真実
あ
あ
あ
『リボーンには適わないなぁ…』
リボーンが語る親友の意味。鈍く心に突き刺さる感覚を感じた。もうみんなにはかなりお世話になっているけれど、何処かで薄くでも壁を作っていたのだ
本当は親友の在り方なんて分かってた。リボーンの言った通りの存在だって事も…分かってる
『私の親友になったら…リボーンは不幸になるかもしれないよ?それでも良いの?』
「そんなどうでも良い事をお前が気にする必要はねーぞ。お前はお前の事だけを考えろ」
再びボルサリーノを被り直し、そう言ったリボーンに小さく笑いが吹き出した
『後悔させねーぞ…だっけ。1度はそんなカッコいい言葉言ってみたいよ』
「俺はカッコいいからな」
『うん、リボーンは本当にカッコいいよ』
そう笑う沙羅に心なしか安堵し、口元を緩ませるリボーンだったが…何故親友というワードが突然出てきたのか。何故親友という言葉からあんな思考が出てくるのか。引っ掛かったままでいた
裏切る為?
取り繕う?
いやに具体的な思考である。一般的に親友という単語からは出てこないと思うのだが、沙羅はそう信じている風だ。察するにその誰かも分からぬ人物が沙羅の親友であり…そして裏切った、という事なのだろうか
リボーンはそう考えてはいるが、目の前で嬉しそうに微笑んでいる沙羅に改めて尋ねる気にはさすがになれなかった
◆◆◆ ◆◆◆
一先ずは気に掛かっていた事は伝えて終え、沙羅の部屋を出た。長い通路を歩きながら、さっきの沙羅の一瞬でも見せたあの感情的な態度を思い返す
沙羅は未だに誰問わずに遠慮気味におずおずとする傾向がある。まぁ…まだ過去の記憶が払拭しきれていたいのは事実。4年もの間、人外的な人体実験を強制され、監禁をされていたんだ。2年で埋まる様な傷じゃねーのは確かだ
「あいつの親友ってのはどんな奴だったんだ…」
「リボーン!」
俯かせていた顔を上げると、何故か俺を呼びながら通路の奥から駆け寄ってくる家光と鉢合わせした
尋ねるに、どうやら9代目が話したい事があるらしく、幹部クラス全員に召集をかけているらしい。家光の深刻そうな顔からしてただ事でないことは察しが付いた
一先ず、家光の肩に乗り、9代目の部屋へと向かった
「皆揃ったようだね」
執務室内には既にボンゴレファミリーの幹部とアルコバレーノ達が揃っている。滅多な事がない限り揃わないであろう面々だが…
「どうしたんだ?9代目」
家光の肩から降りながら訪ねた。目の前の9代目の表情は決して穏やかではない
「あぁ。皆に集まってもらったのはラルと家光に極秘で2年前から調べてもらっていた沙羅の事について伝える為だ」
調べていた?
沙羅の事を2年も前から?
一体何の為に…
不意に家光とラルに目をやるが、2人共何とも言えない気まずそうな表情をしていた。そして、9代目はその場にいる全員に、ある資料を手渡していく
表紙には【厳密】の2文字
全員がそれぞれ一枚、ページを捲った。ズラッと並べられた文章に目を通していくが、誰も声を発さない。その場にいた誰もが資料に釘付けになっていたのだ
【霧恵 沙羅】
出身:イタリアのとある村(正式名所不明)
母 イタリア出身
父 日本出身
父親は既に他界(原因不明)
母親は6年前、カリストファミリーにより射殺。霧恵沙羅はその際に逃亡
その後、霧恵沙羅と親しい関係であった“リンナ”と名乗る女の裏切りにより、当時5歳である霧恵沙羅はカリストファミリーに捕らわれる
霧恵沙羅は人体実験・監禁・暴行等の人外的行為を幾度繰り返され、捕われてから4年後、秘められていた能力の暴走からか定かではないが、カリストファミリーを壊滅
尚、死ぬ気の炎【大空・雨・嵐・雲・霧・雷・晴】の7属性の波動が流れており、伝説と謳われた虹の守護者である。更に【闇】という、まだ解明されていない死ぬ気の波動も流れており、その戦力は計り知れない
「何だよ、これは…こら!」
