「一橋さん、またピアス開けたんだ?」
「ん、なんか朝起きたら急に開けたくなって。学校来る前に。」
私の後ろの席に座る橘くんにそう答えれば、そのまま目線は開けたばかりの耳へと向けられる。
まだ熱を持ってじんわりと痛む耳に、興味津々とでも言いたげな橘くんの視線を感じた。
「…………橘くんも開けたいの?」
「え?!んー、俺は…いいかな。ピアスって開けるとき痛いんでしょ?それに怖そうだし……俺、怖いのも痛いのも嫌だなぁ。」
「怖いの苦手なんだ?見かけによらないっていうか……、なんか意外だね。」
「そうかな?じゃあ、お互い様だね。」
「なんで?」
「一橋さんって大人しそうなのに、耳にたくさんピアス開いてるから。」
「私、大人しそうかな?」
「うん、入学当初はそう思ったよ。……今は思わないけど。」
「今の間、なに?」
「はは、冗談だよ。それに一橋さんって怖い人だと思ってたんだ。今だからだけど、実は一橋さんってすっごい優しいよね。」
「何それ褒めてる?」
「俺はそのつもりだけど。」
確かに思い返してみれば、高校に入学してからは思い立ったらすぐピアスを開けるのを繰り返していた。その時も後ろの席だった彼は、確かにビビっていたかもしれない。
彼の話しに耳を傾けながらそんなことを考えていると、懐かしくなってしまい頬の筋肉がゆるゆると緩むのを感じた。
「一橋さん、にやけてる。」
「私も思い出しちゃって。確かに真琴くんビビってたかも。」
「あはは、今はそんなことないよ。」
懐かしいなぁ、なんて言いながら橘くんも笑っていた。
それから2人でとりとめのない話をしていると、何の脈絡もなく、また橘くんは私の耳に目を向け覗き込むような形で口を開いた。
「うわぁ、腫れてるみたいだけど……耳、痛くないの?」
「ん、平気だよ。」
「……ね、触ってみていい?」
私が断りの返事をするよりも早く、静かに伸びた橘くんの手がそっと耳に触れた。ピリッとした痛みと共に、反射的にビクリと身体が反応した。
「……ッ!」
「わ、痛かった?!」
「…ん、ピリッとしたくらいだから平気。」
「本当?!……一橋さん、ごめん!」
「びっくりして過剰反応しただけだから、大丈夫だよ。」
「なら良いけど。……それより、ちょっと触れただけだったけど、耳、すごく熱かったよ?冷やしたりしなくて平気なの?」
「うん。私の場合、一日でだいぶ収まるし。」
「そっか……なら、良かった。」
そう言って橘くんは困ったように笑った。
本当に大丈夫だよ、と一声かければ橘くんに更に困ったような顔をされてしまい、どうしたものかと苦笑いが漏れる。
そう思った矢先、真剣な表情をした橘くんの瞳とぶつかり、私は何事かと思い口を開いた。
「……橘くん、どうかした?」
「え?……あ、ごめん。一橋さんにこれ以上、ピアス増やして欲しくないなぁ…と思って。」
「え?橘くんに関係…なくない?」
そう言えば、橘くんは私に向かってちょいちょいと手招きをした。
大きな声では言えないらしく、ピアスを開けてない反対の耳を傾けた。そのまま距離を詰められ、唇が掠るほど近くで囁くように橘くんは口を開いた。
「……俺、後ろから見る一橋さんの耳、結構好きなんだよね。ピアスしてると、……俺の楽しみが無くなっちゃう。」
「?!」
ドキッとして咄嗟に耳打ちをされてる方の耳を覆えば、それだけ言って橘くんはすぐに離れた。
「……な、何それ……!」
「後ろの席になってからいつも思ってることだよ。」
橘くんを見れば、意地悪そうな顔で笑っていた。
ドキドキしながら覆った方の耳へ意識を向ければ、反対の耳と同じようにじんじんと熱を持っているような気がした。
2014
修正 2016.05.05
意外なんて褒め言葉