「……そろそろ落ち着いた?」
そう声をかければ、璃黛は鼻をぐずぐずいわせながらも、「……うん。」と一言頷いた。だけど、その元気が無さすぎる返答に、「これは大丈夫じゃないなぁ……」と思って思わず苦笑いが漏れた。
きっと心配させまいと思って言ったんだと想像がつくが、目の前の彼女を見れば一目瞭然、見え透いた嘘だということも容易に想像することができてしまう。
そんなことも分かっていて、「大丈夫じゃないでしょ?」と声をかければ、璃黛の瞳からはまた大粒の涙が零れ落ちた。
「大丈夫じゃな、って分かって、なら、いちいち聞かな、でよぉ!まこっ、ばかぁ!」
そう言うだけ言って、璃黛はまた泣き出してしまった。
少々荒れてるそんな姿を見て「困ったなぁ……」なんて思う反面、彼女を泣かせた原因である相手に対して俺はふつふつと怒りを感じていた。
昨夜、璃黛は「明日は付き合って1年記念日だから、一緒に出かけることになったの!」と嬉しそうに言っていた。なのに、昨日までは笑顔だった彼女は今、悲しさに呑み込まれて泣きじゃくってしまっている。
こうなった理由を問えば、璃黛が先に待ち合わせ場所に着いて居たのにも関わらず、彼氏の方からいきなり予定をキャンセルされたらしい。
それくらいならただの痴話喧嘩で済むはずだけど、彼女がこれだけ傷心しきっているのには他に理由がある。
街に出たついでにと彼女がショッピングをしていた矢先のこと、自分が歩く少し先に、デートをキャンセルしたはずの彼の姿が目に飛び込んできたそうだ。
しかも彼は、自分の知らない女性と親しげに密着しながら歩いていたらしく。……要するに、浮気現場を目撃してしまったわけだ。
その時はショックが大きすぎて涙も出なかったらしいが、帰り道の途中、俺とばったり会ったのが最後に涙が止まらなくなってしまい今に至るというわけだ。
傷心に浸る璃黛を見ていると、見ているこっちまで悲しくなってきてしまう。それでも次に思うことは、言いようのない腹立たしさと、どうしようもない怒りだった。
そんな中で、不謹慎ながらも少しだけ喜んでいる自分がいる。
俺は、小さい頃からずっと一緒に育ってきた璃黛のことが大好きで、その想いは高校生になった今でも変わることがない。
以前、「彼氏が出来た。」と聞いたときはさすがに泣きそうになったけど、やっぱり璃黛が安心できるのは、俺のところなんじゃないのかという錯覚さえ起こさせる。それ程までに、自分はこの一橋璃黛という女の子のことが大好きなのだ。
その璃黛が、彼氏に傷つけられて傷心しきっている。これは、俺に巡ってきた絶好のチャンスだと思った。
「……ね、璃黛。俺、今からすっごいズルいことするけど……いいよね?」
そう言うが早いか、彼女が「何?」と聞き返すよりも早く、俺は璃黛を抱きしめた。
璃黛は急なことにびっくりしていたが、我に返ってからは俺の腕の中でジタバタと、もがいていた。
「まこ、離して…よ……!」
「それはちょっと無理かな。」
「なん、で、…離して、困る!」
「……あの、さ。俺、ずっと璃黛のこと好きだった。」
「……は……?!」
「小さい頃からずっと。だからさ、そんな彼氏とさっさと別れて、俺のところに来なよ。俺なら、絶対に璃黛を泣かせたりなんか……しない。」
そう言って璃黛を見ると、ポカンとした後に、再び目にいっぱいの涙を溜めていた。
そして、「真琴、それ……ズルい。」と言いながら、充分に腫らした目を擦って涙を拭っていた。
「真琴……それ、本当にずるい。今そんなこと言われたら……真琴の、その言葉に…甘えちゃうじゃん……!」
「俺は存分に甘えて欲しくて言ってるから。だから璃黛、さっさと俺のものになってよ。」
近くにあった璃黛の頭に唇を寄せるようにそう言えば、璃黛は遠慮がちに、俺の服の裾を掴んでいた。
もう、離さない。
他の男なんて見なくていい。
ずっと、ずっと、俺だけ見ててよ。
そんな思いをぶつけるように、強く、強く、俺は璃黛の身体を抱きしめた。
2014.09.22
修正 2016.07.22
他の男なんて見なくていい