年末年始は相も変わらず働き詰めだった。
例年通り、一般とは少しずれた休みを取って、今年こそは生まれ育った地元へ帰省するつもりでいた。

電車を乗り継いで7時間弱。正午過ぎは快晴だったのに、特急を降りる頃には辺りは暗く、空は夕闇を迎え入れようとしていた。
冬場は日の入りがとにかく早い。そんな冬特有の日の短さを感じた途端、いじわるするかのように吹いた寒風が油断していた身に染み入った。
白く色付いた息を目で追うついでとばかりに辺りを見回す。
いつもと変わらない、見知った空間だと気づくと、やっと帰ってきたのだと安心することができた。長い道のりだと感じたけれど、昔に比べれば早いものだった。

学生の頃は安さ重視とばかりに、よく夜行バスを利用していたものだ。どうせ時間がかかるのだから、その間に寝てしまおうと思うところが若者ゆえの発想である。
あの硬い座席に10時間以上も座りっぱなし且つ、どれだけ揺られても苦に感じなかったのだから、若いというのがいかに凄いかを痛感する。今では到底考えられないことだけど。

ガタンゴトンと音を鳴らしていた電車が、車体をゆっくりと揺らしながら速度を緩めはじめていたことを認識する。
ふと、故郷に足を踏み入れるのが、社会人になってからまだ2度目だということに気がついた。最後に帰ったのは3年ほど前のこと。私も今年で25歳。月日の流れは容赦なく、それはとても残酷であることを実感する。
周りの友人はいつの間にか旦那を見つけて結婚しているし、だいたいが子供までいる始末。夫婦円満なのは喜ばしいことだけど、今の自分には少しばかり耳が痛い。

何故なら、私は先月の頭に彼氏にふられたばかりであった。傷心に浸る間もなく、これで心置きなく仕事に集中できると開き直ったことはまだ記憶に新しい。
寂しさが理由だったわけだけど、まさか自分が「仕事と恋人、どっちが大事なのか」なんて言われるとは思ってもみなかった。
もちろん仕事と答えた私は薄情だったかもしれないと後になって思ったが、当時は猫の手も借りたいほど忙しかったのだから仕方がないと思いたい。

そんなこともあって、【結婚】と聞くと、どこか羨ましく感じると同時に心にずしりとくるものがあるのも確かであった。
決して比べたいわけではないけれど、世間一般の適齢期といわれる時期に、恋愛“ごっこ”を繰り返している私にとっては耳の痛い話だということには変わりはなかった。
慎重。悪く言って臆病。それが悪いことではないのは確かだが、のめり込んでしまった先に周りが見えなくなるかもしれない可能性を考えると、瞬時に気持ちに靄がかかってしまう。それには依存するのが怖いというベースがあって、一定を過ぎると深手を負いたくないと無意識のうちに守りに入ってしまうクセでもあった。前例があるから尚更である。
その結果、失恋に慣れきった今があるわけだが、初恋で死にかけたことに比べれば随分と逞しくなったものである。

改札を抜けてから、懐かしい通学路に沿って帰路に着いているせいか、苦い過去ばかりを思い出す。今も昔も、恋愛だけ上手くいってないことに気がついて、ついつい溜息が漏れて出た。
そういえば、あの子はどうしているのだろう。
記憶にぽっと顔を出したのは、笑うと八重歯が印象的だった男の子。彼が幼少の頃からの馴染みであったが、最後に会ったのはいつだっただろう。ううんと頭をひねって、埋もれた記憶を掘り起こした。
あれは確か、彼が高2のときだったか。そうだ、そうだ。就職活動が思いの外早く終わってひと段落し、せっかくだから地元の海でバイトでもしようかと早めに帰省した夏のことだ。
ぽつり、ぽつりと巡る記憶に、あの頃にもらった彼の言葉も思い出す。なんだか今日は懐かしい気持ちになってしまうと、少しだけ顔が綻んだ。
ガラガラと音を出して転がるキャリーケースを引きながら、いろいろなことを思案した。音沙汰がないのをいいことに彼の元気な姿も想像する。きっと今も、水泳は続けているに違いない。それだけは、根拠のない自信があった。

「凛、くんは、どんな大人になってるだろう……」

寒空の下で声に出したとき、風に吹かれた髪がなびいた。鞭のようにしなる毛束を、邪魔にならないように耳にかけてしまい込む。
不意に、対向してくる男性も自分と同じようにして、長めの前髪を耳にかけた姿が目についた。

その仕草にどこか懐かしさを感じたのは、なぜだろう。


2016.08.04
たからばこのきおく


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