始まり






日本に来てすぐに何故かみんな揃って出て行ってしまった。私は来るなと念を押されたから、部屋でみんなの帰りを待つしかなく、大人しく待ってる訳だが…

何が起こっているのか…
何で私は行ってはいけないのか…

何でボンゴレリングを狙うの?
XANXUSは何を考えてるの?
根絶やしって…どういう事?



「ただいま、沙羅」
『ぁッ…おかえり』

「何深刻な顔してんの?此処はイタリアとは違ってバカに平和な日本だぜ?」

『そう…なんだけど…』

逆に何でこんな平和な国に揃って出向いているのか。物騒な事になっていないと良いんだけど…



『ところでさ、何しに行ってたの?みんな揃って』
「ししし、何か面白い事が始まるみたいだよ?」

ベルの話によると、ボンゴレリングの所有者を選ぶ為にリング争奪戦というものが始まったらしい。そこで漸く、XANXUSが9代目の息子である事。後継者である事。そして、ヴァリアーのみんなも次期ボンゴレの守護者としての資格がある事を伝えられた



「対戦する奴ら見たけどただの一般人ばっかだし、俺達の殺気にすっかりビビってたぜ?」

「あんな雑魚共は皆殺しにしてやる」

物騒な事を言っているレヴィに苦笑した。でもいくらボンゴレボス候補だとしても、一般人と殺しのプロであるXANXUS達。どんな戦いになるのか想像したくない血みどろなモノになる予感しかしない

しかも守護者同士も戦うって…綱吉君側の守護者はベルから聞く限りほとんど一般人。明らかに綱吉君側が不利

戦いを提案した9代目と家光さんは何を考えているのだろうか…




『明日は晴でルッスーリアって事?』
「そうなのよ。どんな子が相手か楽しみだわ」

ルッスは肉弾戦で戦える事に喜んでいる様で、嬉しそうに笑っている。でもいくらルッスでも何が起こるか分からない



『頑張ってね、ルッス。油断しちゃダメだよ』

「心配しないで大丈夫よ。期待して待っててちょうだい」

笑顔で返した…つもり。勝って=殺すという意味になる気がして…頑張ってとしか言えなかった。戦いになっている以上、ましてやそれが後継者選びという今後のボンゴレを決める重要な局面であるのなら、誰がどうなろうが仕方ない事だというのに…

相手が家光さんの息子であるからなのか、いつも以上に気が重い気がしてならない







◆◆◆ ◆◆◆






明晩、ルッスは帰ってきた
ゴーラ・モスカに担がれたまま…

駆け寄って気付いた。自慢の左足のメタル・ニーが無残に粉々に砕け落ちている。まさかルッスのメタル・ニーがこんなに粉砕されるなんて…



『ルッス!ルッスってばッ!』

揺さぶってもぐったりしている。怪我も早く手当てしないと危険だった。ベル達は何がおかしいのか、笑いながら敗れた制裁でモスカにやられた傷の方が大きいな、と口々にルッスを嘲笑う



『モスカ!ルッスーリアを治療室に!』

どう急かしてもモスカは微動だにしない。意思がないというのはこんなにも面倒くさいモノなのだろうか



「良いぜ、モスカ。沙羅の言う事聞いてやれよ」

隣にやってきたベルが指示をすると、モスカは少しの間の後にルッスを担いだまま治療室へ向かっていった



『ぁ…ありがとう、ベル』
「礼は良いって。沙羅が来る前に造られたモスカだから、沙羅の言う事聞かないだけだし」

沙羅がいなかったら見殺しにしてただろうしね、と悪びれもなく平然とそう笑顔で続けるベルに少し悪寒が走る。ヴァリアーの掟は理解しているつもりだったけれど、こうも実際目の当たりにすると…怖い

みんな何事もなかった様に各々の部屋へ戻っていく。負けて悔しがる訳でも、仲間がやられて悲しむ訳でもなく、ただ平然としている。浅くため息を吐き、モスカの後を追うとしたが、突然腕を掴まれた

