年末。毎年、歌番組をみるかバラエティ番組をみるかで、どこの家庭でも一度はチャンネル争いをした経験があると思う。かくいうわたしもその経験者のひとりである。
 うちでは毎年、歌番組は録画して、バラエティ番組を優先することに落ち着いていた。だがあるときから、いつのまにか歌番組が優先されるようになっていた。それは、わたしが夢ノ咲学院へと転入してからだったような気がする。
 プロデューサーという仕事が少しずつ板についてきて、プロデュースさせてもらったアイドルが年末の生放送に出演することが決まった。その年から毎年、歌番組をみながら年を越すことが当たり前になっていったのかもしれない。そして今年の年末も、変わらず家族で歌番組をながめていた。
 有名な歌手、話題になったアーティストやアニメの主題歌。放送時間内で、色んなジャンルが入り混じる。そしてもうすぐ、男性アイドルグループの『Knights』のメドレーが幕をあける。司会と会話をする彼らをながめながら、わたしは手に汗をにぎる思いだった。
 夢ノ咲学院を卒業してから、わたしはいわゆる『普通の人』になっていた。だからこうやって、年末に家族でテレビをみながら団らんをすることができている。一般になったからといって、夢ノ咲で築いた友情を無にしたわけでは決してない。深い輪で繋がることができた人たちとは、住む世界が違ういまでも変わらず連絡を取り合っていたりする。
 Knightsのメンバーとはつい最近、本物の『セナハウス』にお呼ばれして遅いクリスマスを一緒に過ごさせてもらったばかりである。学生のときのクリスマスを思い起こすようで、すごく楽しい時間だった。そんなことを思い出しながら、わたしは画面越しのみんなをながめていた。
 司会者の機転で話題は司くんへと向けられてはいたが、当の彼は年長者にいじられていた。末っ子だからス〜ちゃんはいつまでもス〜ちゃんのままだよ、と言っている凛月くんは夜だからか元気そう。スオ〜はいつまでも甘えんぼさんでちゅね〜と、レオさんが更にあおっている。その横でナルちゃんが司会の男の人に猛アプローチをし始めた。相変わらずみんなが自由でマイペース。そう思っていると、いいかげんにして、と言って泉さんが全員をまとめてくれる。だけどその顔は、笑っているのに怒っていた。身近な人にしか分からないようなやつで、全体の雰囲気も引き締まる。こんなにちぐはぐなのに何年も一緒に活動しているのだから、なんだかんだで波長が合うんだろうなあと思った。


 数分で終わってしまった出番だったけど、つたない言葉で表すなら最高だったのひとことしかない。『いつもの』も『定番』も『新曲』もあって、選曲もとてもよかったと思う。
 生放送だと分かっていても、感想を送らずにはいられなかった。スマートフォンの画面をフリックして、ゲームアプリからメッセージアプリに変えて最新のトークルームをひらく。タップすると、数時間前にやり取りしたメッセージが現れた。最後はわたしの「いつも通りでがんばってください。生放送、楽しみです!」と送ったものに既読がついて終わっていた。それに連投するかたちで、おつかれさまでしたと少しの感想を送信する。ほっとして顔をあげると、テレビはCMを映していた。

「ちょっとだけチャンネル変えるぞ〜」

 そう言って、お父さんがテレビのリモコンを操作する。
 画面が、年末特番のバラエティ番組に変わる。お笑い芸人5人をメインで構え、笑ったらケツバットをされるという毎年恒例のあのシリーズ。いまは広いグラウンドのようなところで鬼ごっこをしているみたいだった。
 筋肉さんの代理は今回、誰なんだろうと興味が少しだけテレビに向く。そしてすぐに、予想もしていなかった人が鬼に捕えられたシーンが映った。えっ、の声を出す間もなくいつものアウトの音が画面で鳴る。デデーン。それと同時に『瀬名OUT』の赤い文字。

「あれ? さっき歌ってたグループのひとりじゃないか?」

と、いつもは冴えないお父さんが気がついた。
 その言葉に、ゲームに夢中だった弟が顔をあげてテレビをみる。夢ノ咲学院の普通科に通っていた弟が、泉さんのことを知らないはずがなかった。

「あ、姉ちゃんと仲いい先輩じゃん。バラエティ出てるとこ、初めてみた」
「あら、ほんと。泉くんじゃない。さっきのアイドルしてるのもかっこよかったけど、こういうのに出ててもやっぱりかっこいいわねぇ〜」
「イケメンは何してもかっこいいからな〜」
「あんたもゲームばっかりしてないで、少しは見習ってみたらどう? お母さんとお父さんの子だから、そんなに顔は悪くないと思うわよ〜?」
「母さんそれ、自分で言っちゃうんだ」

 弟とお母さんが会話をしているのを聞きながら、わたしの顔はテレビとスマートフォンを往復する。見てしまったと、連絡を入れるべきか迷っていた。
 さっき、あんなにきれいなステージで歌って踊って、たくさんの女の子たちを虜にしていたというのに。いまの泉さんは、スリッパと書かれた全身タイツの鬼に、よく見るような色のスリッパで丁寧にセットしたであろう頭を叩かれていた。痛そう。すごくいい音がした。
 呆然とテレビをながめながら、らしくないなと思う。泉さんってやっぱりプライドが高い人だし、美にもこだわるような人だから、バラエティ番組系は絶対にやらないと思っていた。宣伝ついでにKnightsのみんなで出演というのはたまにあったけど、ひとりでやることはまずないだろうと根拠のない自信さえあった。
 それなのに、泉さんはいまバラエティ番組にひとりで出ている。汗をかくのが嫌いなはずなのに、鬼ごっこ枠で。以前から何かしらバラエティへのオファーはあったんだと思うけど、なんでこんなに過酷そうなものを受けたんだろう。それだけがすごく謎だった。
 そういえば、と少し前のことを思い出す。遅めのクリスマスパーティにお呼ばれしたときから、年末にチャンネルはあまり変えるなと泉さんに口酸っぱく言われたような気がする。思い返してみれば、レオさんと凛月くんがやたらとニヤついていた。ふたりは、泉さんがひとりでバラエティ番組に出ることになったと知って、おもしろがっていたのかもしれない。
 とりあえず見てしまったことを言わなくてはと思い、メッセージアプリを起動する。一覧から『泉さん』をタップして個人のトークルームをひらく。何から書こうか迷ってしまって、「おつかれさまです」から一向に言葉が続かなかった。


2018.01.01
A happy new year ☆
拍手お礼2


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