失敗






それから暫くスパイクの練習を続けていると、コーチと主将から声が掛かった



「そろそろサーブの練習するよぉ!」

その呼び掛けと共にそれぞれやっていたポジション練習を終えて、コートの端へ集まった。ぶっ続けで練習したせいで息が上がってしまっている。急いで整えようとしている所に先輩が心配気に顔を覗き込んできた



「唯織ちゃん、大丈夫?」

先輩に心配掛けまいと首を左右に振って大丈夫とだけ答えた。すると、朱美が背中を軽く叩いてきた



「休んでたら?あんなスタミナ使う様なスパイク連発で打ってたから身体ついていってないんじゃないの?」

朱美の言葉にムッと口を尖らせて一度深呼吸。本大会では、あんな回数のスパイク…少ない方だ。これくらいの本数で周りからこんなに心配される様じゃ…実践に使えない…

呼吸を整えて、いつもの平気そうな表情に戻す




『…大丈夫です。やります』

「先輩、無理しないでくださいね」

後輩にすら心配を掛けてしまうなんてまだまだだなぁ…

並んだ部員が次々にサーブをやっていく。最初はフローターサーブを数回ローテーションした後、それぞれの得意なサーブを練習していく

フローターサーブですら、コートインするか五分五分。無回転のトスを上げて…腕の力でなくて体重移動と腰の回転で……打つッ…!





『ふんッ…!』
ダムッ!

打ち放ったボールを目で追って見守る。手応えはあり、ネットを越えたのに安堵したが…反対コートに落ちたボールを見て、主将とコーチが険しい表情をした




「アウト!」

『ぇッ…』

力み…すぎた…?
ボールに間違えて回転を入れた…?

どっちにしても入ってない現実。毎回サーブはミスをしてしまう。緊張もしていないし、コンディションが整っていない訳でもないのに…




『すいません…』

「唯織ちゃん、スパイクは問題ないのにサーブで引っ掛かっちゃうね?」

主将が腕を組みながら苦笑した。私のテンションが落ちたのに気付いた後輩も近くまで駆け寄って声を掛けてきた


「大丈夫ですよ、先輩!スパイクはスゴいんですし、エースとして問題ないですって!」

ズキッと後輩の言葉が刺さった。悪気がないのは分かってるし、私を気遣ってくれているのも分かってる……けど…辛いッ…

スパイクだけがエースの証ではない。チームのここぞという時に、スパイク、守備、勿論サーブだって打ち放つ……それが私の思い描くエースの証

スパイクだけしか満足に出来ないなら、背番号【4】なんて背負わなくても良いんだし…




女子バレーがサーブ練習をしている中、男バレは合間の休憩をしていた。舞台に座って、及川と岩泉は並んで唯織のサーブを見つめていた



「なるほどねぇ…」

「力み過ぎてる…つーかなぁ」

顎に手を当てて考えていると、休憩中の花巻と松川がやってきた



「何だ、何だ?2人揃って女子の方見て。珍しいじゃねーの」

「良い子でもいんのか?」

松川の質問に及川がそうだよ、と答えると3人は何故か苦い表情をした



「チャラ男」
「たらし」
「うんこ野郎」

「Σえぇ!?ちょッ、何みんなして!俺がそう言ったらダメなの!?ていうか、岩ちゃんだけ何かおかしいでしょ!」

ブーブー不満の声を漏らす及川を宥めながら、花巻が肩に腕を回して、ニヤニヤしながら隣に座った




「んで?どの子だよ?」
「いや聞くのかよ!もぉ…ほら、あの子だよ。背番号4の」

「あー、さっき派手にサーブでボールアウトしてた子か」

そう思い出す様に頷いた松川は自分に向けられる突き刺さる殺気に気付いた。その殺気の方を見ると、正体はとてつもなく不機嫌そうにどす黒いオーラを出して松川を睨み上げている岩泉だった



「えッ、ちょッ…何で俺睨まれてんの?」

「岩ちゃんは相当夢咲ちゃんを気に入ってるんだよ」

「Σえッ、マジで!あの岩泉が?」

岩泉の視線の先にいるのは、ひたすらサーブの練習をしている唯織。送る視線は真剣そのもの…




「なぁんか、男が女を見る目っつーより…監督みたいな感じだな」

「まぁ、そっちの方が岩泉らしいけどな」

ケラケラ笑った松川と花巻を岩泉はムッとした表情で軽くど突いた



「横でごちゃごちゃ言ってんじゃねぇで、俺達も練習始めんぞ」

そう舞台から岩泉が降りると、花巻と松川も続いて降りた。が、及川だけ唯織の方を見て、目を細めた




「…余計なモノを引きずってるって感じだね」

そう小さく口にして、及川も舞台から降りた


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