成長






「ボンゴレ10代目か?」
「あぁ」

「そうか…」

もうそんな時期か…
10代目候補つったら、家光の息子だったっけか?9代目から少し耳に挟んだくらいで、細かい所までは分からない



「近々、お前にも日本に来てもらうつもりだ。ボス候補とその守護者達を鍛えてもらう為にな」

「おぉ。それは全然構わねーが…リボーン」
「何だ」

「俺、沙羅が好きみてーだ」

こんな言葉を突然発しても、リボーンは驚く訳でもなく表情を変えずに平然とニヒルに笑って見せた




「ロリコンか」
「そんなんじゃねーよ!」

「冗談だぞ」

まぁ…ロリコンなんて、思われても仕方ねーがな。なんせ22歳が12歳の子供を好きになったなんて、ロリコン以外ねーか…




「沙羅の成長ぶりや考え方を見てきて、子供として見えなくなってきた…だろ?」
「ぅッ…心を簡単に見透かすなよ…」

此処はさすがと言っていい程見事に心を見透かされた。もう苦笑するしかない




「知らねー内に“可愛い教え子”から“守りたい女”になってた。ただそれだけだ」

「確かにあいつはいい女だ」

その言葉に今度は俺の方が呆気に取られて目を丸くした



「ぉ…おぉ…リボーンからそんな言葉が出るとは…」
「本当の事を言ったまでだ。あと数年早く産まれてきてれば口説いてやったぞ」

恥ずかし気もなくさらっと言うリボーン



「だがそれ以前に、沙羅は俺の親友だからな」

この最強と云われるヒットマンにここまで言わせる沙羅は素直にすげぇと思う。お世辞とかそんな事言うタイプではない事は俺が1番分かってる。だから本音なんだろうが…



「とにかく俺はすぐって訳じゃねーが日本に発つつもりだ。沙羅の事は頼んだぞ、ディーノ」

「あぁ。任せとけ」

「俺がいねー間に沙羅に手出だすなよ?」

分かってるよ!、と即答で返すと、小さく笑ってリボーンは本部をあとにしていった






◆◆◆ ◆◆◆






『うぅ…身体中が痛い…ディーノが言った通り休むのも大切かも…」

12歳ですることじゃないよね、と自分に苦笑する。9代目曰く、私の年代だと小学校と呼ばれる所に通って勉強をするらしいのだが…

基本的な読み書きや計算とかはこのアジトで座学として教わってきたから良いんだけれども、学校ってどんな所なんだろう。それはずっと気にはなっている

でもそんな事気にしている場合ではない。弱音を吐いたら殺されるか、捨てられる。子供だからって甘えも許されない世界に身を置いているんだから…



『もっと強く…ならなきゃ』

みんなを守るのが今の私の生きる意味なんだから…

目を閉じ、頭に浮かんだのは9代目と初めて出逢った時のあの光景。命を救われ、居場所をもらった瞬間…

9代目の顔は穏やかで、優しく微笑みながら泣きじゃくっている私の頭を撫でてくれた。自然に口元が緩む





『本当に守り通せるの?』

頭に響いた声に思わず目をバチッと見開いた。もう1人の自分に言われた様な…嫌な感じ。気のせいか。正直、そう自分に思い込ますだけ。そうしないと、意志が揺らいでしまうから

沙羅は両頬を強く叩いた

自分の意志を固定する様に…








◆◆◆〔1年後〕◆◆◆








今年で13歳。最近だが、漸く実戦に慣れてきた。ディーノの付き添われではあるけれど、欠かさず修行していたおかげか、死ぬ気の炎もまともに戦えるぐらい今ではコントロール出来る様になった

そして、ある日。何故か9代目から急用があると急かされ、呼び出された。9代目が急用と言って私を呼び出すのは初めてだから何事かと足早に執務室へ




『9代目、沙羅です』
「入ってきてくれ」

一礼して部屋に入室した。9代目は何やら真剣な眼差しで此方を見ていた。その様子から、やはりただ事ではないと改めて感じ取った

何かしたかな…
修行自体は順調だってディーノも言ってたけど、まさか9代目からしたらそんな事ない…とか?

