自分にたくさんの好意の矢印が向いていることさえ、君は気付いてもいないんだろう。
「あ、璃黛先輩!」
「エド!」
お互い自分の名前を呼んだ人物の元へ自然に歩み寄る。
今年入学した彼は容姿端麗・頭脳明晰・文武両道と三拍子揃っている反面、短気でキレやすく喧嘩っ早い一面もあり、良い意味でも悪い意味でもプチ有名人。
「なにー?いつもは先輩なんて呼ばないくせに」
「ノリだね。でさ、週末空いてる?」
「何それ。空いてるよー」
「マジで!」
「デートのお誘い〜?」
「なっ、...まぁ、付き合ってほしいとこがあるんだ、けど、」
そこまで言って笑ってた顔が急に露骨に嫌そうな顔になり、視線を追って後ろを見れば納得して苦笑い。
私の斜め後ろに居た人物が視界に入ったらしい。
彼もエドワード同様三拍子揃うプチ有名人だが、女癖の悪さは本校問わずに有名な話である。
その彼は露骨過ぎる態度など気にする素振りも見せずに涼しい顔をしてやあ、と一言エドワードに声をかけた。
「げ、マスタング!」
「げ、とはなんだね。しかも呼び捨てとは、一応君の先輩なのだが。」
「うっせー!てめぇなんてマスタングで十分だ!しかもなんで璃黛と一緒に居るんだよ」
「同じクラスなんだ。一緒に居て何が悪い。相変わらず小さいやつだな。」
「誰がチビか!!」
「ちょっと、ロイもエドも喧嘩しないー」
くあああ!ムカつく!、と言うエドを面白がってまた茶化すロイ。
2人のやり取りはいつもこうだ。まったく。
「仲良しなんだから」
「「よくない!」」
ハモるな!、と互いに言い合いを続ける中、私は歩みを再開。食堂に向かう途中だったのだ。
後ろで言い合いながらも、2人の足はしっかり私の後ろを着いて来ている。
同じ部活の先輩後輩の2人はいつもは犬猿の仲なのに、試合となれば意気投合。毎回トロフィーをふんだくってくるのだから恐ろしいヤツらだ。
「はい!おしまい!食券選んで!」
2人の終わらない言い合いに終止符を打ち、食券を選ぶよう促す。
先にプレートを受け取り空席を探していれば、見知った人物を見つけて声をかける。
「ウィンリィちゃん!相席していい?」
「璃黛先輩!良いですよ。エドも一緒ですか?」
「さっき一緒になったよ。ロイも平気?」
「きゃー!ロイ先輩!大歓迎です!」
「...らしいんで、大丈夫ですよ。あのチビ、毎日ちょっかいかけててすみません。」
「ロイは相変わらず人気だねー。エド全然平気だよ。私よりロイと話してるし、うるさいかもしれないけどゴメンね。あ、こっちー!」
ウィンリィと一緒に来ていた友達にも一声かけて、私を探していた2人を呼べば左にエドが正面にロイが座る。
「エドー?璃黛先輩に迷惑かけて困らせないよーにねー?」
「かけてねーよ!な、璃黛?」
「何を言う。大迷惑だ。」
「マスタングには聞いてねえよ!」
「エド!先輩くらいつけなさいよ!」
「うっせー!」
「彼の幼馴染とは考えられないくらいウィンリィさんはいつも礼儀正しいね。」
「いえ、そんな、ことは、」
「てめ!ウィンリィに触るな!!」
「きゃー!ウィンリィいーなー!」
「ロイ、オムライス食べたい。」
「ああ、ほら。」
「なっ、おい!」
目の前でごく自然に繰り広げられた光景。
間接キス、だなんて
オレは考えすぎなんだろうか。
当の本人は気にする素振りもない。
いやでもウィンリィ達も今のやり取りで固まってしまってるし、周りのヤツらまでもこっちを凝視してしまっている。
ほら、そうだろ普通の反応。
...って、まてまて!それ以前にもしかして。
いや、てか、まさか...と、結論まで至った時にウィンリィが先に口を開いた。
「...先輩たちって付き合ってるんですか?」
オレを始めとする周りのヤツら全員が思ってたことを口にしてくれたと思う。
嘘だろ?
