※活劇本丸に飛ばされる話 その2
結論から言うと、わたしは審神者会議集会の会場へに行くどころか、別の時空に存在する本丸へ転送されてしまったらしく、更に今すぐ帰ることができないようだった。事情を聞いた此処の審神者さんも、わたしが飛んでくるきっかけや前兆などはなかったと、一緒に頭を悩ませてくれたけれど、解決方法は思い浮かばなかった。
とにかく、自分の本丸が別の時空に存在している以上、何れは強制帰還ということで再転送されるだろうと結論付けて、何か気づいたことがあったら報告し合うことを約束して、話は一旦落ち着いた。本丸の存在している場所自体が不思議な空間なのだ。どんな出来事が起きても不思議じゃないと呟いた審神者さんに、思わず大きく頷いてしまう。それは確かに。便利ではあるけれど、本当になんでもありだものね。
彼は、三日月宗近のように不審人物と判断して斬りかかってくる刀が出てこないよう、皆が集まる食堂で、わたしと鶴丸のことは、此処に暫く滞在する自分の客人だと紹介してくれた。他の本丸の様子を知ることは、確かに今後の為になるから、不審に思う刀はいないだろうとのことだ。本丸の中なら、どこへ出歩いても良いと許可もくれた。……すんなり、許し過ぎではないのだろうかと、少しだけ不安に思ってしまったことを隠さず伝えれば、本丸を案内してくれていた彼は、だって、と振り向きながら微笑む。幼くも、綺麗な笑みだなあと、ぼんやり思った。
「あの時、一歩間違えれば切られていたかもしれないというのに、貴女は、刀は抜くなと命じました。貴方を守ろうとした鶴丸国永も、主に刃を向けられたというのに、私や三日月さんに斬りかかろうとはせず、貴女の意思を尊重した……。その確かな主従関係があるというだけで、審神者として、信用に足るには十分だと思いませんか?」
「……本当は俺と主が悪人で、わざと此処に忍び込んで来たのかもしれないぜ?」
「おや。その時は……そうですね。私の全勢力を持って、お相手しましょう」
「ははは! そりゃ、勝てないな!」
「も、もう……! ありがとうございます、審神者さん。帰れるまでの間、お世話になります」
「礼には及びません! 困ったときはお互い様です。私の方でももう少し、色々と探ってみますね。こんのすけに頼めば、貴女の本丸のこんのすけを探すことが出来るかもしれませんし……。……それにしても」
審神者さんが、困ったように眉を下げる。使われていなかったという空き部屋へ案内され、置かれている座布団に腰を下ろした。この本丸に滞在する間は、此処を自室として使って良いとのことだ。本丸内は安全とはいえ、今此処に居るわたしの刀は、鶴丸だけだ。同室を希望する鶴丸に、審神者さんはもちろんですと頷いていた。
机を挟んで向かい合うように座布団に座った彼が、どちらもお互いを審神者さんと呼び合うのは、少しややこしいですねと首を捻るから、初めて審神者様と呼ばれた時の事を思い出して、思わず苦笑してしまう。
彼に審神者様、と呼ばれるのは……、わたしよりも霊力の強い審神者から様を付けられてしまうのは、どうにも落ち着かないからと、審神者様呼びをやめてもらったのは良いけれど。確かに、審神者さんと呼び合っていたら、周りの刀たちは余計に混乱するだろう。こういうとき、名前を明かせないというのは不便だなあと、心底思う。
「なら、わたしは白の人とお呼びください」
「白の、人?」
「ええと、友人である別の審神者さんに……、そう呼ばれているんです」
「成る程。なら、白さんとお呼びしますね」
「白さん……」
新しい呼び方だ。鶴丸の人、から、随分変わっていったものだなあと小さく笑う。ではそれで。と頷いてから、私はどうしようかと考えを巡らせる彼に、わたしも首を捻る。
彼の容姿で何より目を引くのは、綺麗な淡い桃色の髪だった。とはいえ、幼く見えても男性なのだし、桃色の名をつけるのは躊躇われる。けれど紫や赤、とはまた印象が違うし……。
二人してううむ、と唸っていると、黙ってわたし達の会話を聞いていた鶴丸が、「紺桔梗……桔梗、なんてのはどうだ?」と唐突に言葉を紡いだ。
「こんききょう?」
「……三日月宗近の色に近い、ですね」
