10月31日はハロウィン。
その日に開催されるライブは、もうそこまでというところまできていた。日どりも、もうそんなにない。イベントが始まってしまえば、あっちにこっちに大忙しで、走りまわることになるというのは目に見えていた。
だから、今日くらいしか余興を楽しめる時間がないなって思って、睡眠時間を削りに削って衣装をこしらえてみたのに、それをお披露目した反応はだいぶ薄いものだった。

「ええ……なに、そのかっこう……」

彼女の成りを眺めるなり、朔間凛月はそう述べた。

「あの、もうすぐハロウィンだから、それで。……どうでしょう?」
「それ、作ったわけ?」
「うん。変かな」
「んん〜……んー……」

もういちど、彼女の姿を一瞥する。
多分、イメージしたのはカボチャだろう。全体的にオレンジでまとまっているし、パッと見の印象がそれだった。
きちんと女の子らしく、スカートにはシフォンがあしらわれている。
かわいいをたくさん詰めこんだ自信作なのだろう。装飾に始まり、刺繍など、細部が無駄に凝っていた。

それらをすべて目に留めて、彼女の顔に目を向ける。
恥ずかしそうでありながら、期待するような瞳がこちらに向けられていたことに、いま気がついた。
変に濁してしまった続きを待っているのだろう。健気というか、お行儀がいいというか、そういうところを見せられると、身体の奥のほうがむずむずするような感じになるから、困る。

「んん、良いんじゃない〜?」

その言葉ひとつで、下がりぎみだった表情に光がさした。
あまりに嬉しそうにするものだから、少しだけ加虐心が湧きあがる。
彼女はきっと、何も持っていない。それを分かっていて、その決まり文句を音にした。

「ねぇ。とりっく・おあ・とり〜と〜♪」

意地悪するつもりの顔を隠しもせずひけらかして、ふわりと広がるスカートの先っちょをひっぱった。
困惑している様子の顔が、そのぶんちょっとだけ前に出る。

「えぇ、まだ早いと思うんだけど……」
「当日は忙しくなるのが分かってるからいま着たんでしょ? だったら、別に早くもないじゃん」
「でも私、何も持ってないし……いきなり言われても困るんだけど……」

少しだけうつむいてしまった彼女のつむじを眺めながら、にやけてしまうのを抑えられなかった。
だって、何も持っていないのも、そう言われて困ることも、ぜんぶ分かってたことなのだから。

「飴とかも、持ってないわけ?」
「んー……ない。教室の机のなかに入れっぱだ」
「ふ〜ん。いつもは持ち歩いてるくせに、めずらしいねぇ……?」
「もしかして凛月くん、食べたかった?」
「べつに〜」

興味なさげに語尾を伸ばしながら、目線をそれにさげた。
やさしくたゆむ、やわらかな布地。そのすそを掴んだまま、指先で引いてはずませてあそぶ。
くい、くい。くい、くい、くい。

「……あの、凛月くん?さっきからなに?」

しびれを切らした彼女のほうが、先に口をひらいた。
くい、くい。彼女も一緒になって、その動作を眺めていたと思う。いや、見てないから分からないけど。でもたぶん、視線は同じところにあったと思う。
それでも、手を止めようとは思わなかった。

しばらく続けて、はたとする。彼女はまた、言葉の続きを待っているのかもしれない、と。
手触りのいい生地から目を離して見ると、視線がかち合った。やっぱり、彼女も見つめていた。
その、何とも形容しがたい顔に、また身体の奥のほうがむずむずする。なんだろう、これ。変な感じ、としか言い表しようがない。
それを伝えようかと思って、やっぱりやめた。

「……いたずら。どうしよ〜かなって」

くい。
最後にいちどだけ強くひっぱって、彼女の領域から手を離した。
それから、ふたりの間に言葉はない。どちらも下をむいているだけだった。
ふと、先ほど解いたばかりの布に目がいった。深い意味はない。ただ、何となく目についただけ、だ。
長く押さえこんでいたせいか、なめらかなそれの先は、少しだけ歪になってよれてしまっていた。

2016.10.28
Happy Halloween ☆
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