の買ったアイスの袋を開けてそれを口へと運び込む。
程よい甘さが口の中に溶けて、火照った身体にヒンヤリと染み渡る感覚に、思わず頬が緩むのを感じた。

受け取ったアイスを食べることもせず、私をジッと見つめながら渚は笑っていた。


「……なに?」

「なんでもない。食べるの勿体無いな〜て思ってたとこ。」

「食べなきゃ溶けるよ?」

「でも、せっかく璃黛ちゃんが買ってくれたのに〜!」

「アイスくらいいつでも買ってあげるけど。」

「……璃黛ちゃんって本当にイケメン!僕と付き合って!」

「はいはい。」


そう言って軽く流せば、もう!と膨れたような顔をしながら、渚はアイスの袋を開けて口へと運んでいた。そして次の瞬間には、やっぱりイチゴミルクだよね〜!と言って私に笑いかけてきた。単純すぎる反応に、思わず私も笑ってしまった。

そのまま二人でアイスを食べながら、駅へと続く道を並んで歩いていた。
会話はそのまま自然と渚の誕生日の話しになる。


「誕生日、知らなくてごめんね。」

「僕も言ってなかったとは思わなかったし、気にしてないよ。それに、ちゃんとお祝いしてもらったしね!」

「祝うにしてもアイスだし……」

「璃黛ちゃんがくれるものなら、僕は何でも嬉しいよ〜!」

「ふふ、何それ小さい。後日ちゃんとお祝いするから、渚、何か欲しいものとかないの?」

「んー……。誕生日に璃黛ちゃんと一緒に居れたし、それがプレゼントでいいよ。」

「それ、いつもと変わらないじゃん。」

「え〜?特別感が違うよ〜!!」

「渚らしくない。ほら、遠慮せずに。」


私がそう言うと、渚は少し黙って考え始めた。かと思えば、じゃあ……と言って、歩みを止めて立ち止まる。急に隣にあった気配が無くなったことで、振り返ろうとする私と同時に後ろにいる渚が口を開いた。


「僕と付き合ってよ。」


と、渚の声で、確かに私の耳にはそう聞こえた。

振り向く間は何故かスローモーションのように感じて、その合間に一瞬だけ見えた渚は真剣な表情をしていた。
そのまま聞き返す間も無く渚の手によって腕が引き寄せられ、自然と向かい合う形で距離が縮まったかと思えば、またスローがかかったようにゆっくりと唇同士が重なった。

状況に着いて行けずにポカンとする私と目を合わせながら、渚はそのまま言葉を続ける。


「……さっきはふざけちゃったけど、今もさっきも冗談じゃないよ。誕生日プレゼントとかちょっと卑怯かな…って思ったけど、誰かに取られる前に、璃黛ちゃんが欲しいと思ったんだ。」

「………」

「だから、僕と付き合ってよ。それに璃黛ちゃんも僕のこと、……好きでしょ?」

「……え、…と……」

「顔、真っ赤。かわいい。」

「…………ッ!」


そこまで言って、彼はニヤッと笑ながら私の顔を覗き込んできた。

そりゃいきなりキスされれば誰だって赤くなるわ、ビックリするわ、恥ずかしいわ、と色々ツッコミを入れたいところだが、如何せん惚れた弱みというやつでしょうね、きっと。

私の腕を掴んでいた手がいつの間にかお互いの指同士を絡め合っているのにも気づかないくらい、私の頭はまさかの両想いでいっぱいいっぱいで、返事を返すのにも首を縦に一回振るのが精一杯だった。


「よかった!じゃあ、もう一回、してもいい?」


そう言われてもう一度触れたキスは、今度はしっかりイチゴミルクの味がした。

日常の狭間
2014.08.01 
2016.03.11了
イチゴミルクアイス


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