それぞれの委員会

※ここから委員会の話になります。原作では6年間の委員会は固定ではないという設定がありますが、ここの小説内では6年間同じ委員を務めるという設定にさせて頂きます

ご了承ください…(´•ω•`)






「くの一とは情報収集に長けた忍です。ですから…」

シナ先生が話す言葉に耳を傾けながら、土井先生と山田先生との話を思い出していた。我ながら身勝手な事を言っていたと思うけれど、後悔はしていない。あれが本音なのだから

今の私が此処にいるのも、生きているのも、全てはおじ様とおば様の為。あのお2人に恩返しをする事こそが、今の私の生きる意味のほとんどを占めていると言っても過言ではない


幸せを探す…
勿論それをおざなりにするつもりはない。最後に土井先生に言った事も嘘ではない。あれも本音だ

でも、今あるおじ様とおば様の幸せと何が幸せなのか分からない私がこれから探す幸せ…どちらが大切かなんて私には愚問である

シナ先生が黒板に用語を書き始め、書き写す為に筆に墨汁を染み込ませたままふと入学直前におば様が仰っていた言葉を思い出し、手が止まった





「貴女は貴女の求める幸せを探すのですよ?」

私の求める幸せって…何なのだろうか…





◆◆◆ ◆◆◆





「心白羽ー!」

次の日の朝。全学生徒が集まっての朝礼の後、後ろから留三郎が呼び掛けてきた。振り向くと、留三郎だけでなく、その後ろには伊作と仙蔵もいた



『おはよう、みんな。どうかしたの?』

「今日は午前中、忍たま1年は各委員会を自由見学する事になってんだが、お前も来ねぇか?」

委員会と聞いて首を傾げる。昨日仙蔵も言っていたけれど、くのたまはいつからか委員会には参加しなくなった筈なのに、何で誘ってきたのか



「シナ先生にお尋ねしたら、くのたまも午前中は自習として学園内を自由見学させるつもりだと仰っていたから、良ければ一緒に回ろうよ」

伊作は楽しみなのか、うきうきな表情で言ってくる。隣の仙蔵も笑顔で頷いている



「委員会もだけど、学園内も見て回るつもりなんだ。なら、心白羽が一緒でも問題ないだろう?シナ先生に許可は貰ってるし」

『ぇ、あ…でも良いの?貴重な見学の時間だしッ…』

迷ってるなら行くぞ!と言葉を遮りながら留三郎に手を取られて返事をする前に連れ出された






「お前達ー!遅いぞー!」

忍たま長屋の庭園まで移動すると、此方に手を振って叫んでいる小平太に気付いた。その隣には長次、文次郎もいる



「心白羽、昨日の怪我は大丈夫なのか?」
『うん。ちゃんと冷やしたからそんなに大きく腫れなかったし、すっかり治ったよ』

文次郎が心配気に尋ねてきたモノだから、怪我をした左頬に触れながら笑顔で返した。そうか、と安堵した様に微笑んだ文次郎の前に割って入ってきたのは小平太



「心白羽!私は体育委員になるつもりなのだが、お前はどうするんだ!?」
「小平太!邪魔だ!それに昨日くのたまは委員会には不参加になってるって先生も仙蔵も言ってただろうが!」

割って入ってきた身体を引き剥がしながら呆れ顔で文次郎が教えると、小平太はキョトンとした顔でそうだったか?と首を傾げた



「まぁ細かい事は気にするな!」

そう盛大に笑う小平太にみんな苦笑している。不参加扱いなだけあり、各委員がどんな役目を担っているのか教えられていないから、体育委員と言われてもピンと来ない



『体育委員ってどんなの?』
「お!興味出たな!じゃあ最初は体育委員から行くぞー!」

どんどーん!と私の手を引いて、最初に会った時と同じ様に半ば強引に小平太は走り出した。後ろからのみんなの待ての声も聞かず、一直線に運動場へ向かった




「先ぱーいッ!」
「おぉ、小平太。よく来たな」

駆けて行った所では数人の様々な学年の恐らく体育委員であろう先輩方が筋トレに励んでいた。1日しか経っていないのに、もう先輩と顔見知りなのかと関心する一方で小平太は意気揚々と先輩に飛び掛った



