関わり






それからは小平太に教わりながら苦無くないを使った塹壕掘り続けていた。なかなか腕にくる重労働だが、小平太は楽しそうにいけどんしながら掘っていく

変に競争心も芽生えて、私も負けじと掘り進めた




キンッ!
『Σうわッ!』

暫く掘り進めていると、突然苦無くないが弾かれた。別の箇所を掘っていた小平太が私の声に気付いてか、駆け寄ってきてくれた



「どうした?」
『此処すごく硬いみたい…』

再び数回力一杯苦無くないを振り下ろすが、甲高い音を響かせて弾かれるだけ。切れだした息を整えて、また振り上げた時、小平太に待てと止められた



「一緒に掘るぞ」
『え?』

「一緒と言っても、ただ掘るだけじゃ駄目だ。せーので1度に2人分の力を打ち込むんだ」

行くぞ!と突然の提案に戸惑う私に構わず苦無くないを上げた小平太に慌てて合わせる。2人のせーの!の声と2人分の苦無くないの甲高い音が狭い地下に響く


「もう少しだ!頑張れ!」
『うん!』

地下で風通しも悪い中、私も小平太も汗だくでも気にせずに夢中で岩盤に苦無くないを打ち込む。そして…




バキンッ!
『わわッ!』「うおッ!」

手応えのある音と共に打ち込んだ直後だった。岩盤が粉々に砕け、私と小平太は振り下ろした勢いで前に転がった



『あたた…Σこ、小平太!大丈夫!?』
「おぉ!大丈夫だぞ!」

小平太の上に乗ってしまっていたのに気付き、慌てて退いて手を差し出すと、土だらけの顔のまま笑顔で小平太は掴んで起き上がった



「こんな大きな空洞があるとはな」

岩盤を砕いた先は洞窟の様になっていた。先は暗く、何も見えない。とりあえず上の土質を調べてみる事に…



「どうだ?心白羽」
『思ったより柔らかいよ。この上で大人数が動いたら落ちちゃうかもね…』

小平太に肩車してもらい、私が苦無くないで少し土を弄ってみる。ポロポロ落ちてくる土の質感的に頑丈とは言えず、とりあえず目印を付ける為に地上へ



「ここら辺だったか?」
『うん、多分この突き出してる岩がさっきの岩盤だったんだと思うけど…』

落とし穴や罠の目印の類になってしまうが、一応此処は危険だという目印は取り付けた



「あとは先輩方にお伝えするだけだが…」

小平太に釣られて私も辺りを見渡すが、小鳥のさえずりや草木の揺れる音が聞こえるだけで静かだ。すると、地面に耳を付けて目を閉じた小平太。頭に?を浮かべていると、ハッとした様に勢い良く顔を上げた



「先輩方はまだ掘っているみたいだ!」
『分かるの?』

「あぁ!微かにだが、岩を砕く音が聞こえる!」

え?と私も地面に耳を付けて、すませてみる…が…



『何にも聞こえないけど…』
「私には聞こえるのだ!」

にしし、と小平太は悪戯に笑った。いつからそんなに忍者らしくなったのか。確か長次が小平太は座学と比べて実習がずば抜けて飲み込みが早いと言っていた気がする。体育委員会の活動で自ずと身に付けているのだろうか…




「心白羽!」
『何?』

「お前に見せたい場所があるんだ!お前と裏裏山に来れる事なんて滅多にないからな!」

え、と反応する暇も与えずに小平太は行くぞ!と手を引いて駆け出した



『ちょ、ちょっと!先輩に言わないで良いの!?』
「大丈夫だ!すぐ戻ってくれば!」

そのまま慣れている様に迷わず獣道を進んでいく。手を繋いでいるから逸れる事はないけれど、よくこんな道を知っているなと感心してしまう

ちらっと空を見れば、綺麗なだいだい色になっていた







◆◆◆ ◆◆◆








「此処から目を閉じろ!」
『え?』

「良いから!」

えー、と渋りながらも目を両手で覆うと、ひょいっと身体が浮いた。うぇあ!?と変な声を上げてしまった。思わず手を離すと、小平太に担がれているのに気付いた



『こ、ここ小平太!?なな何してッ…!』
「こーら!目は閉じてろ!」

訳が分からないまま咄嗟に目をまた手で覆うが、混乱する思考が落ち着かない。何で担がれてるのか、何処へ向かおうというのか、担いでいて移動は大変ではないのか、色々一気に回ってきて結論黙って大人しく担がれる事にしたのだった