「全属性…それに加えて闇ですか。そんな属性は今まで聞いた事がありませんが…」
最初に声を上げたのはコロネロ。その隣の風も顎に手を当てて眉を寄せた
「ほぉ、人体実験か。これはまた、興味深いな…」
「ヴェルデ、余り面倒な事は考えない方がいいよ」
「しッ…信じられねー!あの沙羅が全属性の炎を持ってるなんてよぉ!」
「おい、ラル・ミルチ。この報告書は正確なのか?」
「俺が調べたのは沙羅の身の回りの関係者についてだ。属性の事については知らなかった」
各々が口々に戸惑いの声を漏らす中、俺自身も信じ難い事実に思わずラルに尋ねるが、ラルもラルで困惑しているように眉を寄せている
「皆驚くのは無理ない。だが、これは事実だ。そっちはどうだった?何かこの情報が正しいと証明出来るモノがあったか?オルゲルト」
尋ねられたオルゲルトは一礼し、口を開いた
「依頼された通り、沙羅に健康診断に見せかけて確認しようとしたんですが…」
「拒否…されたか」
オルゲルトは小さく縦に頷いた。家光がオルゲルトに何を頼んだのか分からない一同はお互い目を合わせて首を傾げた
「おい、家光。沙羅の何を確認しようとしたんだ?こら!」
「身体の何処かに人体実験の痕さえ確認出来れば、この調べの裏付けが出来る。だから、当たり障りなく確認出来ればと思ったんだが…」
「親方様、まだ報告には続きがあります。その…初めは拒否されていたのですが、誰にも言わないという約束で確認は…出来ました」
その言葉にその場がザワつく。一方のオルゲルトは口元に手を当てて、何やら言いにくそうに視線を家光から逸らして俯いた
「あったのか?」
「はい。ですが…沙羅の身体には至る所に実験の痕と思しき傷がありました。中でも…背中には他とは比べ物にならない程大きな傷がありまして…沙羅には申し訳ないですが…吐き気を催す程酷い傷痕でした」
みんなが息を呑んだ。死と隣り合わせで死体も見飽きる程見てきたマフィアのプロでさえ、吐き気を催す程の傷痕。どれだけ酷い実験の日々だったのか…
「ねぇ、その沙羅を裏切った親友のリンナって奴は今も生きてるの?この報告書だけじゃ生死が分からないんだけど」
「その女については未だ不明だ。何も手掛かりが掴めていない。死んでいるかもしれないし、何処かで生きているかもしれん」
生きてるか分かったら殺してやったのに、とボソッと呟いたマーモンの言葉にラルは苦笑を浮かべた。俺も正直沙羅をそんな目に合わせた親友の女に対しては腸が煮えくり返る気分ではある
沙羅は親友に裏切られてカリストファミリーに拉致られた。だから沙羅の奴は親友の事についてあそこまで感情的になってたのか。こんな過去を見せられては仕方ない。信じていた友に裏切られた絶望を幼い頃から経験していたんだからな
不意にあの時の沙羅の顔と言葉を思い出す
『何だかんだ言って…最後は裏切るもんなんだよ。親友っていうのは』
親友の裏切りがきっかけで、沙羅の未来は数年にも渡って最悪な方へと進んで行った。女としての尊厳も人間である尊厳も奪われ続けた。それは…あいつの中にずっと残る
「リボーン、お前は何か知っているのかぃ?」
何かを感じ取ったのか、9代目が尋ねてきた。言わずもがな何かを見抜いている様なモノで、その口調で尋ねられたら誤魔化してもすぐに悟られる
隠してもしょうがねーか…
「最近あいつは様子がおかしかったからな。様子を見に行ってきたんだが、その時に親友の事を言ってたんだ」
「親友…それは過去に自分を裏切ったリンナという女性についてですか?」
風の問い掛けに首を左右に振った
「そうかもしれねーが、その時は名前までは聞いてねー。ただ、親友は何の為にあるものなのかと聞かれた。俺は俺なりの答えを伝えたが、あいつは親友なんて結局は裏切るモノで、脆すぎるモノだって言っていたぞ」
俺が言うと、隣で黙って聞いていたコロネロが突然床を強く踏み付けた