「先輩!先輩!私絶対に体育委員に入るので鍛えて下さい!鍛えて下さい!」
「だぁああ!分かったから離れろ!身体によじ登るなぁあ!」

『こ、小平太!先輩が困ってるよ!』

よじ登って先輩に訴えている小平太の裾を引っ張っていると、留三郎達が追い付いてきた



「何だ何だ!どうしたんだ!?」
『いや、ちょっと、小平太が…』

いち早く駆け寄ってきた文次郎と一緒に小平太の裾を更に引っ張るが、先輩にしがみつく力が思いの外強く、なかなか剥がせない



「何かと思えば…心白羽、文次郎。小平太は先輩にお任せした方が良いぞ」

仙蔵は腕組みして呆れ顔である。小平太ごと先輩の身体が反れるほど引っ張っていた裾をパッと離せば、バネの様によろめきながらも先輩は転ばずに小平太を支えたまま宥め続ける

そのブレない体勢に、さすがぁ…と文次郎と2人で小さく拍手している横で留三郎が懐から何やら三つ折りにされた紙を取り出した




「えーっと…体育委員会は主に実技訓練用の場所の確認作業を行う委員会だってさ」

「何で確認作業するだけで体育委員って名前なの?」
「それはだな!その確認作業自体が体力勝負の仕事だからなのだ!」

伊作が首を傾げて尋ねた言葉に即答したのは現在進行形で先輩に未だにしがみついたままの小平太。痺れを切らした先輩が小平太を肩車し、人差し指を立てて胸を張りながら続ける



「そう!野外訓練で使われる長距離コースの安全確認の為に実際に往復で走り込んだり、罠を仕掛ける訓練で使う場所の地面を掘って事前に土質を確かめたりするのだ!何かと体力を使う委員会だから、入る時は自分の身体と相談してからにしろな!」

「はいはいはい!私自信あります!土でも何でも掘ります!」

肩車された状態でブンブンと両腕を回す小平太を落とさない様にバランスを取りながら分かった分かった!と先輩はまた宥め始めた



「小平太は放っておいて、次に行こう」
「そうだな」

「ほら、心白羽も行くぞ」
『えぇ…でも小平太が…』

置いてかれそうになっている小平太を見るが、先輩にわーわーと騒ぎながらずっと纏わりついて暫く離れなさそうな様子に諦め、手を引く留三郎の後を大人しく着いて行った





「此処が火薬委員会か」

前を歩く仙蔵が立ち止まり、目線を向ける先を見るとある煙硝蔵えんしょうぐらが。そこには体育委員と同じく数人の学年がバラバラな先輩方が中で話し合っていた



『仙蔵は火薬委員に入りたいの?』
「うん、火薬自体に興味があって」
「火薬委員会は忍術学園における火薬の使用管理や保管をしている…だってよ」

私達3人が立ち止まったのに気付いて、他の3人も引き返してきた



「煙硝蔵って何か怖いよね…火薬いっぱい入ってるし…」
「煙硝蔵なんだから、火薬入ってなきゃおかしいだろ」
「でも、火薬いっぱいある所にはあまり近付きたくないかもね」