「おぉ!丁度いい頃だな!」

暫く揺られていたが、小平太のその声と一緒に動きも止まった。もう開けて良いぞ、と降ろされながら言われて漸く手を退けた。すぐ見えたのは小平太だったが、彼は笑顔で私の後ろを指差した







『わぁ…』

振り向いた直後に眩しさから目が一瞬眩むが、慣れた頃にしっかり見えた景色に目を奪われた。それは絶壁の丘なのだが、黄昏時たそがれどきの濃い黄赤色の夕陽に照らされて、周りの森林も淡くだいだい色に染まっている…まさに絶景がそこに広がっていた




『すごいね…』
「そうだろう!この前委員会で通った時に見つけた場所だ!」

へぇ…と小さく答えて、目の前の絶景に目が釘付けになっていると、小平太が隣にやって来た




「お前、昨日殴られたんだってな」

そんな突然の言葉にすぐさま小平太の方に振り返った。彼は此方を見ていたが、さっきまでの笑顔ではなく、真剣な顔つきになっていた




「留三郎を責めるなよ?私が勝手に聞いたのだからな」

小平太は聞いたというあの時の事を確認も兼ねてなのか話してきた。実際その通りだったから口は挟まなかったけれど、無意識に左頬に触れていた



「何で庇った」
『何でって…』

「相手は上級生だぞ。しかもあの嫌味な先輩だ。怖くはなかったのか?」

「それは…確かに最初は怖かったけど…」

今はそうでもない、と続けると、小平太は目を丸くした。そして、あの殴られた事で変わったあの人への印象も何故止めたのかも話した



『実際の光景を見て…もう身体が動いちゃってたんだよ。それで、改めて大切な人を傷付ける人は誰だろうと許さないって決めたの。私にとって留三郎は身体を張ってでも守りたい友達だからさ。勿論小平太や他のみんなもそう』

失ってからじゃ遅いのは…よく分かっているから…




「心白羽はやっぱり強いな!」
『え、そ…そうかな…』

「でもな、私は心白羽以上に強くなるぞ!」

両肩を掴まれたと思えば、そう意気込む様に告げられた。もう小平太の方が断然強いと思うけれど…と苦笑すると、小平太は肩を掴んだまま言い放つ



「強くなるから!怪我させられたり酷い事された時は私に言え!」

思わず目を丸くしてしまった。小平太の表情は変わらず真剣だ



「私も心白羽が大事だ!だから私が仇を討ってやる!これからもっと強くなってな!」

分かったな!とずっと声を張って言い放つ小平太の勢いに圧倒されて戸惑いながらも、頷くしか出来なかった。私のその反応に満足気に彼は笑って、約束だ!とまた声を張った






◆◆◆ ◆◆◆






あれから無事先輩方と合流し、活動を終えて学園に帰った頃には空は淡い青紫色に染まり、点々と星が散らばっていた。流石に行きと同じペースで帰るとどっと疲れが出た

けれど、弱音を吐かなかった事と小平太と一緒に体育委員としての活動に貢献した事で委員長から今後も手伝いとしての同行を許可してもらえたのだった



「じゃあ!また後でな!」

小平太と別れて食堂へ向かおうとしたけれど、森を駆け回ったり、塹壕を掘ったりで忍装束が土だらけになっているのに気付き、食堂に行く前に着替えようとくのたま長屋の方へ向かった



