■疑心のカツ丼
目の前に出されるは丼。
香ばしい狐色の衣に包まれるは肉。
彼らの仲を取り持つはキャベツ。
「そ、それは…KA-TSU-DON…!」
「これを食べたかったら正直に全て吐くんだな」
「なんでも聞いてください!!!」
×
「ご馳走様でした」
事情聴取を受け、禄に答えられないもののどうにかカツ丼だけは死守した私は食事を終え、改めて身なりを整えた。あの後カツ丼を食す許可をいただく前に身ぐるみをまるっと全て剥がされ、今は患者服のようなものしか着ていない。なんでもマジュツレイソウがなんちゃらかんちゃらとか…よくわからないが、あの色黒男からの疑いが晴れていないということは解った。一応女子であることを考慮していただけたのか、服を剥く役はマスターと呼ばれていた女の子が買って出てくれた。私の純潔はまだ守られています。
ちなみにただいまノーブラノーパンである。あの女の子、マスターちゃん(仮)が下着を含めて予備のものを用意してくれるという。部屋に1人残されたが、部屋にひとつだけある扉の鍵は外からかけられている。それでなくとも布1枚纏っただけの超絶ラフスタイルで人目につく場所をうろつくような趣味はないので、おとなしく椅子に座って待機。
簡単に教えてもらった情報を整理すると、ここはカルデアという特別な施設で、世界は未曾有の危機に瀕していて、人類最後の砦である、らしい。随分突飛な話だ、普通なら信じられたものではない。終末思想?なんてオカルト?てなものである。しかし神隠しも吃驚なほどうっかりここに現れた自分のことを考えると、魔術も魔法もあるのかもしれない。一抹の希望「実はすべて夢だった」も捨てがたいけれども、あのカツ丼の味、食感、ジューシーな肉と米の甘み…果たして夢の中であんなパーフェクトなカツ丼を食べることができるだろうか。寧ろカツ丼に関しては夢だったら凹む。おいしかった。
…空腹感が落ち着くと、だんだん眠くなってくる。腹の皮が張ると瞼の皮が弛む、この因果関係は如何ともしがたい。許せ、サスケ。
そうしてうつらうつらしていると、いつの間にか目の前に幼い少女が居た。黒いゴスロリドレスを着ていて、大きな絵本を持っている。どこから現れたんだろう、部屋の鍵は閉まっているのに。睡魔に侵され蒙昧な頭で考えていると、少女は私の周りをぐるぐると回ってから顔を覗き込み「あなただあれ?」と首を傾げる。答えを待たずに少女はアッと声をあげ、嬉しそうににっこり笑った。
「そうだ、お茶会をするの!ちょうどよかった、招待するひとを探していたんだったわ。ね、はやくいきましょう!」
「えっ」
「オレンジペコーはお好きかしら?今日のお菓子は―――…」
そこまで言って少女はぴたりと口を閉ざし、大きな瞳に涙の膜を張らせる。
「今日のお菓子は…無くしてしまったのだった、わ。きっといたずらなチェシャーが隠し、たの、」
涙はすぐに決壊し、大粒の涙が少女のバラ色の頬を濡らしていく。それがあまりに痛々しくて見ていられず、あれこれ考えず咄嗟に口を開く。
「作ろう」
「、っ、つくる?」
「うん。ええと、今日のお菓子は何だったのかな?」
「宝石クッキー…イチゴジャムがのってるの」
「ふむふむ」
レシピを頭に思い浮かべ、それなら作れるよ!とガッツポーズを見せると、少女は歓声をあげて抱きついてきた。涙で服のへそあたりが濡れるが致し方なし、かわいいおんなのこのかわいい笑顔が見れたのだから。風邪を引いたりお腹を壊したりしたらそれはあの色黒男のせいである。
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