立ち話をしていると、蔵から先輩2人組がやってきた



「あれ、どうしたんだぃ?こんな所でみんな揃って」
「火薬委員会を見学させて頂きたく思いまして」

「あぁ…ごめんな。ついさっき委員の1人が火薬ぶちまけちゃって、掃除してる最中だから案内出来そうになくてさ」

今からほうきを取りに行くんだ、と苦笑しながら先輩方は申し訳ないと手を振って去って行ってしまった

隣の仙蔵を見ると、不満そうに口を尖らせている。その様子を見て、悪戯に笑いながら文次郎はどんまいと言う様に仙蔵の肩に手を置いた



「残念だったな?仙蔵」
「うるさい、文次郎」

『で、でも先輩方優しそうだったよ。良いんじゃない?火薬委員で決めても』

反応せずに不貞腐れた様にそっぽを向く仙蔵を宥めながら次の委員会が活動している所へ





◆◆◆ ◆◆◆





「長次は何の委員会にするんだ?」
「私はねぇ」

長屋に入り、雑談しながら足を進めている最中に留三郎にそう尋ねられた長次がある部屋の前で止まった。見上げると図書室の木札が掛かっている



『もしかして図書委員会?』
「そう、本が好きだから本に関われる委員会に入りたいんだ」

引き戸を開けると、中には6年生が2人。棚の本の整頓をしている最中だった。先輩方は戸の音に振り向いたと思えば、笑顔で出迎えてくれた


「やぁ、君達は1年生だよね。委員会見学かぃ?」
「長次が図書委員会に興味があるとの事です」

留三郎に手を引かれて先輩方の前に出された長次はさっきまで笑顔だったのが、緊張からか表情を強張らせながらお辞儀をした



「な、中在家長次です。よろしくお願い致します」
「ふむ…礼儀正しくて良いな。君みたいな子は図書委員会にぴったりだ」

グッドサインをされて長次は照れ臭そうに頭を掻いて会釈した。それから先輩方は図書委員会の仕事を簡単に教えてくれた。主には生徒への本の貸し出しの手続き、書庫の整理だそう



「まぁ他に細かい事もあるが、もっと聞きたいか?」

尋ねられた長次は緊張したままで表情にあまり出ていないが、首を勢いよくブンブン振って興味津々な様子。その反応をおかしそうに笑った先輩方は長次を図書室の中へ



「君達もどうだぃ?」
「申し訳ありません。他の委員会の見学もさせて頂きたいので、私達は失礼致します。ありがとうございました」

文次郎の言葉に先輩方は笑顔で気が向いたらまたおいで、と嫌な顔1つせずに見送ってくれた



『学園の先輩方って優しい人達ばかりだね。何か安心した』

「そうだね。僕も安心してる」

隣で歩く伊作も眉を下げてホッとしている表情を浮かべている。1人前の忍として此処で何年も勉強や鍛錬をしてきたであろう先輩方のイメージはやはり怖いモノだった。けれど、どの委員会の先輩方は誰もが笑顔で話し掛けてくれる優しい方々ばかり

すっかり先輩方に対するイメージは良い意味で崩れていた




◆◆◆ ◆◆◆






「文次郎、お前はどうするか決めてんのか?」

ずっと先頭を歩いている文次郎に留三郎が尋ねた。すると、此方に振り向いた文次郎は胸を張って、何故か誇らしげに宣言した



「俺は会計委員会だぁあ!」
「Σあ!おい!待てよ!」

廊下を突然駆け出した文次郎に慌てて私達も追い掛けた。暫く走って死角の曲がり角を曲がると、文次郎が仁王立ちしてある部屋の前で待っていた


「会計委員会はだな、色んな委員会の予算決めや学園内の支出計算をしている委員会なんだ!最早学園の一端を担ってると言っても過言じゃない!」

失礼します!と部屋を開けて、文次郎だけでなく、彼越しから部屋を覗き込んだ私達も目をギョッとさせた



「ぉ…おぉ…1年坊主達か…よく来たな…俺が委員長だ…」

部屋の中央に置かれた机で数人の先輩方が突っ伏していた。委員長と名乗った6年の先輩が力無く手をひらひらさせて挨拶してきた。顔を上げたその表情は顔色の悪いを通り過ぎて、最早真っ青



「ちょ、え!?だ、大丈夫ですか!?」

文次郎が駆け出したのに釣られて、私達も部屋に入って、突っ伏している先輩方を大丈夫かと揺さぶる。寝息を立てている方もいれば、委員長の様に顔を真っ青にさせて半笑いで何やらよく分からない戯言を話す方もいる



『何かあったのですか?』
「はは…実は…」

揺さぶっていた半笑いの先輩が虚ろな目を向けながら話してくれた。会計委員会は多忙故に徹夜が多く、今丁度力尽きていたのだという



「もう今日で3徹目さ…ははは…そろばん怖い…」

これはやばい、ととりあえず近くにあった毛布を先輩に掛けた。徹夜の域を優に超えている気がする。こんな状況を見たら、あんなに意気込んでいた文次郎もさすがに…



「すっげぇええッ!」

思わぬ歓喜の声に私含めて他の3人も同時に文次郎の方を見た。先輩方のどんよりな雰囲気とは打って変わって、彼は目をきらきらさせている



「委員会をしつつ、プロになってから夜通し活躍出来る様に徹夜の鍛錬ですね!」

ズコー!とその場で私達は揃って転けてしまった。文次郎はそんな私達の反応に構わず、ぐったりしている委員長の服を揺さぶる



「私は全然大丈夫です!将来立派な忍になる為なら何徹でもいけます!先輩方の鍛錬にお付き合いさせて下さい!」

「な…何か変な勘違いしてるみたいだけど…まぁ君みたいな元気な子が入ってくれるなら…良かった…よ…」

ガクッと先輩はとうとう力尽きた様に首が傾いたと思えば、寝息を立て始めた。構わず文次郎はどんな仕事なのか詳しく教えて下さいよ!と揺さぶっているが、先輩が起きる事はなかった