「おっ、よく分かったな! そうだ、紺桔梗。そのままだと呼ぶには長いだろう? 紺を消して桔梗。これならあいつも、君の名が、まさか自分から来てるなんて思わないだろうさ」
どこかしたり顔でそう言う彼に、ふすりと笑った。これは絶対、斬りかかって来られたこと、ものすごく根に持ってる。あの後三日月宗近からはすまなかったなと謝罪を受けたけれど、鶴丸は全く許していないようだ。仕方なかったと思うのだけれど。審神者部屋で小さく呟いたわたしの言葉に、「きみ、……きみは、ほんっとうに……! もう少し! 危機感をだなあ……!」なんて、ものすごく怒られてしまったので、今は口を閉ざしておくことにする。
鶴丸の言葉に微笑んでいた彼を、試しに桔梗さん、と彼を呼ぶと、ほろりと砕けるように表情を緩めて、なんだか照れくさいですねとはにかんだ。
――彼から感じられる霊力は、さほど能力の高くないわたしにも分かってしまう程に、とても強い。この本丸も、少し歩いただけでも分かるくらい、神聖な空気がぴっしりと漂っていた。本当に力の強い、審神者なのだろう。わたしでは辿りつけそうにない強さが羨ましくもあり、恐ろしくもあり、頼もしくもあり。
けれど、こうして話しながら笑う彼の表情は、どうあっても人間のそれなのだ。わたしよりも幼い、少年の表情だ。その笑顔に安心感を覚えてしまうこの不思議な感覚は、刀である彼らに感じるそれと酷く似ていて。"審神者"という、普通とは違う力の本質を改めて見てしまった気がして。……少しだけ、切なくなった。
――――
「あっ、お客さん、ですよね? こんにちは!」
「こ、こんにちは」
「よっ、邪魔するぜ」
この本丸に飛ばされてきてから、二日が経った。特に変わった様子もなく、わたしは未だに彼――桔梗の審神者さんの本丸に滞在している。
此処に来て驚いたのは、刀達を過去へ転送する出撃の方法や、出撃する部隊のメンバーが固定されていること……それこそ、本当に部隊として成り立っていることだった。審神者によっていろいろある、というのを実際に目の当たりにしてみると、こうまで違うのかと少しばかり戸惑う。一番洗礼されているという、第一部隊である六振りは、遠目からでも練度の高さが見て取れた。その六振りの中には、初日に出会った三日月宗近もいたものだから、あの強さにも納得できるというものだ。
第二部隊に配属している六振りは、昨日出陣から帰還したらしく、今日会いに行ってみようかという話になった。審神者会議には行けなかったけれど、こうして実際に他の審神者がどんな部隊を組んでいるのかを見ることが出来るのは、本当に貴重な経験だ。そう割り切ってしまえば、この不可思議な転送も意味があったように思える。第二部隊にも会ってみたいと言ったわたしに、桔梗の審神者さんはどこか複雑そうな表情をしていたけれど。……どうしてだろう。
ところで、此処の本丸は、冬ではなく春の景趣に設定されている。聞けば、冬は少し前に終わったのだとか。わたしと桔梗の審神者さんの四季の感じ方が違うのか、……それとも、もしかすると、時空だけではなく、時間も狂って転送されてしまったのかもしれない。暫くマフラーも上着もいらないからと、それらは借りている部屋の壁に掛けているのだけど。なんだかその壁だけ、季節が冬に切り取られているようで、変な感覚だ。
自分の本丸とは全く違う内装や庭を興味深く眺めながら、鶴丸と二人で春の香りがする廊下をゆったり歩いていると、鍛練場からひょっこり顔を出してきた、堀川国広がぱっと表情を明るくする。第二部隊に配属している刀の一部が鍛練場に集まっているとは聞いていたから、きっと彼がそうだ。向こうもわたし達のことは聞いていたらしい。すぐさま出てきて挨拶してくる彼は、わたしの本丸に居る堀川くんと変わらず、礼儀正しい刀だ。
堀川国広に軽く挨拶をして、「見学ですか? どうぞ!」と招いてくれた彼の言葉に甘えて、自分の本丸でもよく聞いた……木刀同士がぶつかり合う、軽くも硬い音が響くそこを覗かせてもらうことにした。
ちらりと顔を覗かせた……と同時に、後ろで小さく「へえ」と少しだけ驚きの混じる声がして。わたしも、思わず間抜けな声をあげてしまった。……桔梗の審神者さんが苦笑を浮かべていたのは、きっとこの事だったんだろうと、瞬時に理解する。
