新たな景色






夜、リボーンに電話を掛けながら荷物をまとめていた



『必要な物とかないの?』
〔各属性の武器を1つずつ持ってきてくれ。種類は何でも良いぞ〕

そんな日本の印象と真反対な物にキャリーケースに荷物を入れる手が止まった



『日本でそんなの必要なの?』
〔まぁな〕

此処で詳細を伝えないのが何とも彼らしい。受話器越しで絶対企んだ笑みを浮かべているに違いない。そこでしつこく尋ねたとて、素直に話すリボーンでないのはよく知っているから、私も私で分かったとしか答えなかった





「あと、空港では家光が迎えに行くからな」
『え?』






◆◆◆ 次の日 ◆◆◆






「沙羅ー!」
『Σぐえッ!』

何十時間かけて日本の空港に到着。早朝だったからか、あまり人気は多くなく、普段着でキャリケースを引きながらイタリアとは違う何処か平和な雰囲気に浸っていると、後ろから誰かが抱き着いてきた



「会いたかったぞぉぉお!無事で何よりだぁ!」

半泣きで強く抱き締めてきたのは家光さん。スーツ姿だというのに、私を抱き上げてぶんぶんと左右に振ってくる



『い、家光さん…苦しいです…』

私の声に我に返った様に慌てて謝りながら解放してくれた家光さんは涙目な目元を拭って笑った



「また会えて嬉しいぞ、沙羅」
『ぁ…わ、私もです』

ぎこちなくだが、笑って返した。昨日のリボーンの話で争奪戦中の家光さんの事を少しだけ聞いていた。9代目を救出すべく、イタリアへ向かったけれど、影武者の罠に掛かり、怪我をしたとか…

きっと影武者を用意したのはヴァリアー側だろうし、それを考えると家光さんと会うのに少し抵抗があったけれど、当の本人は9代目同様に笑ってくれている

罪悪感は残っているけれど…素直に安心した





「ツナ達は今日学校なんだ。だから、下校時間まで俺が並盛を案内しよう」

空港から出てすぐに車が用意されているという事で家光さんに連れられながら外へやって来た。日本へは争奪戦以来だけれど、ほぼ外に出ていないせいか、すごく新鮮な光景に見えた

そのまま歩いて人気のない路地に行くと、1台の車が停まっていた



「久しぶりね、沙羅」
『お…お久しぶりです。オレガノさん』

運転席から降りてきたのは家光さんの秘書であるオレガノさんだった。笑い掛けてくれたおかげで私も無意識に表情が緩んだ



「元気そうで良かったわ。争奪戦中に沙羅らしき人物がヴァリアーにいるという情報はあったのだけど、確かめる術がなかったから…」

『すいません…ご心配お掛けして…』

慌てて頭を下げると、オレガノさんは顔を上げなさい、と私の肩に手を置いた。恐る恐る上げた先の彼女の表情は変わらず柔らかい



「誰も貴方を責めないわ、沙羅。さ、乗りなさい」

少し躊躇いながらも家光さんとオレガノさんに促されながら車に乗り込んだ。エンジンが掛かり、そのまま車は動き出す



「沙羅、預かっていた物を今渡そうか」

そう言うと家光さんは黒いアタッシュケースを数個手渡してきた。それは身に覚えがあるというより、私が日本に経つ前にディーノ経由で預かってもらっていた物だった

中身はリボーンに頼まれた各属性別の武器。受け取って中身を確認していると、家光さんからまさかの発言が…




「ツナ達に会う時に、剣で奇襲をしてもらいたいんだ」
『…はい?』

銃を弄る手が止まった。奇襲って…



『どういう事ですか?』

「まぁ、リボーンの案ではあるんだが…」

家光さんも苦笑しながら経緯を説明してくれた。何でもここ数日ですっかり沢田君達の緊張感が解けているのだとか。争奪戦を無事に終えて安心しきっているのをリボーンが感じ取り、日本に来るなら是非とも叩き直してくれ、と案を提示したらしい



『わ、私正直ヴァリアーに長くいたせいか…手加減とかそういうの苦手なんですけど…』

「手加減なんて必要ないぞ!俺も親としてあいつには立派なボスになってほしいしな!」

親指を立てて笑う家光さんに苦笑しか出来ない。目標ターゲットであるなら情なんてかけはしないけれど、ほぼ初対面に近く、場所がこんな平和な日本である時点でやる気は湧かない…けれど、リボーンからも家光さんからも頼まれては断れない

そんなこんなで人気のある所は車の中から見物し、人気のない所は降りて実際に見て案内してもらった。見れば見るほどイタリアとは全く違う雰囲気でやはり落ち着かない




「あらあら貴方、とっても綺麗な髪の色ね?」

並盛神社という神社にやって来ると、参拝していたであろうお婆さんがすれ違い際に声を掛けてきた



『えっと…』

丁度家光さんはお手洗いへ。オレガノさんは車で待機しているから、実質私1人しかいない。とりあえず日本語は話せるから焦りはしないけれど、不意を突かれたせいで反応が鈍い