「バカ文次は放っておいて、次だ次」
「同感だな。ほら、2人共行くぞ」

呆れ顔でさっさと部屋を後にする留三郎と仙蔵。私と伊作はどうしようかと目を合わせた


「と…とりあえず出ようか」
『そうだね…うるさくすると悪いし…』

私と伊作は苦笑しながら何故か無意識に先輩方に対して手を合わせてお辞儀し、部屋を後にした






◆◆◆ ◆◆◆






「留三郎、伊作。あとはお前達だけだぞ?」

忍たま長屋の縁側で仙蔵、私、留三郎、伊作の順で揃って座り、留三郎が持っていた三つ折りの紙を広げながら話していた。2人は紙と睨めっこしながら頭を捻っている



『委員会っていつからなの?』
「遅くてもひと月後には全員何処かには所属しなくちゃいけないらしい。決めている人は早くても来週から正式に委員会活動に参加する事が出来る…けど、始まったばかりの大事な1ヶ月だし…委員会決めに時間を割いているバヤイでもないし、早めに決めないと」

仙蔵は火薬委員と決めているから良いとして、問題は伊作と留三郎だ。唸り声を発しながらずっと紙を凝視している。しびれを切らして、ある委員会を指さした



『とりあえずこの委員会行ってみる?確か活動してる医務室はすぐそこだし』

医務室といえば保健委員会だ。悩んでいても仕方ないと腰を上げて3人共私の案に賛成して医務室へ向かった






「あれ、君達も怪我かな?」

部屋は開けっ放しで、既に誰かが手当ての真っ最中だった。手当している6年生の先輩が顔を覗かせた私達に気付いてか、手招きして部屋の中へ招いた



『怪我はしていないのですが…保健委員会がどんなお仕事なのか見学させて頂こうかと思いまして』

お邪魔でしたか?と遠慮気味に尋ねると、先輩は大丈夫だと陽気に笑って見せた。手当してもらっていた先輩も医務室から出て行き、救急箱をしまいながら先輩は口を開いた



「私は6年の綿矢わたやだ。保健委員長をしている。よろしくね」

会釈をする綿矢先輩に何処か引っ掛かった。そういえば…昨日手当てしてくれた先輩じゃなかったっけ?



『あの、昨日私の目を診て下さった先輩…ですよね?』
「あぁ、そうだ。君達の事は覚えてるよ」

あの後も喧嘩はしてないか?と悪戯にからかわれた留三郎はしてませんよ!と顔を赤くして言い返した



「で?タイミング的には委員会見学ってとこかな?」

内容を言わずに勘づく先輩はさすがである。隠す必要もなく頷くと、そうかそうかと先輩は腕を組んで保健委員会について話し始めた

主には負傷した学園生徒及び関係者の治療。身体測定において測定する側として多くの生徒の健康状態を測る。予想はついていたが、先輩は苦笑しながら続ける



「でも、進んで保健委員になりたいという子はあまりいない。実践訓練もあるし、他にも何かと怪我をする場面が多い学園の授業において、保健委員は毎度駆り出されてはみんなの治療をする。身体測定に関しては検便まで管理しないといけないから、やりたがる子が少ないのが現状さ」

俺の時はジャンケンだった、と肩を落とす先輩に同情の眼差しをみんな向けていた。その後も先輩は細かい所まで教えてくれたが、留三郎も伊作も決め手に掛けている様だった



「まぁ、こんな所かな。長くなってしまったね」
「いえ、貴重なお話をありがとうございました」

先輩にお辞儀をして、座ったまま次は何処にしようかとその場で話し合っていると、用具委員会の名を口にした途端に綿矢先輩に呼び止められた



「もし用具委員会に入る様なら、4年の朝丘あさおかという男には気を付けておいた方が良いかもしれない」

気を付けてって…
聞き流すには物騒な物言いに、思わず何故か聞き返してしまった。綿矢先輩は1つ間を空けて言った



「あいつ…もしかしたら下級生に手を上げているかもしれないからだよ」

最近下級生の怪我が増え、医務室に訪れる頻度が多いらしく、やってくる下級生はほとんどが用具委員会の方達なのだという。用具委員会は仕事内容上、些細な事で大怪我に繋がるケースが多いが…綿矢先輩は少しそれに違和感を覚えていた


