璃黛と喧嘩をした。
ほんの些細なことだったんだけど、ヒートアップした挙句に今回はどちらも譲らないときた。

しばらく冷戦状態が続いていた訳だけど、そうも言ってられない状況が訪れて、俺はひどく焦りながらガチャガチャとドアノブを回していた。


「ねぇ璃黛!ほんと俺が悪かったから!だから早く!ここ開けて!」

「真琴、うるさい。」

「良いから早く出てきて!」






真琴と喧嘩をした。
今思えばなんであんなことで喧嘩しちゃったんだろう、なんて後悔が押し寄せるが謝る気など更々無い。

今回は真琴が悪い。(多分)
だから絶対自分からは謝らないと決めたのだ。


「真琴のバカ!」


そう言って雑誌を片手に部屋の扉を勢いよく閉めて出たのは2時間くらい前で、私はそのまま寝室に逃げ込んだ。

だけどよくよく考えてみると寝室に鍵は付いてないし、攻め込まれたら真琴の力で簡単に扉が破られるのは目に見えている。

そう考えた結果、寝室からトイレへと立て篭もり場所を変更し始めたのが1時間くらい前の話しだ。

狭い空間の中で便座に座りながら、落ち着きを取り戻し始めた頃にそれは突然訪れた。


「......あれ?」

「............っ!」


ガチャ、と扉のノブを回す音が鳴った。
鍵が掛かっていて開くはずも無いと分かっているのに、反射的に身体がビクッと跳ねた。


「......入ってるのかよ。」


急なことでドキドキしている私などお構いなしに、真琴はそう呟いて部屋へと戻って行ったようだった。

私は少しずつ遠ざかっていく足音に耳を澄ます。
そのまま部屋の扉が閉まる音が聞こえたことに、ホッと胸を撫で下ろした。

いつもなら真琴から謝ってきてもいい頃なのに、あの口調からするとまだ怒っているようだった。


(これは長期戦になりそうだなー……)


既に冷静になっている頭でそう思いながら、私は呑気に雑誌の次のページを捲った。




冷戦状態が続くかと思いきや、それは長くは続かずに真琴から終止符が打たれた。どうやら限界らしい。

さっき真琴が来てから30分ほど経ったくらいに、またノブが回された。そしてノックをされたので、ノックをし返してみた。

今度は15分後にドアノブが回され、入ってると分かると扉をバンッと軽く叩いてきたので、内側からもバンバンッと2回軽く叩き返してやった。

そして真琴が5分置きにやって来てはノブをガチャガチャと回しながら、扉越しに声を掛けたり叩いたりしていたけど無視をした。

ドタバタと扉越しに聞こえる足音をBGMに雑誌も読み終わった頃、通算10回目くらいでやっと私が立て籠もっていると気付いたらしい。
そんな真琴によって、今も扉一枚向こう側でノブがガチャガチャと回される音が鳴っている。


「ねぇ、璃黛!聞いてるの?!」

「…………」

「ちょっと、璃黛?!ねぇ、トイレで寝てないよね?!ここ開けて!」

「……真琴、うるさいよ。」

「良いから早く早く早く!!」


だいぶ声が焦ってるところ、真琴の膀胱の限界が直ぐそこまで迫ってきているようだ。

ダンダンダンダンと廊下を踏み鳴らす音が聞こえ、それに合わせるようにガチャガチャとノブを回す音も未だに鳴り止まない。

このまま漏らせばいいじゃんと非道なことを思ったが、限界が近い真琴の声が涙まじりに変わったので仕方なく出てあげることにした。

……けどその前に、だ。


「璃黛、璃黛!はやく、璃黛!!」

「出ても良いけど、私に謝ったあとすぐに駅前のプリン買って来てくれる?」

「…はぁ?!」

「はーい、交渉決裂ね。」

「いや、ウソ!ウソだから!分かった買ってくる!行く!それに俺が悪かったから!ごめん、ごめんなさい!だからはやく!!!」

「オッケー、交渉成立ね!」


とりあえず真琴が漏らす前にと鍵を開けた。

同時に外から勢いよく扉が開かれ、腕を掴まれた私は扉の外へと引っ張り出されていた。
ほんの数秒のことで、今度は真琴によって勢いよく扉が閉められたかと思えば、そのまま鍵が掛かる音がする。

真琴の勢いに圧倒された私はそのまま廊下に座り込み、唖然と扉を見つめることしか出来ないでいた。


しばらくして水を流す音と鍵が開く音がしたので顔を上げれば、半開きの扉から身体を半分覗かせている真琴と目が合う。
げっそりとした顔をしながら、真琴はそのまま盛大に肩を落とした。


「……この歳になってマジで漏らすかと思ったんだけど。」

「間に合って良かったね、真琴。」

「……璃黛、ほんと、勘弁だから………」

「真琴が悪い。」

「……そうだね、俺が悪いよ。」


そう言った真琴は、座る私と同じ目線になるようにしゃがんで抱きしめてくれた。


「璃黛、ごめんな?」

「もう怒ってないからいいよ。」

「どう考えても今回は俺が悪いのに、さ。しかも意地張っちゃったりして、」

「本当だよ。」

「はは、ごめんな。許してくれる?」

「……約束は守るんだよね?」

「…………行かせていただきます。」

「よろしい、許す。」


そのやり取りにどちらともなく笑みが溢れ、そのまま仲直りのキスをした。






後日、また喧嘩をした。
今回は私が悪いが悔しいので立て篭もる。


「璃黛!いい加減出てきて!」


扉一枚向こう側ではドアを叩く音とノブを回す音、それに真琴の呼びかける声が合わさってより一層けたたましさを増している。

トイレに立て籠もりを実行した私によって、真琴にあの時と同じ地獄が繰り返された。

その後、一緒に暮らしていく上で新たな約束事が加算されたことは言うまでもない。

2014
修正  2016.05.05
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