フラッシュバック











『こっちは飯田君と上鳴君、あと常闇君の3人戦闘不能に出来た』

〔おぉ、すげぇな。こっちも厚い氷の壁張って時間稼いでる。でも八百万がさっきから応答しねぇ。苦戦してんのかもな〕

『八百万さん。応えなくても良いから、もしフォロー必要なら言って。こっちはひとまず追っ手は片付けッ…』
「うぉらああッ!」

無線中に突然目の前の建物が爆発し、その爆煙から爆豪君が現れた。完全に不意を突かれたせいで防御する暇もなくもろに腹を殴られた。ミシミシッ、と骨の軋む音が聞こえてくる






〔おい!不死風!大丈夫か!?〕

『大丈ッ…Σうぉッ!』
「逃げんなぁあッ!真顔ぉおッ!」

爆豪君は無線の応答する暇も与えずに再度殴り掛かってくる。咄嗟に周りの瓦礫を巻き込んだ風を吹かせて目を眩ませ、爆豪君が瓦礫に当たるまいと動きを止めた瞬間に一気に上空に舞い上がった

息があがる。ズキズキと痛む腹部を押さえるが、呼吸する度に痛みが鈍く伝わってくる




〔おい!不死風!〕

『いったぁッ…しくじったかも。爆豪君がこっちにきた。予想だと轟君の所に振り分けられると思ったんだけどな…』

〔いや…お前の予想は当たってたみてぇだ〕
『何でそんな事分かるの?』

〔緑谷達が爆豪が来てない事に慌ててる。あいつは多分独断でお前の方に行ったんだ〕

独断って…まぁ他から指示されるの好きじゃなさそうなタイプだとは思ってたけど…何でこっちにきたのか…

出来れば来て欲しくなかった
個人的に…

空中から黒い爆煙が立ち込める地上を見下ろす。建物が大破している。ホントにヒーローらしくない人…



「何涼しい顔してやがんだぁあ!」

再度爆発の勢いに乗って、爆豪君が背後に回り込んできた。振りかぶった拳には火花が。咄嗟に腕でガードするが、爆豪君の口元がつり上がったのが見えた



ガツッ!

火花をチラつかせていた拳じゃない方の拳でガードしていない脇腹に深く打撃が入った。ミシッ!と再び骨が軋む音が体内から聞こえた。鋭い痛みと一緒に口内から鉄の味が広がる




「女だからって容赦しねぇんだよッ!」
『だッ…たら…こっちだってそうするだけッ…!』

爆豪君の胸ぐらを掴んで、身体中に痛みが走りながらも腰を捻り、そのまま風を加えて地上へ投げ付ける。爆豪君が落下した建物が衝撃で大破した

風の勢いも付けたからすぐには戻れない筈ッ…
とにかく此処から離れなきゃ…



『ゲホッ!ゲホッ!』

込み上げてきた咳を受け止めた手には鮮血が。思わずゾクッ、と背筋に悪寒が走った。また過去の記憶がフラッシュバックする。震えだす手をもう片方で無理矢理押さえて屋根の上を移動した




『爆豪君ってホントに容赦ないね。下手したら死ぬってこれ…』
〔ひとまず余裕がある。そっちに行くか?〕

『私よりも八百万さんが心配。轟君は余裕があるなら八百万さんを呼びかけて。私は暫く応答出来なくなると思うから』

〔…分かった。無茶すんじゃねェぞ〕

轟君の言葉に思わず口元が緩んだ。轟君は結構私と一緒で笑わないイメージがあったけれど、優しい人なんだな…

無線を終えて、後ろを振り返る。追って来てない…
とりあえず離れた建物の中へ入り、脇腹の痛みが静まるまで待機する事にした。とは言っても、もう既に痛みは和らいできている

あんなに躊躇なく骨を狙ってくるなんて…




「てめぇは個性2つ持ってんのか?」

爆豪君は少なからず、私の身体の異常に気付いてる。何で独断で私の所に来たか知らないけれど、これ以上深く首を突っ込まれる訳にはいかない

でも私は演技派じゃないから欺くのは結構キツい…というより、爆豪君とは本当に関わりたくない。何故か彼を見ると頭が痛くなる。酷くあの頃が鮮明に蘇ってくる。思い出したくないのに彼がどうしてもクラスメイトと重なって見える

あの笑みも、あの口調も
全てが全て似てる


『ホントに…勘弁してよね…』







◇◇◇ ◇◇◇







「チッ、何処行きやがった…」

虱潰しに建物を爆破していくも柊風乃の姿が見当たらないのに、爆豪はイラついていた

さっきの腹パンの感覚からして、あいつの肋骨にヒビは入った。普通の人間なら未だに動けねェでいる筈だ。普通の人間なら…でも実際さっきの場所から既にあいつはいなくなっていた。肋骨が折れた状態で飛ぶのには無理がある。何モンだよ、あいつ…

暫く道を尽く爆破させていくと、頭上で影が過ぎ去ったのに気付いた。見上げると屋根を飛び越える柊風乃の姿が…



「待てや真顔ぉおッ!」

爆豪は爆破を利用して真上に飛び上がり、屋根に着地。そのまま柊風乃の後を追い駆けていく。が、追われる側の柊風乃は突然急ブレーキを掛けて体勢を反転させた


「Σなッ…」

反転させると風を纏って向かってくる爆豪へ逆に急接近。猛スピードで接近した勢いで柊風乃は回し蹴りを爆豪へ食らわす…が、反射神経の良い爆豪は咄嗟に爆発で体勢を変えて回避した

そのまま地面に着地した柊風乃は振り返る事なく、再び風を纏って屋根から屋根へ移動し始めた

あの動き…
やっぱり肋骨折れたやつが出来る動きじゃねぇ…




「ぜってェ何か隠してやがんな…」

小さく舌打ちをして、爆豪は柊風乃を追い掛けた

何で身体が何ともねぇんだ?
確かに骨は折れてる筈ッ…

打撃に耐えられている…しかも何事もなかったかの様に攻撃を仕掛けてきた柊風乃に対して、負けず嫌いな爆豪の苛立ちは募っていた




/Tamachan/novel/2/?index=1