ペナルティ
あ
あ
あ
『ぁあ゙あぁあ…最悪…』
ため息混じりに出た言葉は毒だけど、そんなの吐きたくもなるよ。今現在の置かれている状況は極めて最悪に等しい。ピッと手元のスイッチを押すと背凭れだけ持ち上げる
時計を見ると昼過ぎあたり…朝目が覚めた直後よりは身体の痛みは引いた。腕を動かすのはまだ少ししんどいけど、万歳は出来るまでに上げられるようにはなっていた。熱は…
『38度4分って…丸1日経ってもこれなの?』
痛みよりも怠さの方が今は勝っているのは熱が下がらないからか…とまたため息を漏らしながら、辺りを見渡す
『オールマイトさんに迷惑掛けちゃったな…』
今現在進行形で、私はオールマイトさんの自宅にいた。しんと静かな部屋を見渡しながら数時間前の様子を思い出す
◆◆◆ (数時間前) ◆◆◆
ズキッとした痛みで目が覚めた。ぼやける視界には見慣れない天井と照明。左に視線を向けると、壁に大きな窓があり、ぼんやりと明るくなり始めている紺色の空が見えた
「気が付いたかぃ?」
ぼーっと朝?と意識がだんだんはっきりしてきた時、左側から男の声が聞こえ、慌てて左に首ごと向けた…が、ビキッ!と身体に痛みが走り、思わず痛ッ!?と声を上げてしまった
抑えようとした腕も上がらずにいると、駆け寄ってきたのはいつものスーツの上着を羽織る前のオールマイトさん。慌てた様子で大丈夫!?とあわあわしている姿が見えた
『ぁ…痛ッ、たぁ…』
「そんなに急に動かしちゃ駄目だよ」
暫くじっと耐えていると、だんだん痛みは引いて、大きく息を吐いた。それを見守って、オールマイトさんは苦笑しながらスツールを持ってくると座った
「体調は…大丈夫ではないかな」
『え…何でオールマイトさんが?というか、此処って…』
「私の家さ」
その返しに目を丸くして驚いてしまった…というより、何で?という疑問の方がすぐに出てきた
『あの…私職場体験してたと思うんですが…』
自分で言いながら思い出す。そう…職場体験の最終日でファイターさんと一緒に爆発現場に行って…子供を助けて…爆豪君に任せて…その後…後って…
「すげぇ熱だ」
1番最後の光景を思い出した。爆豪君が額に手を置いて、そんな事を言っていた気がする。その後の事は…覚えてない。多分そこで気を失ったんだと思うけど…
でもそこまで思い出せても、今目の前にオールマイトさんがいる理由には結び付かない。一先ず気を失う前の記憶だけ伝えるとオールマイトさんは言いにくそうに教えてくれた
「爆豪少年が君に代わって、私からの電話に出たんだよ」
事務所から私とファイターさんが事件に巻き込まれたと連絡が来たオールマイトさんが慌てて私に電話をしたらしい
『ふぁッ…ファイターさんの怪我は…』
「あぁ、事務所から連絡が来たよ。火傷もすぐに病院で手当てしたから、大事には至らなかったって。君が見つかった事も一応伝えておいたから、きっと今頃安心していると思うよ」
ニコッと笑ったオールマイトさんに対して、笑い返せず、自然に視線は下がる。私がもっと上手く
すると、そんな心情を察してくれたのか、オールマイトさんは私の肩に手を置いた。視線を上げると、オールマイトさんは笑顔のまま頷いた
「ファイターが怪我をしたのは、君のせいじゃない。これだけは言える。彼は誰かのせいだなんて思う男じゃないからね」
気にするな、と親指を立ててフォローしてくれたオールマイトさんに軽く頭を下げて、ありがとうございますとだけ伝えた。ちゃんと回復したら謝ろう、と心の中で決めて、もう1つ気になっていた事について尋ねた
『爆豪君が電話に出たって…何か言ってましたか?』
「いや、電話では特には…私が着いた時も君を車に運んでくれた時も何も言わなかったし、聞いてこなかったよ」
そうですか…と声に出すものの、どんどん心臓の鼓動が速くなる感覚がした。爆豪君には…きっと、いや…完全にバレた。あの怪我の状態で傍にいた時点で…刺さってたナイフを抜く様に頼んじゃったし…
「あの時の君は重傷と言っていい程の怪我をしていたから、自宅に送る前に私の所で様子を見ようと思ってね。お家には1日体験が長引いたと伝えてはおいてるから、大丈夫だとは思うけど…」
爆豪君に体質の事がバレたかもしれないのを伝えようとしたけれど、オールマイトさんがそう苦笑しながら申し訳なさそうにしているから、慌てて首を横に振った
『ぁ、その…ありがとうございます。ご迷惑お掛けして…ベッドだって汚れてしまいますし…』
「そんなの気にしなくて良いよ。本当なら病院で着替えだけ頼もうと思ったんだけど、血も乾いていたし、体質がバレるかもしれないと思ってね。私の判断になってしまったけど…」
確かに身体から感じるスーツの感覚は血が乾いてか、カピカピな感じだ。多分ベッドもそこまで血で汚れてはいない…と良いけど…
『わざわざありがとうございます。汚れてたら弁償します』
「ははは、学生がそんな事気にするな。私も疲れて汚れたままベッドに倒れ込んで、寝てしまう事はあるし」
何処まで心が広いのか。そんな優しさに甘える形になってしまうけれど、身動き出来ない今はただ感謝の言葉を伝えるしか出来なかった。その後、オールマイトさんは私に今日1日は此処で安静にしている様に話した
「朝ご飯はおかゆ作ってあるから、食べられそうなら食べてね。お昼は出前とって良いから。飲み物はお水とかお茶しかないけど、足りなければ冷蔵庫にあるからね」
オールマイトさんはペットボトルを数本ベッドと湯気が出る1人用の土鍋を横のサイドテーブルに置いた。こんなに親切にされると逆に罪悪感が…
『あ、ありがとうございます…』
いいのいいの、とオールマイトさんは私の頭を軽く撫でると、椅子に掛けていたスーツの上着を羽織った。
『もう登校するんですか?』
鞄の中の持ち物を確認するオールマイトさんに思わず尋ねると、親指を立てて、そうだよ!と返ってきた。いやいやいや…え?此処ってそんなに学校から遠い場所なの?
