お風呂場から裸足でひたひたと廊下を歩いて、私は彼の待つ居間へと向かった。
光が漏れている居間を廊下から覗き見ると、遙はこちらに背中を向けるような形で座り、くつろぎながら料理雑誌を読んでいた。
夢中なところを見ると、きっと内容は鯖の特集に違いない。
「はーるっ」
そう言って私は、自分より少し広めの遙の背中に抱きついた。
キュッと首筋に顔を埋めるように密着すると、まだ少し湿っている遙の髪からは、私と同じシャンプーの香りがする。それを鼻から目一杯に吸い込むと、シャンプーの香りと混ざるようにして、遙から放たれる彼自身の香りも一緒にした。
「……変態。」
何も言われないことをいいことに、抱きついたままニヤニヤしてその匂いを堪能していると、唐突に遙がそう言った。
「んー……確かにー……」
「そう思うならやめろ。」
「んー……」
「おい。」
「今やめる……かも……」
そう口では答えつつも、私は辞めずに行為を続行する。
遙がちょっぴり嫌そうな顔をして振り向いたけど、私はそんなことは気にしない。
確かに、こんなに近づいて匂いを嗅ぎ続けていれば、私は変態以外の何者でもないなと自分でも思う。親しい間柄でなければ、今頃、変質者扱いで通報されてからの、即、逮捕だ。
そんなことを思いながらもまだ辞めないのは、私の鼻腔をくすぐる絶対的な安心感。それに、私は匂いフェチである以前に遙フェチでもあるのだ。
そう簡単に辞められないのも仕方のないことだと、高を括って欲しいと思う。
「……璃黛、」
「あとちょっとー……」
「いい加減にしないと、お巡りさん呼ぶぞ。」
「それは…嫌だな……」
「じゃあ離れろよ、変態。」
「ちょっと難しい話しだなぁ……」
拉致のあかない返答を繰り返すうちに、先に遙が「はぁ」とため息を一つ吐いた。
辞める気のないことが伝わったのか、遙はそのままの状態でぽんぽんと私の頭を軽くはたいて、また雑誌に目を向け始めた。
やった、勝った!なんて思いながら、なんだかんだしたいようにさせてくれる遙の優しさに私の心臓がキュッと少し縮こまった。
あーもう、ほんと、遙大好き。
そんなことを思いながら、私はまた安心感を与えてくれる香りを目一杯鼻から吸い込んだ。
「……はぁ……ねー、遙。私、変態の素質、あるかもしれない……」
「ふ、確かに。」
「そこは否定してよ。」
「お前が自分で言ったんだろ。」
遙はいつもの調子でそう言ったけど、決して嫌な感じがしなかったのは、すぐ逸らされた横顔が満更でもなさそうに笑っているのが見えたからだ。
そんな遙の不器用なところを見せられて、私はまた目一杯匂いを嗅ぐと同時に、当たり前のようにある幸せを噛み締めずにはいられなかった。
2014.09.09
修正 2016.07.22
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