「傘、持って来るんだったなぁー……」


そう一言ポツリ。

どんよりしていた空がぐずり始めたのは少し前。
さっきまで小雨だったのが、いつの間にか本降りになってきている。

すぐ止むだろうと待ってみたけど、小雨の時点で帰れば良かったと少し後悔。


「…あれ、一橋さん?」

「竜ヶ崎くん。」

「どうかしたんですか?」


どうしようかと考えながら空を見ていたら、昇降口で同じクラスの竜ヶ崎くんが声をかけてきた。


「…ずいぶん降ってるなぁって」

「あ、本当ですね。」

「小雨だったから止むと思って待ってたんだけど、本降りになってきちゃって困ってたとこー」

「傘ないんですか?」

「うん。忘れちゃった。」

「……じゃあ僕の折りたたみで良ければ使ってください。」

「え?いいの?」

「はい。」


そう言って傘を渡された。
が、貸した本人はそのまま出て行こうとしている。


「待って待って!竜ヶ崎くん傘は?」

「僕は駅までなので、そこまで走ればと…」

「え、悪い!傘、竜ヶ崎くんが使いなよ。」

「……でもそうしたら一橋さんが帰れないじゃないですか。」

「いいよ。そもそも私が傘忘れたんだし、もう少し待つから。」

「それは困りましたね」


うーん、と2人で空を見上げた。
さっきより雨足が強くなってきていて、止みそうな気配は無い。


「あ、じゃあ一緒にどうですか?」

「え?」

「確か一橋さんの通学コースって駅が通り道でしたよね?僕は駅まで良いので、そこまで一緒に行きませんか?」

「いいの?」

「はい。では、そうと決まれば行きましょう!」

「……おじゃまします。」

「ふふ、なんですかそれ。面白いですね。」


そう言って笑った顔になんだかドキッとした。

それより、よくよく考えてみれば相合傘。
カップルと同性の友達としか縁が無いようなことを異性のしかも同じクラスのあまり話したことのないような男子としている訳で、私たちの隙間には変な間空いている。

てか一方的に私が。
ドキッとした反面、変に意識してしまう。


「一橋さん、もう少しこっちに寄らないと肩が濡れてしまいますよ。」

「あ、うん。…なんか緊張すると思って。」

「なんでですか?」

「……相合傘だなーって思ったらなんか、」

「え?!まぁ、確かにそうですね。……すみません迷惑でしたか?」

「そんなことないよ、助かったもん!」

「良かったです。提案してみたものの、断られたらどうしようかと思いました。」

「ないない。竜ヶ崎くんって謙虚だね。」


教室ではあまり話したことはなかったけど、狭い空間からかどんどん話しが盛り上がる。

竜ヶ崎くんって堅苦しい感じて近づきにくいと思ってたけど、話せば意外と面白い人なのかも。
性格真逆そうなのに、渚くんとも仲良いし。

早足でもないのに、あっという間に駅に着いた。


「あ、もう着いちゃったね。」

「じゃあこのまま傘使ってください。」

「やっぱりいいよ。着いても竜ヶ崎くんが濡れちゃうし、この調子だと雨止まないと思うからそのまま帰るよ。」

「僕は駅から近いので大丈夫です。一橋さんが濡れないで帰ってくれる方が僕は嬉しいのですが。」

「何それずるい。…じゃあ、お言葉に甘えてお借りします。ありがとね?」

「どういたしまして。それに女性が濡れて帰るだなんて僕の美学に反しますので!」

「ふふ、」

「……なんで笑うんですか」

「竜ヶ崎くんって意外と面白いと思って、」

「からかわないでくださいよ。」

「ごめんごめん。電車、すぐ来るの?」

「えっ、と…今の時間だとあと15分くらいです。」

「あ、じゃあそれまで一緒に待ってるよ!」

「そんな、大丈夫ですよ」

「いいから!傘のお礼です!」


そう言って私は待合席に座って手招きをした。
やれやれいう仕草をして隣に座る竜ヶ崎くん。

さっきと同じテンポで弾む会話。
雨足はさっきより激しくないが、それに比例するようになんだかドキドキが激しくなる。



もう少し彼のことを知ってみたいと思った。
そんな梅雨の始まり。

2014
修正  2016.05.05
たらららん


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