事前能力試験
「オールマイトさん。不死風は自分の個性を把握してないんですか?」
「個性については詳しく聞いてないけど…何で?」
「あいつは風でモノが斬れる事を知らないみたいですよ」
「え、そうなの?じゃあ彼女はまだ自分の個性で何が出来るのかよく分かってないって事かぃ?」
「はい。まぁ、だから…今此処で」
相澤は首に巻かれた包帯を解き、金色のゴーグルを嵌めて、口元を釣り上げた
「不死風の個性を引きずり出します」
◇◇◇ ◇◇◇
『そろそろ5分経つかな。それにしても…どうしようかな』
一先ず路地裏に隠れてみたけど、此処じゃ身動き出来ないどころか四方八方から狙われる。相澤先生がどんな個性なのかも知らないのに…
『もう少し見晴らしがいい所の方が良いのかッ…』
「判断がおせぇな」
真上から声と共に包帯が横スレスレに伸びてきた。包帯とは思えない程鋭く地面に突き刺さっているのを見て、一気に血の気が引いた
咄嗟に相澤先生を視界に入れながら間合いをとる
「チッ、外したか」
あんなの当たったらこっちが地面にめり込んでた
あぶなッ…
フヨフヨと相澤先生の周りには解かれた包帯が浮いている。でもあれは着ていた服の一部だから個性ではない事はすぐ分かった。視界に入った以上は下手に逃げられない。だったら…
『真っ向勝負…ッ!』
姿勢を低くして、足に風を集める。足元に集中した風が渦を巻き出し、軽く身体を押し出そうとしたのを合図に力一杯踏み込んだ
強風の風に乗って、一気に相澤先生の目の前へ。そのまま空中で身体を捻らせて、勢いを保ったまま相澤先生へ回し蹴りを試みるが…
「女の標準の筋力で男に敵うと思うのか?」
それ相応の打撃音が聞こえたと思ったが、相澤先生に受け止められた。瞬時に足に包帯が巻き付き、そのまま振り上げられる
さっきの場所より遠くに飛ばされたが、地面に叩きつけられまいと風でクッションを作り、衝撃を抑えた。けれど、打撃は少なからず受けてしまった
『いったぁッ…何あの包帯…厄介すぎ…』
相澤先生は休む暇を与えない為にか、もうすぐそこまで迫ってる
逃げる?
それとももう1度オールマイトさん人形を狙う?
『もう迷ってる暇ないっつーのッ!』
再び姿勢を低くして足に風を集める。が、目の前まで来た相澤先生の目が見開かれ、赤く光ったと思えば、集めていた風がどういう訳か消えてしまった
『風がッ…』
「効かないなら、すぐに他の方法を探せ!」
目の前まで来た相澤先生の蹴りを即座に腕でガードした。が、やはり全くトレーニングとかそういった事をしていなかったからか、骨が軋む
遠慮ないな、ホントにッ…!
至近距離での攻防。といっても、私が個性なしで敵う筈がない。一方的に受ける打撃を躱すか防ぐくらいしか出来ないでいた
◇◇◇ ◇◇◇
「うわぁ…相澤先生厳しい…」
「急に呼び出されたと思えば、彼女は一体誰なのですか?」
オールマイトから呼び出され、モニター室にやってきたのは1−Aの生徒達。モニターに映し出されているのは見覚えのない女の子と相澤が戦っている場面
「彼女は君達のクラス、1−Aの新入生だ」
親指を立たせながら笑って答えたオールマイトに、その場の生徒達は一斉に反応した
「新入生って何だよ!?」
「そんな事一言も相澤先生は言っていませんでした!どういう事なんですか!?」
「ちょちょッ、飯田君落ち着いて!」
「お友達が増えるわね」
「そうだよね。どういう子なんだろう」
驚いている者もいれば、新しいクラスメイトにウキウキする者も出てきた。そこにクラス1冷静な轟が手を上げてオールマイトに質問した
「急な事で分かんねェけど、その新入生と相澤先生が何で戦ってるんですか?」
「そう、それね。今彼女は君達のクラスに入る前の能力試験をしているんだよ」
オールマイトが今行われている試験の合格条件と説明を皆にした。それに生徒達は納得したものの、必死に相澤の打撃を受け止め続けている柊風乃の様子に黙っていた爆豪が口を開いた
「何であいつは無傷でいんだよ」
その言葉にオールマイトの表情は笑顔から苦笑に変わる
「女の身体であそこまで打撃受けてたら普通骨にヒビが入るか、最悪折れる。なのにあいつはかすり傷1つねェ」
休む事なく相澤が打撃を放っているが、柊風乃自身そこまで怪我をしている…訳ではない。腕の細さからしてすぐに折れてしまいそうではあるが…
一方でオールマイトはこの短時間で爆豪がその部分に着目した事に苦笑した
爆豪少年…
それは今察して欲しくなかった…
◇◇◇ ◇◇◇
「受けてばかりじゃ、タイムオーバーになるぞ?」
腕がそろそろ限界ッ…
打撃受けすぎて腕の感覚がなくなりつつあるし、このままじゃ人形取るどころか先生の言う通りタイムアップになる
どうする…と思考をフル回転させている時、相澤先生が目を細め、閉じたのをゴーグル越しで見えた直後に身体がどこか軽くなったのを感じた。何だと思う間もなく咄嗟に腕に意識を集中する
『ふぬぁッ…!』
ゴオォオオッ!
相澤先生が瞬きする為に瞳を閉じた本当の一瞬で腕から風を生み出せた。切羽詰まった状態で勢いのまま横に腕を振り切り、周りの瓦礫や小石などを巻き込んで砂嵐の様な強風を即興で作り出す
相澤先生も相澤先生で包帯をすぐさま広げて、一気に風を分散させた。けれど、その頃には私は戻った個性で遠くへ移動。ビル群に紛れた
「風ってのは本当に便利だな…」
長時間目を開けたせいで酷く乾く。懐からだした目薬を両目にさして、相澤は口を釣り上げた