向こうも視線に気づいたのだろう。ちらりとこちらに目線を寄越すと、しかし次には目をまんまるくして、「これは驚いたなあ!」と言いながら、手合わせ相手と鍔迫り合いをしていたその力をがくんと緩めたようで。相手をしていた刀……和泉守兼定が、素っ頓狂な声をあげながら、勢いのまま転びそうになっていた。……申し訳ないことをしてしまった気がする。
「なんっ、おいおい、なんだよ急に……。って、おお! あんた主の!」
「は、はい、お邪魔させてもらってます。えっと、第二部隊の方々……で、合ってますか?」
「ええ、合ってますよ! 此処にいるのが全員ではないんですけど……」
堀川国広の言葉に、確かに三振りしかいないものねと頷く。和泉守兼定は興味深そうにわたし達を見て、他の審神者が来てるってのは本当だったんだなと呟いた。第二部隊の他の刀にはまた後で会いに行こう。密かにそう思っていると、聞き慣れた……けれど、すぐ隣にいる彼のものではない声に、反射的に顔を上げる。……この本丸の、鶴丸国永だ。
「お客人の連れていた刀ってのは、鶴丸国永だったんだなあ! こりゃ驚きだぜ」
「演練で同じ顔を見るのは珍しくもなんともねえが、本丸で見るとまた……不思議な感覚だな」
「あー……、すまんが耐えてくれると助かる。別の刀に変装するわけにもいかんしなあ」
「変装って、客人にそこまで求めねえって……!」
「あはは! ……でも、見間違えたりはしなさそうだよ?」
堀川国広の言葉に、確かに。と此処の二振りが頷く。鶴丸国永はラフな袴姿をしているけれど、わたしの神様である鶴丸は、その恰好に加えていつもの真っ白な羽織を着て、わたしが贈った琥珀色の耳飾りをしている。パッと見でも見分けはつくだろう。
俺も着飾ってみるか? なら見立ててやろうか。そんな言葉を交わす鶴丸国永と和泉守兼定の二振りを見て、良い部隊なんだろうなと目を細め、呟いた鶴丸に、堀川国広が「ええ、とても!」と嬉しそうに笑った。釣られて頬を緩めながら、此処に鯰尾がいたなら、二人のチームワークを見せてあげられたのにと、思ってしまった。それが叶わないのが、少しだけ、残念だ。
結論から言うと、わたしは審神者会議集会の会場へに行くどころか、別の時空に存在する本丸へ転送されてしまったらしく、更に今すぐ帰ることができないようだった。事情を聞いた此処の審神者さんも、わたしが飛んでくるきっかけや前兆などはなかったと、一緒に頭を悩ませてくれたけれど、解決方法は思い浮かばなかった。
とにかく、自分の本丸が別の時空に存在している以上、何れは強制帰還ということで再転送されるだろうと結論付けて、何か気づいたことがあったら報告し合うことを約束して、話は一旦落ち着いた。本丸の存在している場所自体が不思議な空間なのだ。どんな出来事が起きても不思議じゃないと呟いた審神者さんに、思わず大きく頷いてしまう。それは確かに。便利ではあるけれど、本当になんでもありだものね。
彼は、三日月宗近のように不審人物と判断して斬りかかってくる刀が出てこないよう、皆が集まる食堂で、わたしと鶴丸のことは、此処に暫く滞在する自分の客人だと紹介してくれた。他の本丸の様子を知ることは、確かに今後の為になるから、不審に思う刀はいないだろうとのことだ。本丸の中なら、どこへ出歩いても良いと許可もくれた。……すんなり、許し過ぎではないのだろうかと、少しだけ不安に思ってしまったことを隠さず伝えれば、本丸を案内してくれていた彼は、だって、と振り向きながら微笑む。幼くも、綺麗な笑みだなあと、ぼんやり思った。
「あの時、一歩間違えれば切られていたかもしれないというのに、貴女は、刀は抜くなと命じました。貴方を守ろうとした鶴丸国永も、主に刃を向けられたというのに、私や三日月さんに斬りかかろうとはせず、貴女の意思を尊重した……。その確かな主従関係があるというだけで、審神者として、信用に足るには十分だと思いませんか?」
「……本当は俺と主が悪人で、わざと此処に忍び込んで来たのかもしれないぜ?」
「おや。その時は……そうですね。私の全勢力を持って、お相手しましょう」
「ははは! そりゃ、勝てないな!」
「も、もう……! ありがとうございます、審神者さん。帰れるまでの間、お世話になります」