誰もいなくなった筈なのに、と振り向くとそこには何故かXANXUSが険しい表情で立っていた




「何しに行く」
『ルッスを治療しに行くんだよ。今なら晴の炎で助かる』

「勝手な真似するんじゃねぇ。カスはそのまま殺しとけ」

『……は…?』

その言葉で私の中の何かがキレた



『貴方を後継者にする為に戦っている様なモノなのに…そんな言葉しか言えないの?』

手が震え出す。これはXANXUSの威圧に圧されている訳ではなく、平然とする彼の発言に怒りにも似た苛立ちが滲み出ていたからだ



『私には貴方の考えは理解出来ない。私は私の思う通りに行動する。逆らった制裁があろうがなかろうが関係ないから』

それだけXANXUSに言い捨てて、手を振り解き、さっさとモスカを追った。はっきりモノを言ったのは初めてかもしれない。背中から視線が痛い程伝わるけれど、構わずXANXUSの前から立ち去った



「思ったより気の強ぇ女だな」





◆◆◆ ◆◆◆





『これでもう大丈夫の筈だけど…』

あれから晴の炎の隊員を掻き集めて、みんなでルッスの治療を行った。日頃では出さない量の炎を彼に送り続けたせいでやけに眠い。身体がダルい

そのダルさに身を任せる様に、そのままベッドに寄り掛かる体勢で眠りに就いてしまった








目が覚め、眠ってしまったと慌てて身体を起こし、心電計モニターに目をやる。異常は見られず、ルッスーリアも静かに眠っている

怪我も悪化している訳ではなく、一安心していると、ルッスの指がピクッと動き、微かな呻き声と共に彼の目が薄ら開いた




『おはよう、ルッス』

「あ…ら?沙羅ちゃん?此処は…」

『ヴァリアーの医務室だよ。目が覚めて良かった』
「ぇッ…私は負けたのよ!?どうして助けたの!?」

『Σま、まだ起き上がらないで!傷は癒えたけど完治した訳じゃッ…』
「貴方にもしもの事があったらどうするの!?」

腕を掴まれて言われたのはまさかの私を気遣う言葉。目を丸くして、呆気に取られてしまった

ヴァリアーの掟では任務の失敗は許されない。ましてや幹部クラスなら尚更だ。だからルッスは失敗して、始末される筈だった所を助けてしまった私への報復を…心配してくれたんだろう



「何でこんな危険な真似を…」
『別に理由なんてないよ』

今度はルッスが目を丸くして私を見上げた



『私は死ぬ事とか怖くないし、大切な人が生きてさえいれば良いんだよ』

「沙羅ちゃん…」

『私の心配よりもルッスは自分の体調気にしててよね。最低でも数日は安静にしてないといけないくらいなんだから』

始末はその場でやる傾向があるヴァリアーだけれど、モスカの制裁だけで済ませたのを考えると、ルッスが殺される事はないんだろう。治療しなければ危なかったのは事実だけれど、私が眠ってしまった間は何も起きていないみたいだし

良かった良かった、と1人で安心していると、ルッスは枕元に置いてあるサングラスを取り、掛けながら口を開いた


「ありがとうね、沙羅ちゃん」

今度お返しをさせてもらうわ、と笑顔のルッスに本当に安堵した。そういえば戦いは連日行われると聞いた。昨日が晴だったし、今日は誰なのだろうかと気になり、尋ねた




「確か雷だったと思うわよ?レヴィは争奪戦が決定してからずっと意気込んでいたし、自信があるんでしょうね」

私も行きたいという気持ちはずっとある。今ヴァリアーのみんなは私の仲間だし、やっぱり傷付いて帰ってくるのを見るのは嫌だ

でも行ってどうするの?
沢田君達の負けを望みながら応援するの?
家光さんの息子さんの…敗北を望むの?




「沙羅の笑顔はとっても可愛いな!」

初めて出会った時の家光さんの笑顔が過ぎった直後に襲った鈍い痛み。それはジワジワと胸を圧迫している気がする。恩を仇で返すという言葉がぴったりはまるこの状況下でも、あたしは何も出来ないのだ


そしてまた…その戦いの夜はやって来る


【始まり END】

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