「外国の方かしら?」
『ぁ…はい』

「そう。可愛らしいお顔をしているわ」

ニコニコしている柔らかいお婆さんの表情に次第に私も和み、緊張が解されるのを感じた。だが、お婆さんの次の言葉で一瞬息が詰まった




「瞳なんて…珍しい色をしているのね?」
『ぇ…』

鼓動が速くなる。無意識にお婆さんから目を逸らして黙ってしまった。けれど、お婆さんはにこやかな声で一言…



「綺麗な目ね」

綺麗…
すぐにお婆さんに顔を向ける。お婆さんは優しく笑ったまま…またね、とゆっくり会釈して歩き去って行ってしまった。暫く呆然とお婆さんが去って行った方を見つめていると、家光さんが小走りで戻ってきた



「すまんすまん。待たせたな」
『いえ…』

「ん?何かあったのか?」
『…お婆さんに…目が綺麗ねって言われました…』

家光さんに尋ねられ、目元に触れながら呟く様に小さく答えた。左右違う色…見慣れないこの瞳を見て、第一声にそう言われるとは思っていなかった



「そうか…良かったな」

突然の私の言葉にそれ以上家光さんは尋ねようとしてこなかった。空気を読んでくれたのか分からないけれど、目に関してはあまり話したくないから助かる

その後も色々見て回り、日が傾いて淡くオレンジ色に空が染まり始めた頃だった




「そろそろか」

そう家光さんが腕時計を見て呟くと、オレガノさんにある場所を指示して向かうように伝えた。何だろうか…と思いながら大人しくしていると、ある住宅街で車が停まった



「沙羅、降りてくれ」

剣も忘れないようにな、と付け足され、剣帯を腰に括り付けて剣を二刀差し入れてから車を降りた。住宅街と言っても、時間が時間なだけあり、人気はない



「並盛はどうだった?」
『楽しかったです。イタリアと雰囲気が違いすぎて少し落ち着かないですが…』

「ははは、そうだろうな」

日頃からヴァリアーにいたら尚更だろ、と家光さんはおかしそうに笑った


「並盛の案内も此処で終わりだ。俺達も9代目の元へ戻らないといけないからな」

『あ…今日はありがとうございました。街の案内までして頂いて』

お礼を言いそびれていたのに気付き、慌てて姿勢を正して家光さんに頭を下げた。オレガノさんにも会釈すると、彼女は微笑みながら手を軽く振って返してくれた



「あとこれを耳に着けておいてくれ」

そう手渡されたのは小型のワイヤレスイヤホン型の真っ黒な無線だった



「暫くしたらリボーンから連絡が来る筈だ。それまで此処で待っていてくれ。剣以外の武器に関しては此方で指定の場所に届けておくからな」

指定の場所?と首を傾げるが、リボーンに聞いてみろとその場では教えもらえなかった。そして私にプレゼントだと言って家光さんは立ち去り際に黒い狐面をくれた。奇襲の時に身に着けて沢田君達を驚かせてくれと悪戯な笑みを浮かべていたのが何とも家光さんらしい







〔ちゃおっす〕

どうやって着けるのかな…と狐面を弄っていると、突然耳元でリボーンの声が聞こえて身体が跳ねてしまった



『び…びっくりした…』

〔並盛観光は楽しかったか?〕

バクバクしている胸に手を添えて呼吸を整え、落ち着いた頃に答えた



『楽しかったよ。けど…それより沢田君達を奇襲しろって本気なの?』

〔本気だぞ。やると決めたらやる男だってお前も知ってるだろ〕

そうだけどさ…
戸惑う私に構わずにリボーンは淡々と話し始めた。丁度私のいる地点が沢田君達の普段の帰宅路らしく、学校を出て、今まさに向かってきているらしい。そこに狐面を着けた私が剣で奇襲をかける、という何ともシンプルな作戦

何故剣なのかも、ただ単に銃声で近隣住民が騒ぎ出したら面倒だからという単純な理由だった。そして、初対面が夜だったからという事もあり、改めて沢田君達の属性と特徴を教えてくれた



『今から来るのはその中の山本君と獄寺君と沢田君って事?』
〔そうだぞ〕

雨、嵐、大空…
確かあの時見た感じとリボーンからの特徴で察するに…山本君は刀、獄寺君がダイナマイト、沢田君が私と同じ死ぬ気の炎。ヴァリアーに勝利した時点で、最早一般人とは言えない

浅くため息を吐いて、腹を括った




『分かった…けど、怪我させても怒らないでね』
〔あぁ、楽しみにしてるぞ〕

どういう意味なの…と肩を落として無線を切った。リボーン的にはただの挨拶程度だと思っているだろうけれど、1度剣を抜いてしまえば…暗殺任務の慣れのせいでスイッチが入ってしまう

殺さない様に…
手加減…手加減しないと…









「今日はツナも散々だったな?」
「そうなんだよ…とばっちり受けちゃって」
「10代目にそんな事を!?あいつッ…明日シバいておきます!」

賑やかな声が聞こえてきて、こっそり顔を覗かせると…数メートル先に人影。西日の逆光でよく見えないけれど、リボーンから教えてもらった3人の特徴は確かめられた

あぁ…本当にやるのか…
私の第一印象が…



〔楽しみにしてるぞ〕

無線でのリボーンの言葉が過ぎる。それにふぅ…と小さく息を吐いて狐面を着けた




『親友の前で下手に戦えないか』

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