「礼には及びません! 困ったときはお互い様です。私の方でももう少し、色々と探ってみますね。こんのすけに頼めば、貴女の本丸のこんのすけを探すことが出来るかもしれませんし……。……それにしても」
審神者さんが、困ったように眉を下げる。使われていなかったという空き部屋へ案内され、置かれている座布団に腰を下ろした。この本丸に滞在する間は、此処を自室として使って良いとのことだ。本丸内は安全とはいえ、今此処に居るわたしの刀は、鶴丸だけだ。同室を希望する鶴丸に、審神者さんはもちろんですと頷いていた。
机を挟んで向かい合うように座布団に座った彼が、どちらもお互いを審神者さんと呼び合うのは、少しややこしいですねと首を捻るから、初めて審神者様と呼ばれた時の事を思い出して、思わず苦笑してしまう。
彼に審神者様、と呼ばれるのは……、わたしよりも霊力の強い審神者から様を付けられてしまうのは、どうにも落ち着かないからと、審神者様呼びをやめてもらったのは良いけれど。確かに、審神者さんと呼び合っていたら、周りの刀たちは余計に混乱するだろう。こういうとき、名前を明かせないというのは不便だなあと、心底思う。
「なら、わたしは白の人とお呼びください」
「白の、人?」
「ええと、友人である別の審神者さんに……、そう呼ばれているんです」
「成る程。なら、白さんとお呼びしますね」
「白さん……」
新しい呼び方だ。鶴丸の人、から、随分変わっていったものだなあと小さく笑う。ではそれで。と頷いてから、私はどうしようかと考えを巡らせる彼に、わたしも首を捻る。
彼の容姿で何より目を引くのは、綺麗な淡い桃色の髪だった。とはいえ、幼く見えても男性なのだし、桃色の名をつけるのは躊躇われる。けれど紫や赤、とはまた印象が違うし……。
二人してううむ、と唸っていると、黙ってわたし達の会話を聞いていた鶴丸が、「紺桔梗……桔梗、なんてのはどうだ?」と唐突に言葉を紡いだ。
「こんききょう?」
「……三日月宗近の色に近い、ですね」
「おっ、よく分かったな! そうだ、紺桔梗。そのままだと呼ぶには長いだろう? 紺を消して桔梗。これならあいつも、君の名が、まさか自分から来てるなんて思わないだろうさ」
どこかしたり顔でそう言う彼に、ふすりと笑った。これは絶対、斬りかかって来られたこと、ものすごく根に持ってる。あの後三日月宗近からはすまなかったなと謝罪を受けたけれど、鶴丸は全く許していないようだ。仕方なかったと思うのだけれど。審神者部屋で小さく呟いたわたしの言葉に、「きみ、……きみは、ほんっとうに……! もう少し! 危機感をだなあ……!」なんて、ものすごく怒られてしまったので、今は口を閉ざしておくことにする。
鶴丸の言葉に微笑んでいた彼を、試しに桔梗さん、と彼を呼ぶと、ほろりと砕けるように表情を緩めて、なんだか照れくさいですねとはにかんだ。
――彼から感じられる霊力は、さほど能力の高くないわたしにも分かってしまう程に、とても強い。この本丸も、少し歩いただけでも分かるくらい、神聖な空気がぴっしりと漂っていた。本当に力の強い、審神者なのだろう。わたしでは辿りつけそうにない強さが羨ましくもあり、恐ろしくもあり、頼もしくもあり。
けれど、こうして話しながら笑う彼の表情は、どうあっても人間のそれなのだ。わたしよりも幼い、少年の表情だ。その笑顔に安心感を覚えてしまうこの不思議な感覚は、刀である彼らに感じるそれと酷く似ていて。"審神者"という、普通とは違う力の本質を改めて見てしまった気がして。……少しだけ、切なくなった。
――――
「あっ、お客さん、ですよね? こんにちは!」
「こ、こんにちは」
「よっ、邪魔するぜ」
この本丸に飛ばされてきてから、二日が経った。特に変わった様子もなく、わたしは未だに彼――桔梗の審神者さんの本丸に滞在している。
此処に来て驚いたのは、刀達を過去へ転送する出撃の方法や、出撃する部隊のメンバーが固定されていること……それこそ、本当に部隊として成り立っていることだった。審神者によっていろいろある、というのを実際に目の当たりにしてみると、こうまで違うのかと少しばかり戸惑う。一番洗礼されているという、第一部隊である六振りは、遠目からでも練度の高さが見て取れた。その六振りの中には、初日に出会った三日月宗近もいたものだから、あの強さにも納得できるというものだ。