まさかそんなこと...
「ああ、そうだとm
「え?なんで?」
マスタングが肯定しようとした言葉を遮って、璃黛は逆に聞き返してきた。
なんでそうなる?と、ハテナを浮かべて。
え、付き合ってない...?でも、
「いま、オムライス...」
「ん?エドも食べたいの?」
「いやいや、違うくて...」
「えー?なにー?あ、ピーマン好き?」
「あ、うん。」
「んじゃ、あげる。はい、あーん?」
「......」
もぐ、と半ば強引に口の中にピーマンを押し込められた。押し込んだ当の本人はピーマン嫌いなんだよねー、と言いながら食事を再開する。
周りを見れば、今度は視線がオレに集中している。あ、穴が開きそう...。
バチ、とマスタングと目が合ったかと思えば、やれやれ、と呆れたように笑って食事を再開した。
唖然としてるオレ達とその場に居合わせたギャラリーだけが取り残されている。
...なんだってんだ。
じゃあお返しー、と卵焼きをマスタングの口に運んでいる璃黛達の姿はどっからどう見ても...
「お前ら、付き合ってるよーにしか見えん。」
「あ、マース!」
オレが思ってたセリフをそのまま口に出してくれたのはヒューズ先輩。オレと目が合うとよっ、と一言あいさつして璃黛の右側に座った。
「ヒューズ珍しいな食堂なんて。今日はグレイシアの弁当は休みか?」
「それがよー、ロイも璃黛もその他全員も聞いてくれよ。俺の可愛い彼女がいま風邪で休んでるんだ。さっき連絡くれて今すぐお見舞い行くっつったのにうつるから来るなって言われちまって俺もう死にそう。てか死んだ。でも放課後絶対お見舞い行くって決めたからな〜放課後が待ち遠し〜お前らも行きたいって?ダメだ。久しぶりの2人きりを邪魔するんじゃーない!」
「何も言ってない。」
グレイシアが待ち受けのケータイを見せつけ説明しながら話すヒューズにいつものロイのツッコミが入る。
「ロイは手厳しい。」
「いつも通りだ。」
「おいおい相変わらず冷てーな!それよかちゃんと説明してやれよ。」
ほれ、とあごでオレ達の方を指した。
「あ、グレイシアっていうのはね、マースの彼じょ
「璃黛、違う。」
「え?違うくないでしょ?」
「そうじゃない。ややこしくなるから璃黛は静かに。まあ、説明も何も残念なことに食べさせ合いなんて、本人は気にしてないだけなんだ。」
...ああ、なるほど。
確かに璃黛の性格を考えてみたら確かに気にするってほどじゃないかもな。やっぱりオレの考えて過ぎか。
...って。
いやいや、でも待て、それって、、
「はっは!てことはエドもロイも璃黛からしたら圏外っつーことだな!」
ぐさぁ!、とその言葉は2人の胸に深く突き刺さった。言ったヒューズはというと、璃黛の背中をバンバン叩きながら笑いこけてる。
「ん?友達なら普通じゃない?」
ぐっさあ!
2人の心情を知ってか知らずか、話題の中心に居る当の本人自らトドメの一言を口にしたのだった。
2人は顔に手を当てプルプル震えて居た。
周りに居た誰もが彼らを不憫に思ったのは言うまでもない。
そうだ。そうだった。
彼女の鈍感は今に始まったことではない。
だから入学してから半年、
同じクラスになってから半年、
付いて回るこの犬に、
周りをうろつくこの猿に、
取られないように、
闘志を燃やして来たのではないか。
((いつか、きっと夢中にさせるから))
お互いにそう思ったのだろう。
エドとロイの目が合いどちらからともなくいつもの言い合いが始まる。
やれやれと苦笑いをする璃黛に、エドの言葉にムッとするウィンリィ、ロイも手を焼いてるなぁと見守るヒューズ。
騒がしい食堂に響く、いつもの日常。
日常の狭間
2016.07.22了
きっと夢中にさせるから