口には出さなかったものの、雰囲気で私が怪訝に思っているのが分かったのか、オールマイトさんは愉快そうに笑った
「私はね、登校している間に困ってる人がいたらつい手助けしたくなっちゃうんだ。
おかげでいつも遅刻ギリギリだよ!、と笑うオールマイトさん。そういえば…初めて仮眠室で話した時もおばあさんに道案内してたらみたいな事言ってたっけ…
でもそれを見積もって5時半に出るって…登校時間までの約3時間でどれだけ社会に貢献してるんだろうか。さすが平和の象徴…NO.1ヒーロー…
「あ、あと此処は好きに使って良いからね。動ける様になったらシャワーでも浴びると良い。私の服になっちゃうけど、一応着替えはそこに置いてあるから」
じゃ!と手を上げた瞬間、オールマイトさんは瞬時に皆の見慣れたあの筋肉質な身体へ変化し、はははは!と笑いながら出て行った
◆◆◆ ◆◆◆
『とりあえず…シャワー借りよう』
まだ熱は下がっていないけれど、風邪の作用による熱ではないから、シャワーは浴びようとゆっくりベッドを降りる。ふらふらな足取りでどうにか用意してもらった着替えを持って、浴室へ
壁に手を着きながら歩く中で、良い部屋に住んでるなぁ…と呑気な事を思う。何とか浴室に辿り着き、脱衣所で服を脱ぐ。バサッと雑に床に落ちたスーツの血塗れ加減に血の気が引いた
『わ…私…よく生きてたな…』
慌てて全裸の身体を見る。表面は完治したからなのか傷口はもう何処かは分からない。けれど、所々軽く押すとズキッと痛みが走る箇所があった。恐らくそこが負傷箇所で、内側はまだ完治していないのだと理解した
でも、いつもみたいな毒は吐かない。今回はこの身体の体質に助けられた様なものだからだ。この体質でなければ…きっと今度こそ死んでいたと思う。認めたくないけれど…
◆◆◆ ◆◆◆
痛む身体に鞭を打ち、何とかシャワーを浴び終えて、ベッドに戻る。オールマイトさんが用意した着替えは上下あったけれど、ブカブカで上だけ来てもワンピースみたいになってしまうから、とりあえず上だけ借りた
ベッドに座った瞬間、どっと疲れたかの様に重力に従って身体が重くなった。この行き来だけでこんなに疲れるって…面倒臭い。とりあえず怠さを紛らわす様にお茶の方へ手を伸ばした時、スマホの通知ランプが点滅しているのに気付いた
お茶を一口飲んでからスマホを開いてみると、SNSトーク通知が何十件と表示されて一瞬固まってしまった。内容を確認すると、グループではなく、A組のみんなが個人でメッセージを送ってきている。時間帯的に朝のHR直後だったのに、恐らく相澤先生から私が休んでいる理由を何かしら聞かされたんだろうと察した
電話も何本か掛かってきていたが、折り返しはしなかった。この状況をどう説明すれば良いのか。相澤先生がどう説明しているか分からないし、実際まだ本調子じゃないから下手に平気だなんて言えないし…
『良いや…考えたら頭痛くなってくるし…』
浅くため息を吐き、画面をオフにしようとした時、画面にポロンッとニュースの知らせが届いた。気にするつもりはなかったけれど、見出しが昨日の爆発事件についてだったから、思わず記事を開いてしまった
【突然街を襲った爆発事件の犯人はあの連続殺人事件と同一犯!?】
【無人テナントからの爆発だった為、犠牲者出ず】
【目撃者のインタビューから見える現場の一部始終】
記事にはずらずらと犯行に及んだ
【今回の犯人グループと
『
開くと、警察から見た今回の犯人グループの動きが殺人事件としては不可解な点が多い事から深堀りし、最近動き出した
狙いが私であった時点であの
「
あ…と声が漏れた。そうだ、あいつ等は誰かに頼まれた様な口調だった。独断じゃない。それを考えると…あいつ等というより、あいつ等に私を殺す様に頼んだ人物が
でもそれこそ分からない。USJ事件で私がいたならともかく、直接関わったタイミングなんてない。何で私を知ってる?体育祭の中継で知っただけで殺す対象に入れるっていうのも考えにくいし…
『もぉおおお…しんどい…』
八つ当たりの様に一気に見ていた記事を消してスマホもオフにした。私が分かる訳ないじゃん、と自分にため息を吐いて再びベッドに横になると、私は目を閉じた