トラウマ
最初は普通の学校生活を送っていた。元々の私の個性は風。クラスメイトと一緒に高校は何処にするか、どんなヒーローになりたいか、みんなで話していた。普通に…
でも…それがある日、普通じゃなくなった
ガシャーンッッ!
2年の中旬、昼休み中に突然個性事故で1人のクラスメイトの個性が制御オーバーになり、窓側にいた私にクリーンヒット
個性は攻撃系だったせいで、威力があり、窓ガラスが割れて私は3階から地面へ真っ逆さま。骨が数本折れ、落下したせいで窓ガラスの破片がたくさん身体に突き刺さった
けれど、私は個性とは別に父親から受け継いだ不死という体質があったおかげで、すぐさまその場で怪我は治った。ガラスの破片も自分で抜き、傷口が治っていく中、クラスの窓を見上げた
その時、窓から見下ろしていたクラスメイト達の表情が……心配の表情では全くなく、信じられないモノ…即ち化け物を見る様な怯えた、それでいて不気味がる様な表情をしていた
普通だと思っていた日々が、その時の一瞬で壊れた
次の日からみんなから化け物扱いされる様になり、再生能力を知って、タチの悪いいじめを受ける様になった。男子からは再生能力を面白がられ、平気で暴力を振るわれる様になった
女子からは完全に孤立させられた。何故かは分かっていた。誰かが言った触れたら化け物になる…というバカげた言葉を鵜呑みしたのだ
個性発動時に再生するならまだしも、普通の人間の状態で再生するなんて…ありえない。そんな固定概念が産んだ仕打ち
そんな理不尽な仕打ちに自分の中がぐちゃぐちゃになっていくのが分かっていた。発散出来ない苛立ち。差別的な目を向けられる悲しさ。どうせ治るだろ、と勝手に道具扱いさせる痛みと憎しみ
積み重なって、積み重なって……とうとう爆発してしまった
「ちょッ!何で
「おいおい!勘弁してくれよ!」
「ヒーローはまだなの!?」
卒業式の日。校庭でクラス写真を撮ろうとした際、突然何処からか
「おーいおいおい、待て待てー。それ以上動くんならこの子の腕がもげるぜー?」
骨が軋む度にかなり痛いッ…
咄嗟に個性を出そうとしたが、この中学校は無闇に個性を出すのは規則違反。そもそも実践訓練もまともに受けてない私の個性で、
そんな考えてる間にも尚、骨の軋みなんて関係なく
「Σおい!女の子が捕まってるぞ!」
保護者の中の1人が叫ぶ。素直に助けがほしかった私は痛みに耐えながら前を向く。すると、他の保護者も慌てた様に振り向き、どうするどうする、と私の安否を気にしてくれていた……が、そこにクラスメイト達が呼び掛けた
「あいつどうせ身体再生するんで大丈夫ですよッ!」
「あいつの安否とか気にしてたらこっちが危ないっスッ!」
「腕の1本や2本、どうって事ないですよッ!だから早く避難して下さいッ!」
クラスメイト達がどんどん当たり前の様に私に背を向けていく。唖然としていると、後ろでボキンッ!、と音が耳元で響いた瞬間、激痛が身体を一瞬で支配した
『ゔぁああッ…!』
「あーあ、骨折れちゃった。でもお嬢ちゃんは再生するみたいだし?もう1本いけるよね?」
折れた腕がダラりと垂れ、次はもう片方のを容赦なく後ろへねじ曲げられた。休みなく激痛は続く中、校舎奥から数人の男女が現れた
服装も体格も一般人ではないのを見て、すぐにヒーローだと分かった
「人質を取るとはッ…卑怯なッ!」
「もう彼女負傷してるわッ!一刻を争うわよッ!」
「だが、彼女を盾にされてる限り我々の個性では彼女も巻き添えにッ…!」
さすがヒーローだと思った
私を傷付けない様にどうするか考えてくれている。だが、そこにまたクラスメイト達の声が割って入る
「いっそあいつ諸共
「あいつ不死身だから大丈夫だって!」
「まずは俺達の安全が最優先でしょ!」
ヒーロー達もクラスメイトの言葉に困惑している様だった。何処まで私は嫌われているのかッ…
私の事を罵倒するのは今に始まった事ではないけれど、本当の危機的状況の時に言われるのは余計に辛いッ…
唇を噛み締めて、力なく俯いた。そして、次に聞こえた声で私の積み重なってきた憎悪が爆発した
「あいつだって人間の格好してるけど、
『その後の事は…正直覚えてないです。気付いたら足元に
卒業式での悲惨な事件。実はオールマイトは遅れて現場に駆け付けていた。だから、その時の光景を知ってはいた
確かに柊風乃の言う通り、周りは騒然。だが、オールマイトが本当に驚いたのは、現場に居合わせたヒーローが記録していた映像を見てからだった
「この個性は誰の個性だぃ?」
「それが…恐らく人質となっている彼女の個性だと思われます」
「Σえッ!?この…子が?」
見せられた映像には頭の何かがキレたかの様に叫び声…というより悲鳴に近い声を上げたかと思えば、一瞬で自身を捕らえていた
返り血が付くのも気にせず、解放された途端膝から崩れ落ち、頭を抑えたまま唸り始めた柊風乃。ヒーロー達が駆け寄ろうとした瞬間、また叫び声を上げると爆風とも言える強風が辺りに吹き荒れた
「これが彼女の個性だとすれば…この時は暴走してるのか?」
「コントロールしてる様子もないので、恐らく…」
「うむ…暴走していたとはいえ、一発で
「それもそうなんですが…この強風の際に重軽傷を負った一般人がいまして…」
その一般人とは、柊風乃のクラスメイト。それはつまり、あんなにたくさん他のクラスの生徒や保護者、教員がいたにも関わらず、正確に誰1人間違う事なく自身のクラスメイトだけ風で斬りつけたという事
「暴走していてもそのクラスメイトだけ正確に…」
「何故クラスメイトだけだったかは未だに分かりませんが、斬りつけられた生徒達は高校入試を先送りにせざるを得ない程重症です」
なるほど。クラスメイトからの理不尽な仕打ちで積み重なったストレスが爆発したという事か…
『あの…オールマイトさん?』
「あッ…あぁ、すまない。確か君の個性は風だったよね?」
『何で個性の事も…』
「まぁ…君のお父さんから色々聞いていたからね。若い頃君には何度か会わせてもらった事もあるんだけど…覚えてないかな?」
『いえ……外では無駄口叩いてたんですね。あいつは』
その言葉は酷く冷たかった。父親に向けてというよりは、赤の他人に向けた言葉の様に…
何故そんなに柊風乃が父親の事を毛嫌いしているか、オールマイトは分かっていた。だから、詮索するつもりはなかったが父親の名前を言っただけで目付きがガラッと変わる柊風乃に悪寒を覚えた