望み





「な、何ですって!?あいつが今日10代目のお母上のお傍にいるんですか!?」

朝、登校中にいつも通りの2人にツナが沙羅本人から聞いた事を話した。その途端に獄寺がわなわなと震えながらツナの両肩に手を置いた

話した内容とは、1日沙羅が奈々の手伝いをするのに傍にいるというだけなのだが…



「正気ですか、10代目!あの女をお母上のお傍にいさせて!何かあったらどうするんですか!?」
「Σちょ、ぐえ!おお落ち着いて!獄寺君!」

グラグラ揺らす獄寺を必死に宥めるツナの隣で相変わらず山本は笑って首の後ろに手を組む



「良かったじゃねぇか、手伝ってくれるなら」

「何を呑気に言ってんだ、バカ!あの連中のやる事なんてろくなもんじゃねぇ!人質になんてされたらシャレにならねぇだろうが!」
「ひ、人質!?」

そうですよ!、と山本からまたツナに顔を向けた獄寺は深刻な顔つきでツナに訴え続ける




「あいつ等はあの9代目すら攫った奴らです!そこも踏まえて、もっと警戒しないとダメですよ!」
「そ、そんな…」

獄寺の言葉で頭が慌て始めるツナ。ぐるぐる回る不安の中で考える

確かに獄寺の言う事も一理ある事はツナも分かっている。暗殺部隊としての強さも危険さも昨日のあの短時間で身を持って知った。実際に銃や諸々を持ち込んでいる時点で一般人である母親を人質にとる事だって簡単だ。なんなら殺す事だって…

昨日引き止めてしまったけれど…
やっぱり沙羅は危険ッ…





『あんまり料理は得意じゃないですけど、美味しかったなら良かった』

ふと危険信号を発する思考の中に一瞬過ぎった今朝の沙羅の笑顔。何の事もない普通の光景だったけれど、それを思い出した瞬間に不思議と不安が和らいだ




「霧恵さんは…そんな事しないんじゃないかな…」
「じゅッ…10代目?」

まさかこの流れで否定されるとは思っていなかった獄寺はツナから手を離した。山本もツナの反応に視線を向けた



「確かにあのヴァリアーの幹部だし、暗殺だって平気でするんだろうけど…俺は今の霧恵さんがそんな事する様には思えないんだ」

「だ、騙されちゃダメですよ!あいつ等は敵の不意を突くのも得意でしょうし…隙を作って俺達に復讐するかもしれないです!」
「まぁまぁ、そん時はそん時じゃねーか?」

言い合いになりそうな2人の間に入る様に山本がツナに肩組みにして、にこやかに言った



「てめぇ野球バカ!事の重大さに気付いてねぇだけだろ!」
「俺達だってまぐれでもあの強ぇ奴らに勝ったんだ。もしそうだとしたらまたツナを皆で守りゃあ良いじゃねーか」

な?、と促されたツナは山本が賛同してくれた事に戸惑いながらも頷いた




「それに…霧恵さんはリボーンの親友みたいだし」

親友・・の言葉には獄寺だけでなく、山本も驚いた様に目を見開いて固まった…と思えば、直後に獄寺の声が響き渡った



「り、リボーンさんの親友って…あいつの事だったんですか…」
「そうみたい。俺も聞いた時はめちゃくちゃ驚いたけど」

「昨日言ってたもんな。小僧の親友が来るって」

確かにすげぇ強そうだな、と山本は何故か楽しそうに話すが、一方の獄寺は信じられないという様に頭を抱えている



「な、何故…あの女が親友なんだ…何処にそんな接点が…」
「ま、まぁまぁ。そういう訳だからさ。とりあえずリボーンの親友だし、変な事はしないと思うんだ。母さんも霧恵さんといて楽しそうだし」

獄寺を宥めながら一先ず止めていた足を歩かせる。結局ツナに促される様に落ち着きは取り戻した獄寺だったが、沙羅への警戒心は解けなかった






◆◆◆ ◆◆◆






「沙羅ちゃん、お昼食べたらビアンキちゃんと一緒に3人でお買い物行かない?」

皆の洗濯物を干していると、お昼の用意をし始めた奈々さんからそんなお誘いをもらった。1度帰ってきたビアンキさんはリボーンと一緒に散歩に出掛けて、もうすぐ帰ってくるらしい



『もし良ければ、お昼も手伝いますよ』
「あ、なら悪いんだけど玄関前の掃き掃除してくれる?回覧板回したらやるつもりだったんだけど、こんな時間になっちゃったから」

苦笑しながら言う奈々さんに分かりました、とすぐに洗濯物を干してさっさと外へ。いつも綺麗にしているのだろう。あまり目立って汚れている訳でもなかったけれど、とりあえず教えられたほうきが置いてある所へ






