HRも終わった放課後、私は隣のクラスに居る幼馴染のお迎えに向かった。


「れーい、一緒に帰ろっ?今日って陸上部の練習お休みだったよね?」

「あー…すみません。そういえば璃黛には言い忘れてましたが……僕は陸上部を辞めて水泳部に入部し直したので、今日から水泳部の練習なんです。」

「は?!聞いてない!」

「だから今、言い忘れていたと言ったじゃないですか。」

「それより、怜……泳げるの?私の知る限り、筋金入りのカナヅチだったと思うんだけど………」


そこまで言って、私は幼少の頃から今までの彼を思い返していた。自分がカナヅチと知り、落ち込んでいたのをよく覚えている。

だから水泳を授業で扱わない学校を選んだ。

それに陸上に力を入れてるからと陸上部に入ったのに、今更泳ぎきれた試しも無いのに水泳部に入るなんて以ての外だ。


「……私は、反対。」

「そんなこと言われても困ります。」

「……今日、ご飯どうするの……?」

「…あ、そうでしたね。今日は自分の家で食べると璃黛の叔母さんに伝えて頂けますか?」

「……わかった。怜、私は反対だからね。」

「僕が自分で決めたことです。いくら璃黛が反対でも、僕の気持ちは変わりませんよ。」


そう言った怜は、璃黛が心配してくれているのはよく分かりますが……、と眉尻を下げて苦笑いをしていた。

空へ羽ばたく蝶のように、怜も何処かへ飛んで行ってしまうのではないかとその時は少しだけ不安になった。




怜に対して少し過保護過ぎる自覚はある。

見た目は男らしくなったとしても、中身は私の知ってる怜のままだからこそ手を焼いてしまう。
そんな私を邪険に扱わないのが怜の優しさだと知っていて、ずるい私はそこに漬け込むのを辞められない。


「……自分で決めたこと、かぁ………」


毎月一日だけ怜のご両親が家を空けることがあって、その時は私の家で一緒に夕飯を食べることになっていた。
それが今日で、口に出さなくても私たちにとって大切なことだとお互い理解していた。

でも、それを怜が忘れていた。それくらい夢中にさせる何かがあったんだろう。私を見つめたあの時の瞳はキラキラ輝いて、全身からワクワクが伝わって来た。

それに怜と同じクラスの葉月くんも水泳部だとさっき知り、彼の性格なら真逆の怜を簡単にサポートしてくれるはずだ。


「……仕方ない、今日は遅めの夕飯にしてもらおう。」


家で一人で食べるのは寂しいだろうと思い、説明すれば理解してくれる両親たちに、帰ったら怜が水泳をやることを話そうと思った。

口では反対したけれど苦手を克服しようとする怜を陰ながら応援してやろう、と今日は隣に居ない彼の姿を思い浮かべながら私は足早に帰路に着いた。

2014
修正 2016.05.05
タイムパラドックス


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