『あれ…』

くのたま長屋前の潜り戸に遠目から誰かがいるのに気付いた。特に気にせず近付いていくと…



『留三郎?』

呼び掛けられた本人はびくっ!と大きく身体を跳ねさせて、慌てた様子で振り返った。やっぱり留三郎だ。昨日の怪我は良くなったのか、手当てのあった包帯はなくなっていた


『どうしたの?』
「あ、えっと…」

何処か歯切れが悪い。目を泳がせていて、落ち着きのない様子だった



『留三郎はご飯食べた?』

「え、ま…まだだけど…」
『一緒に食べに行こうよ』

着替えてくるから待ってて、と戸惑う留三郎の反応に構わず、半ば強引に誘った。何か言いたげだったし、ご飯を食べながらゆっくり話そうと思ったのだ

さっさと着替えを済ませて戻ってくると、留三郎はちゃんと待っていてくれていた。食堂まで並んで歩くが、ちらっと見た留三郎の横顔はやはり元気がない様に思える




『何であそこにいたの?』

「ぉ…お前が気になって…その…怪我は大丈夫そうか?」

言いにくそうに聞いてくるものだから、笑顔で大丈夫だと伝えるも…留三郎の表情は晴れない



「体育委員会と裏裏山に行ってたのか?」
『あれ、よく知ってるね』

「放課後になってもお前が来ないから伊作に聞いたんだ。そしたら教えてくれた」

女が無茶するな、と付け足されて苦笑してしまった



「あと…何か昨日から他の委員会も手伝ってるらしいな」
『それも伊作?』

「伊作からもだが、他の奴からも聞いた」

ばったり廊下で会った時に各々から聞いた心白羽の行動。突然仕事の仕方を教えて欲しい、と言われて驚いたとみんな口を揃えて言っていた。今日の授業の合間に仙蔵に会った時も…




「用具委員会を手伝いたいって言っていた。あの人に殴られた事もあるし、勧めはしなかったが…あいつは…」

あの人に怒っている
関係ない・・・・と言わせたくない

そう心白羽が言っていたと仙蔵は話していた。それを聞いて不安しかなかった。また心白羽が怪我をするのではないかと…




「何でそんな頑張んだよ…」
『え?』

「俺は…出来ればもう関わってほしくない」

留三郎が立ち止まって、急にそんな事を言うから、私も立ち止まる



「俺はお前が傷つく所なんか見たくねぇし、苦労する所だって見たくねぇ。だからッ……委員会の手伝いなんてやめとけ!お前が大変になるだけだ!」

留三郎は俯かせていた顔をばっと私に向けて、そう言い放った。その表情からも分かる不安…

彼の言う通り、実際にやってみて、どの委員会もそれぞれ仕事が異なっている分、覚えるのが大変なのはこの2日間で痛感していた。けれど…




『私って…自分が思う以上にみんなの事大好きなんだよ』

笑って返すと、留三郎は呆気に取られた様な顔をした



『みんなの事が大好きだから…何かしたいって思っちゃうんだよね。私に出来る事はないかなってさ』

「ぉ…俺達の為にお前が大変になる事ッ…」
『留三郎だってそうだったじゃん』




「慰めとかは逆に頑張ってるお前を馬鹿にしてる気がしたから…せめて力になりたかったんだ」

留三郎は私を心配して、手を傷だらけにしながらも手裏剣を作ってくれた。放っておけば良いのに…その方が楽だろうに…

他のみんなだってそうだ。友達だというだけで、夜の練習にまで付き合ってくれて…何なら私が怪我を負った時だって、ボロボロになりながらも四葉のクローバーを探しに行ってくれた



『みんなに助けてもらってばかりは嫌なんだよ。一緒に苦労して、一緒に大変な目に遭って…そうやってみんなと強くなりたいって思ってる』

だからこれからも関わらせてほしいな、と付け足した。留三郎は何とも言えない複雑な表情をしていたが、分かったよ…と頷いてくれた


【関わり END】

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