ここからアシハラへは船で行くしかない。
だから船で移動だろうなと思っていた。
まぁ案の定リカルドのおっさんからそう告げられた。
だがそう告げられた時のナマエの顔はかなり引きつっていた。
さしづめ船が苦手なんだろう。
少しからかってやる事にした。
「お前なんつー顔してんだよw」
そう言うとナマエはムッとした顔で睨みつけてきた。
んな顔してもただ可愛いだけだっつーの。
ナマエは「この海を泳いで渡れたらいいのに…」なんてブツブツ言いながら船に乗っていた。
出港して早々ギブアップを申し出るナマエ。
どんだけ苦手なんだよ…イリアの方がマシなんじゃねぇか…?
アンジュとルカに介抱されながらナマエは部屋へ向かっていった。
…ヒマだしナマエの面倒みてやっか。
まぁただオレがナマエと一緒にいたいだけなんだがな。
……んな事口が裂けても本人に言えやしねぇわ。
ノックをしてアンジュに部屋に入る許可を貰い、中に入った。
ナマエは既に眠っているようだった。
「アンジュ、」
「何かしら?スパーダ君」
「その…ヒマだから看るの代わってやろうかなって思っ、て…」
今すっげぇオレらしくねぇこと言ってる気がする…。
「…ふふ、良いわよ。そ の 代 わ り 、ナマエにおかしな事しちゃダメだからね?」
「分かった。…って、しねェよ!!んな事!!!」
ケラケラと笑いながらアンジュは部屋を出て行った。
「ふぅ…」と言いながら椅子に腰掛けてナマエの方を見る。
しっかし…すっげぇ無防備だな今のコイツ。
これならキスしても良いんじゃ…………って何考えてんだオレ。
良くねーよ。もし万が一ナマエが起きてみろ。クッソ気まずいだろ。
抑えろ、抑えろオレ……。色々抑えろ(?)…。
そう悶々とし続け、気が付くと時間が過ぎていて夕方近くなっていた。
「ったく…ナマエはまだ起きねぇのかよ…」
ムスッとした顔でナマエの顔を覗く。
「……ムカつくほど可愛い顔だな。…………あ」
待て、思わず声に出しちまった。うわあクッソ恥ずい……。
バッと顔を離し、赤面しているのを手で隠す。
すると
「ん…スパーダ…?」
し ま っ た 。聞かれたか?
「え、あ、お、おお起こしちまったか?」
パニクって声が裏返った。
「ううん…」ナマエはふるふると首を横に振った。
「そ、そうか…」
よ、良かった……少なくともオレの言葉で起きたんじゃねぇんだな…。
「…アンジュさんは?」
どきりとした。
まさか自分からナマエを看ていたいってアンジュに言ったなんて本当の事言えねぇよな…。
「ああ、アンジュならナマエが眠ってからすぐにオレに『ご飯が食べたいから私が戻ってくるまで看ててね(裏声)』とか言いやがってよ…そんでまだ帰って来ねェんだ」
我ながら素晴らしい嘘だと思った。
ナマエはその嘘を信じたようだ。
するとナマエはふっと外を見て考え込んだ。
「ごめんね、ずっと…看ててくれたんだね」
…まぁ、ちょっと悪い気もするけどな。
後でアンジュに謝っておこう。
「お、おう…気にすんな」
そうオレが言うと、ナマエは突然胸を抑えて苦しみ始めた。
「お、おい大丈夫か?」
割と真面目に心配をするオレ。
「大丈夫だよ」とナマエが言う。
いや、どう見ても大丈夫じゃないだろ…。
えっと、何か気分転換になるようなもん…。
あ、アレだ。
「…なぁ、甲板に出れるか?」
「うん…もう船酔いも良くなってきたし」
「よし、じゃあ行こうぜ!」
オレはナマエの手を引いて甲板へ出た。
オレの予想通り、夕日が一直線の水平線へ沈んでゆく幻想的な景色がそこには広がっていた。
「きれい…」
ナマエは目を輝かせてそう言った。
「今日は晴れてたからな。綺麗な夕日を見られると思ったぜ」
「私、こんなに綺麗な夕日見た事ない…」
「あぁ。水平線に沈む夕日なんて腐る程見てんのに、今日のはすっげぇ綺麗だ。……なんでだろうな」
好きな奴と一緒に見てるからか?…なんてな。
あぁ…このまま時間、止まってくんねーかなぁ。
「このまま時間が止まればいいのに…」
「…え、」
今、オレと、一緒の事を……?
「あ、いや、これは、その……」
顔を赤くして否定しようとしてるが、これはただ可愛いだけだろ。
「ごめん、これは…深い意味は無いの……」
あーやっぱりオレ…ナマエが好きだわ。
「ナマエ」
ナマエに、触れたい。
それを言葉にする前に、既に行動に表してしまっていた。
「え!?な、なに、いきなり…」
「あ、えっと、その…すまん。ナマエが、か、可愛くて…」
やっべぇ、何してんだよオレ。
したら気まずくなるって分かっ…て……
「ばか」
ナマエはそう言いながらオレにキスをして来た。
沈みきりそうな夕日の光は、オレの頭の中を一層真っ白にさせた。
//2019.05.02
//2021.10.30 加筆修正