『……ッ』

ほうきを見つけて取ろうとした時、手が止まった。ほうき自体に何かある訳じゃない

人間の気配だ。家の中じゃ気付かなかったが…2人くらいの気配。殺気が混じっているのを考えるに…一般人じゃない。私と同じ此方側・・・の人間だ



あからさまに様子を変えたら怪しまれるか…
気付かないふりをしてほうきを取り、再び玄関前に向かった。適当に掃き掃除をしながら考える

特に殺気を放ってるだけで何かをしてくる様子もない…見張ってるだけなのだろうか。でも困った事に此処はボンゴレ10代目である沢田綱吉の家。何なら沢田君以外のマフィアの関係者も出入りのあるであろう場所だ

目標ターゲットが誰なのか定まらない
どうしたものか…





「沙羅」

地面ばかり見ていたせいで気付かなかった。振り向けば、ビアンキさんとリボーンが門の前にいた



『お、おかえりなさい。2人共』
「どうしたの?沙羅」

ビアンキさんに尋ねられ、咄嗟に首を横に振って何でもない事を伝えた。今までの濃い暗殺の経験から気のせいでは絶対ない。けど…リボーン達に言ってどうする

危害を加えようとするならば…殺れば良い
そう決めたら何故か気持ちはすっきりした。完全に暗殺者の考えだけれど、現役で暗殺者なんだから問題はない




「沙羅、俺は今からツナ達の所に行ってくるぞ。お前達は今からママンと買い物だろ?」

しっかり手伝いすんだぞ、と笑って言うと、リボーンはそのまま塀を伝って行ってしまった。すると、ビアンキさんが不意に私の手を取って家の中へ

ほうきを持ったままだというのはお構いなく、ビアンキさんはドアの内鍵を閉めると、真剣な表情を向けてきた




「沙羅、この家の周りを何人か見張ってる輩がいるわ」
『あ…気付いてたんですか』

私だって現役の殺し屋よ、とビアンキさんは続けて耳打ちしてきた



「リボーンが言うには、貴方目当てじゃないかって」
『え…』

「恐らく何処かでヴァリアーの幹部がいる情報を掴んで、貴方を暗殺しに来たんじゃないかしら」
『あー…ヴァリアーは何かと敵が多いですからね』

私がやれやれとため息を吐くと、その反応が意外だったのか、ビアンキさんは目を丸くした



「貴方…物怖じしないのね」
『任務で何人も殺してきましたし、復讐しに命狙われるなんて日常茶飯事ですからねぇ。慣れてしまいました』

何ならヴァリアーの皆の方が怖いです、と苦笑する沙羅にビアンキは一瞬固まったが、すぐに小さく笑った



「リボーンから聞いていた以上に強い女ね。そういう物怖じしない子、好きよ」

何か力になれそうな事があれば言ってちょうだいね、とビアンキさんは言ってくれた。そんな優しい言葉を言われてしまえば、甘えずにはいられず、奈々さんを呼びに行こうと家に上がろうとしたビアンキさんを引き止めた


「何かしら?」
『あの、お願いがあるんですが…』







◆◆◆ ◆◆◆






「よぉ、ツナ」

昼休み、山本が廊下側の窓越しで1人でいるツナに話し掛けた



「獄寺は?」
「獄寺君なら先生に呼ばれて職員室行っちゃった」

そっか、と山本はそう答えるとツナの隣に同じく窓に寄り掛かった





「なぁ、ツナ」
「ん?」

「何で沙羅の事、心配ないって思ったんだ?」

尋ねられた内容ですぐに今朝の事だと悟ったツナはあぁ…と何故か言いにくそうに苦笑して頭を搔いた



「昨日はあんな事された後だったから怖いっていうのが強かったけど、今朝改めて会ったらさ…何か普通の女の子にしか見えなくて…」

山本には隠さずにあの場で獄寺には言えなかった沙羅への印象が変わった事を伝えた



「だって、母さんと朝ご飯作ってる所なんて全然暗殺者と思えないくらい自然だし、作ってくれた卵焼きが美味しかったの褒めたら嬉しそうに笑ってたし…」

獄寺が指摘したヴァリアーが9代目を攫った件には沙羅は関与していなく、寧ろ反対していた事実と争奪戦中の仲間の処分を庇った事実を前にしてヴァリアーだからという理由で嫌悪感を抱くのは少し違うのではないか、とツナは歯切れが悪くも思った事を伝えた



「なるほどな」
「仲間の為に命を捨てられる人だし…そんなに悪い人じゃないと思うんだよ」

獄寺君は多分聞いてくれないと思うけど、と苦笑を崩せずにいるツナに山本も同感とばかりに苦笑し返した



「山本はどう思う?霧恵さんの事」
「俺か?俺は最初っから敵とかそんなの考えてなかったな。昨日あぁされた時はやべぇって思ったけど、話してると良い子そうだし、俺はもう友達って思ってる。スクアーロみたいにさ」

「ぇ…ははは…山本らしいね…」

そうか?、と笑う山本にスクアーロを友達だと思えるのは山本くらいだろ、とそこだけは共感出来ず、ツナは表情を引き攣らせた


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