「風邪を引いた。」


そう司令部に電話が入ったのは数時間前。

視察ついでにと見舞いに来てみれば、玄関の鍵が空いていた。
...というより、ドアが薄く半開きだった。

一言声をかけ家の中に入れば、部屋へ導くように服は脱ぎっ放しで、ドアというドアが開けっ放しの状態が出迎えてくれる。
想像以上の状態だったが許容範囲だ。だらし無さに更に磨きがかかっているのは、おそらく風邪のせいだけではないだろう。


「...おい、璃黛。大丈夫か?」

「...大佐?!ど、どしたんですか......?」

「見舞いだ。それにしても、いつにも増してだらしないな。あと玄関のドアが少し開いていたし、鍵を閉めないなど無用心にも程があるぞ。」

「す、すみません......」

「何もないなら良いんだ。...具合はどうだ?」

「朝に比べれば、だいぶ良くなりました。急にお休みしてしまってすみません。」

「...そうか。仕事の方は気にするな、ハボックがお前の分まできちんとやって思ってくれている。」

「.........左様ですか。それより、お見舞いなんて来ちゃって大佐の仕事は大丈夫なんですか?」

「ああ。中尉に念をおされたからね。」

「ふふ、さすがです。」

「それはいいから大人しく寝てなさい。」


見たところ元気そうにしているが、表情は少し硬く苦しそうに見える。
口が減らないままの璃黛を寝かせて額に乗せたタオルを変えてやれば、気持ち良さそうに目を細めた。


「......なんだかすみません。」

「いや、私が好きでやってることだ。気にすることはない。」

「...ありがとうございます。大佐の手、ひんやりして気持ちいいです。」

「それは良かった。元気そうに見えるが、もう少し寝てゆっくり休むといい。私は仕事に戻るよ。」


そう言ってベッドから離れようとしたところで、寝ている璃黛にきゅっと袖口を掴まれた。


「......どうした?」

「あの、寝るまで、......居て欲しいです。」

「なんだ、珍しく甘えただな?」

「......じゃあ、別にいいです............」

「冗談だよ。眠るまで居てやるから、ゆっくり休みなさい。」

「...あの、手も......握って、良いですか.........?」

「今日は珍しいな。」


そう言いつつも手を握ってやれば、璃黛は安心したように目を閉じた。
見た目からでは分からないが、だいぶ精神的にきていたようだ。


(そんななんでもない願いなら、いくつでも叶えてやるさ。)


そう思い、握る手に少しばかり力が入る。

程なくして規則的な呼吸音が聞こえてきた。
せめていい夢をと思い、すうすうと眠る璃黛の額に一つキスを落とした。


2014
修正 2016.05.05
なんでもない願い事だって


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