呼び出しなんて滅多にないから必要以上に頭の中で嫌な想像が駆け巡った




「沙羅、お前に渡したいモノがあるんだ」
『何ですか?』

頷いた9代目は席を立ち、部屋の奥に設置してある頑丈な金庫の扉を開け、何かを取り出すのが見える。戻ってきた9代目の手元には、真っ黒な小さい正方形の箱。表面には金でボンゴレの紋章刻まれている



『あの…これは…』
「お前に託すべきモノだ。開けてごらん」

手渡された箱はある程度の重みがあった。少し躊躇しながらも、ゆっくり蓋を開け、その中身に思わず声を漏らした



『ぇッ…?』

中には1つのリング。青・赤・藍色・紫・緑・黄色…そして中央にオレンジのクリスタルが埋め込まれたシルバーリングだった



『何のリングですか?』

「それは虹のボンゴレングだよ」
『虹って…えッ!?』

「お前を正式にボンゴレの虹の守護者と認めた証だ」
『正式なんてッ…そんな、まだこんな力不足ですし…』

受け取れません、と沙羅は9代目へ箱を差し出した。9代目はその行動に目を丸くしてた



『そんな長い歴史がある由緒正しいリングを…まだ未熟な私が受け取っていいモノではありません…』

「顔を上げなさい。沙羅」

俯いていた顔をゆっくり上げた。目に映った9代目の顔には穏やかな笑みが…



「ディーノからお前の成長ぶりは随時聞いているよ。この3年間、良く頑張ったね」

そう言って9代目は頭を優しく撫でてくれた。9代目に褒められるのは月日が経っても嬉しいから、自然に口元が緩んでしまうが、ニヤけてる場合じゃないと口元に力が入った



『で、ですが私はその…虹の守護者としてリングを填めるには弱いというか…』

だから…と語尾が小さくなってしまう。3年間修行していたとはいえ、1人前になって漸く手に出来るリングだ。こんなど素人から3年間でどう成長出来ただろうか。9代目達の敵という人間を殺すのに躊躇はないものの、まだ判断力だって鈍い

命乞いされれば躊躇してしまう。可哀想だと一瞬でも思ってしまう。そんなブレブレのままではいられないのに…




「リボーンから聞いたんだが、沙羅は既にクレアに会ったらしいね?」

『ぁッ…はい。以前に1度だけですが…』

初代虹の守護者であるクレアさん。あの日から1度も姿を現さなくなってしまったけれど、その出逢いの事を9代目はリボーンを通して知っていたらしい



「沙羅はクレアが願っていた…いや、望んでいた後継者だ」



《私は貴方を待っていたんです》

クレアさんが言っていた言葉を思い出すと共に、あの微笑んだ顔が頭を過った



「私も9代目になる直前に試されたモノだよ。覚悟や意志をね」

懐かしそうに目を細めて9代目は話す。口調からして、9代目も私と同じ様な体験をしたのだと直感した



「お前の言う通り強さは大切だ。強くなければ守れるモノは限られてしまう。だが、己を強くするのは決して力ではなく気持ちなんだよ」

9代目は私と同じ目線までしゃがみ込んで、頭を撫でながら続ける



「誰かを大切だと思う気持ちが人を強くするんだ、沙羅。お前は誰よりも仲間の大切さを知っている子だ。守りたいという気持ちが人1倍強い事も私は知っているよ。大丈夫、お前なら良い守護者になる」

私のお墨付きだよ、とニッコリ優しく笑う9代目の表情は最後の消える直接に見せたクレアさんの笑顔を思い出させた。胸が締め付けられる



「クレアの為にも、そして…私達の為にも。受け取ってほしい」

再び9代目はリングの入った箱を沙羅に差し出した。ゆっくり沙羅は箱を受け取り、蓋を開けた

恐る恐るリングを手に取ると何故か安心感と共に一瞬で温かい何かが身体全体を巡った。妙に安心してしまう…

そのリングを右中指に填めると、9代目は頷いて満足気に微笑んだ



『大切に…します。ボンゴレの意志も、クレアさんの意志も…』

最後に9代目に深く一礼して、部屋をあとにした。終始、9代目はいつもの微笑みだった。リングを見下ろしながら通路を歩く

7つのクリスタルの放つ色が填める前より濃くなった気がするけれど、気のせいだろうか…

これを填めたのなら、中途半端な覚悟じゃだめだ。これはこの世界の残酷な摂理の中で最後まで仲間を信じて守り続けたクレアさんの意志の塊。その意志を今、正式に受け継いだのだ

私はその意志を、絶対に裏切らない


【成長 END】

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