「おや、丁度いい所に、貴女に贈りたい物があるんですよ。」
「え、わ、ありがとうございます…!この花は…?」
法正殿が花のついた簪をくれた。綺麗な紅を色付けるその花は【センニチコウ】という名前らしい。
「とっても綺麗です…でも、いつも貰ってばかりで申し訳ないです。お返しもろくに出来ずに…。」
「いいんですよ、気にしなくて。」
へらっと笑う彼。
法正という男は恩と報復を兼ね備えると常々聞かされている。逢瀬を重ねる度に贈り物をしてくれるので、溜まりに溜まった恩をどうにかして返さなければならないと日々頭を悩ませる。
しかし嬉しい事には嬉しい、なにせ好いた男の人から貰うのだから。
最初の方は怖い方と思っていたのだが、会話を交える毎にそうでもなくなり、逆に惹かれていった。
「あ、この前頂いた布は着物の方に使わせていただきました。上品な品でしたので使い道に迷ったのですが。」
「そうでしたか、使っていただいて俺も嬉しいですよ。」
つい先日、紫色の高価そうな布を貰った、あまりにも滑らかで美しい質感に言葉を無くしてしまったのだが。
ふと我に返って上を見れば、眉をひそめる法正殿。
「…さて話が変わりますが、今貴女が考えてるコトが分かりましたよ…いえ、正確に言えば毎日思い悩んでるコト、が正解ですかね。
いずれ俺に恩返し、しなければいけないと考えてますよね?」
流石は軍師、気持ちまで読み取ってしまうのか。
バツが悪そうに伏せるななしの目、法正の中で確信に変わった。
「いいんですよ気にせずとも、確かに俺は恩を売って返してもらうと言うのを常日頃から考えてますが…思い悩み、こうして曇る顔になるのは出来るだけさせたくないですし、特に貴女には、ね。
無理せずとも平気ですから。」
「法正さん…。」
「そう、この【センニチコウ】の花言葉知ってますか?」
突然の花言葉の質問に首を傾げる。
思い返せばセンニチコウの他にもありとあらゆる花を頂いている。
見たことのない花ばかり貰っているのでセンニチコウという花も花言葉も勿論知らない。
「この花は【変わらぬ愛・不朽の愛】等を意味してるんですよ、理解出来ますか?」
愛、という言葉を聞いて身体中の熱が一気に天辺まで込み上げる。
まさか、とは思うが彼は私を好いているのでは無いかと一瞬頭を過ぎった。
会う度に贈られる花や布を考えれば可能性は無くはない。しかし好く好かないの勘違いなど甚だしい、とても口には出せなかった。ましてや相手の好みは以ての外、法正という男が何をすれば喜ぶのか等、ななしにとっては難しい話だった。
彼が欲する物、贈れる物があるとすれば、
「お気付きになりました?そうです、俺が恩返しとして欲しいのは貴女、ななし自身なんですよ。」
ななしはその言葉に思わず、え、という言葉を漏らす。構わず続ける法正。
「そして、そんな貴女にもう一つ。」
布を取り出し一歩前に出る法正、恥ずかしかのあまり思わず退いてしまいそうになったが何とか堪える。
その布から出てきたのは一輪の黄色い花。
「【ジャスミン】って言うんですが、これは」
可愛らしいその花を手に取って、耳の上の方に軽く引っ掛け私に花の飾りを施す。そしてそのまま抱き寄せて顔が耳元まで迫り、小さく、普段より低い声で囁いた。
「【あなたはわたしのもの】という意味ですよ。」
口元は弧を描き、愉しそうに笑む彼を他所に、私は嬉しさと緊張のあまり今にも意識が飛んでしまいそうな程、朦朧としていた。
(今まで意味のこもった花を贈ったが、中々分かってもらえなくてな)
(だが、こうなる事は分かっていた)