「何で負ったのか、何が原因なのか、それを言おうとしないんだ。怯えた様な…そんな表情をして手当てが終わったらさっさと帰ってしまうし」

だが、1度だけ…たった1度だけ確かに怪我を負って半べそで医務室にやってきた下級生が消え入りそうなほどか細く告げたのだという

朝丘先輩という名前を…






◆◆◆ ◆◆◆





「名前言ったくらいでその先輩が手を上げたかどうかなんて分からねぇだろ」

医務室を後にしてから屋外にある用具委員会が使用している用具倉庫へ向かっている間にも、私達はさっき綿矢先輩が仰っていた話を話題に話していた



「だけど、決まって上級生がいない時らしいし…ちょっと怪しいかも」

「5年、6年はよく合同で野外訓練に出掛けてるからな。留守にしている間にも可能といえば可能な事だけど…」

みんなしてそんな事を話しているのを黙って聞き入る。手を上げる…その朝丘先輩は綿矢先輩曰く、物に当たるくせがあるらしい。上級生がいる間は大人しく、口は悪いけれど、特に問題を起こす素振りもない為、怪我をした下級生から朝丘先輩の名前が出た時は耳を疑ったのだという



「よくさ、日頃大人しい人ほど何を考えているか分からないって言うよね」
「上級生に逆らえない分、自分に逆らわない下級生に鬱憤うっぷんを晴らしてるって事なら相当達悪ぃだろ。その先輩」

「お前達、静かにしろ」

先頭を行く仙蔵が足を止める様に腕を出した。仙蔵越しに前を見ると、例の用具倉庫があり、中から話し声が聞こえていた。用具委員会の活動中らしい

ゆっくり近付いて、仙蔵が倉庫の引き戸に手を掛けた直後、内側から戸が開いた。うわぁ!と揃って情けない声を漏らしてしまったが、戸を開けた6年の先輩は私達を見るなり笑顔を浮かべた



「1年生、よく来たな。さぁ入れ」

ちらっと様子を伺おうとした筈がやはり上級生もいる時点で気配とかで気付かれる訳で、部屋に入っていく先輩の後を大人しく着いて行く



「俺は6年の男神おがみだ。用具委員長をしている。用具委員会は忍術学園の武器、武具、備品。これら全て管理・整備しているんだ。壊れた備品の修理も行っている。今丁度訓練で使った的の修復作業中だ」

自由に見学して良いぞ、と促され、それぞれ近くの先輩方へ歩み寄って作業を見学する事に



「どんな風に修理されているのですか?」
「ん?これはだな、まずはこの罫引けびきを使って寸法を測りながら…」

「そののこぎりは何に使うのですか?」
「こいつは木材を切り取るのに使うんだ。ほら、こうやって…」

留三郎達は案外食い気味になりながら先輩方の話を聞いている。私もすぐ近くの赤茶色の髪を束ねた先輩に声を掛けた



『今、何を直しておられるのですか?』

…あれ?反応がない。聞こえる声で話し掛けたつもりだったのだけれど…

念の為もう1度同じ様に声を掛けるが、やはり反応がなく、その先輩はトンカチで黙々と釘を打ち付けている



『あのッ…』
「うるせぇな」

漸く向けられた目は酷く鋭い。そんな目を上級生から向けられれば、ピシッと身体が硬直し、一気に血の気が引いた



「くのたまが邪魔しに来てんじゃねぇよ」
『も…申し訳ありません…』

「こらこらこら!朝丘!お前もう少し愛想良く出来んのか!」

私の後ろから男神先輩がその先輩を注意する。朝丘って…さっき保健委員長の綿矢先輩が言ってた4年の先輩?確かに4年である紫の忍装束を身に付けている


「くのたまなんて、見学しに来るだけ無駄でしょ?お前みてぇなチビ、きっと来年には学園から消えんだから」

朝丘!と男神先輩が声を上げるが、当の本人はぷいっとまた背を向けて作業に戻った。私はと言うとまさかのキツい言葉に頭が追い付かずに真っ白で呆然としていた

それを察してか、男神先輩は留三郎達を呼び、早々に見学を切り上げるように告げた

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