第二部隊に配属している六振りは、昨日出陣から帰還したらしく、今日会いに行ってみようかという話になった。審神者会議には行けなかったけれど、こうして実際に他の審神者がどんな部隊を組んでいるのかを見ることが出来るのは、本当に貴重な経験だ。そう割り切ってしまえば、この不可思議な転送も意味があったように思える。第二部隊にも会ってみたいと言ったわたしに、桔梗の審神者さんはどこか複雑そうな表情をしていたけれど。……どうしてだろう。
ところで、此処の本丸は、冬ではなく春の景趣に設定されている。聞けば、冬は少し前に終わったのだとか。わたしと桔梗の審神者さんの四季の感じ方が違うのか、……それとも、もしかすると、時空だけではなく、時間も狂って転送されてしまったのかもしれない。暫くマフラーも上着もいらないからと、それらは借りている部屋の壁に掛けているのだけど。なんだかその壁だけ、季節が冬に切り取られているようで、変な感覚だ。
自分の本丸とは全く違う内装や庭を興味深く眺めながら、鶴丸と二人で春の香りがする廊下をゆったり歩いていると、鍛練場からひょっこり顔を出してきた、堀川国広がぱっと表情を明るくする。第二部隊に配属している刀の一部が鍛練場に集まっているとは聞いていたから、きっと彼がそうだ。向こうもわたし達のことは聞いていたらしい。すぐさま出てきて挨拶してくる彼は、わたしの本丸に居る堀川くんと変わらず、礼儀正しい刀だ。
堀川国広に軽く挨拶をして、「見学ですか? どうぞ!」と招いてくれた彼の言葉に甘えて、自分の本丸でもよく聞いた……木刀同士がぶつかり合う、軽くも硬い音が響くそこを覗かせてもらうことにした。
ちらりと顔を覗かせた……と同時に、後ろで小さく「へえ」と少しだけ驚きの混じる声がして。わたしも、思わず間抜けな声をあげてしまった。……桔梗の審神者さんが苦笑を浮かべていたのは、きっとこの事だったんだろうと、瞬時に理解する。
向こうも視線に気づいたのだろう。ちらりとこちらに目線を寄越すと、しかし次には目をまんまるくして、「これは驚いたなあ!」と言いながら、手合わせ相手と鍔迫り合いをしていたその力をがくんと緩めたようで。相手をしていた刀……和泉守兼定が、素っ頓狂な声をあげながら、勢いのまま転びそうになっていた。……申し訳ないことをしてしまった気がする。
「なんっ、おいおい、なんだよ急に……。って、おお! あんた主の!」
「は、はい、お邪魔させてもらってます。えっと、第二部隊の方々……で、合ってますか?」
「ええ、合ってますよ! 此処にいるのが全員ではないんですけど……」
堀川国広の言葉に、確かに三振りしかいないものねと頷く。和泉守兼定は興味深そうにわたし達を見て、他の審神者が来てるってのは本当だったんだなと呟いた。第二部隊の他の刀にはまた後で会いに行こう。密かにそう思っていると、聞き慣れた……けれど、すぐ隣にいる彼のものではない声に、反射的に顔を上げる。……この本丸の、鶴丸国永だ。
「お客人の連れていた刀ってのは、鶴丸国永だったんだなあ! こりゃ驚きだぜ」
「演練で同じ顔を見るのは珍しくもなんともねえが、本丸で見るとまた……不思議な感覚だな」
「あー……、すまんが耐えてくれると助かる。別の刀に変装するわけにもいかんしなあ」
「変装って、客人にそこまで求めねえって……!」
「あはは! ……でも、見間違えたりはしなさそうだよ?」
堀川国広の言葉に、確かに。と此処の二振りが頷く。鶴丸国永はラフな袴姿をしているけれど、わたしの神様である鶴丸は、その恰好に加えていつもの真っ白な羽織を着て、わたしが贈った琥珀色の耳飾りをしている。パッと見でも見分けはつくだろう。
俺も着飾ってみるか? なら見立ててやろうか。そんな言葉を交わす鶴丸国永と和泉守兼定の二振りを見て、良い部隊なんだろうなと目を細め、呟いた鶴丸に、堀川国広が「ええ、とても!」と嬉しそうに笑った。釣られて頬を緩めながら、此処に鯰尾がいたなら、二人のチームワークを見せてあげられたのにと、思ってしまった。それが叶わないのが、少しだけ、残念だ。
18.12.14