モヤモヤ…?






「Σおぉ、ヤバいッ!もうこんな時間!お母さんに怒られちゃう!また明日ね、唯織ー!」

『気を付けてねぇ』

慌てて体育館から出ていく朱美に手を振って見送った。親が何やかんや厳しい朱美は部活外で残って練習するのはNG。岩泉先輩も残るから一緒にやりたいけれど、ダメ元で誘っては彼女に申し訳ないと思い、誘えない…

小さくため息を吐いてボールをクルクル手で回しながらコートの端へ。すると、片付けが終わったのか及川先輩と岩泉先輩もボールを持ってやってきた



「よぉ、お疲れさん」
『お疲れ様です。岩泉先輩、及川先輩』

岩泉先輩はいつも通りだったが、何故か及川先輩は何処となく表情が険しいのに首を傾げた。何か…不機嫌そう?

大丈夫ですか?と顔を覗き込むと及川先輩はビクッと身体を跳ねさせて漸く目を合わせてくれた


『体調でも悪いんですか?』
「ぁッ…ごめん、ごめん。そういう訳じゃないんだけど…」

「こいつの事はあまり気にするな。さっきからおかしいからな」

『そう…ですか。あまり無理しないで下さいね?』
「うん…ありがとう」

「そんじゃ、始めるか」

今日は岩泉先輩が昨日いなかった事もあり、スパイクの練習から始まった





「それじゃあ、俺がトス上げるから唯織ちゃんはいつもの感じで打ってみてね。それ見て岩ちゃんがアドバイスしてくれるから」

『ぉッ…及川先輩のトス初めてなので…緊張します…』

「こいつのトスははっきり言って打ちやすいから大丈夫だろ。その後のドヤ顔がうぜぇけど」
「Σそんなにドヤ顔してないよ!唯織ちゃん、俺の上げたボール、よく見ててね。スパイクでも打点大事だから」

数回その場で軽くジャンプして、足を慣れさす。及川先輩のトス…どんなトスだろうか。ちゃんと打てるか心配だけど、やるしかない

行くよー、と及川先輩が岩泉先輩から投げられたボールを静かに上へ打ち上げた。その瞬間、足を踏み出していつも通りの感覚で腕を振り下げてから、勢い付けて前方へ跳んだ

さすが及川先輩。私の頂点を把握してのトスでボールは丁度振り上げた掌に…






パンッ!

打ち落としたボールは高い音を発して、相手コートに入った。床に着地すると、及川先輩が笑顔で手を叩いていた



「スゴいねぇ。トス上げ初めてなのに、しっかり打ててたよ」

「打点とスピードは問題ねぇ。あとは打つ場所だな」

『場所?』

岩泉は唯織の隣に行き、持っていたボールに手を当てながら伝えた




「今のお前のスパイクは掌でじゃなくて指側でボールを打っちまってた。だから音が高いんだ」

『指…』

岩泉先輩は軽くボールに手を当てて離すを数回繰り返しながら続けた



「スパイカーにはよくある。自分でボールを上げる訳じゃない分、焦りとかが入ってそうなりやすい」

『なるほど…』

「もっと掌に集中してみろ。そしたら、もっと低い音が出る筈だ」

もう1回だ、と岩泉先輩はボールをバウンドしながら言った。トスを逃さない事に集中しすぎたからかな…

打点は恐らく及川先輩のおかげで合ってる
あとは腕を振る速さが足りないのかな…





「唯織ちゃん、リラックスリラックス〜」
『すッ…すいません。焦ってしまって…』

モンモンと試行錯誤していると、及川先輩が肩に手を置いて落ち着く様に促してくれた




「そんなに焦らなくても、俺や岩ちゃんはいくらでも教えてあげるからさ。深呼吸、深呼吸ー」

先輩は笑顔で私の肩に置いた手をポンポンと軽く叩いてくれた。そのおかげか、心が落ち着き始め、頭の余計なモヤモヤはなくなった




『ありがとうございます。もう1度トス上げ、お願いします』
「うん、オッケー」

任せなさい、とオッケーサインをする及川先輩に自然と口元が緩んだ。こんなに熱心に教えてくれる先輩方には本当に感謝していた

こんなに練習しても同じ様なミスをしてしまう私を見捨てずに教えてくれるのだから…




「唯織ちゃん、いくよー」
「変に力まない様にな」

声を掛けられ、我に返った。再び数回ジャンプして身体を落ち着かせて次こそは、と再び岩泉先輩が及川先輩へボールを投げたと同時に走り出した







◇◇◇ ◇◇◇







「少し休憩するか。ぶっ続けでやり過ぎたな」

始めてから1時間、3人は休む事なく練習を続けた。さすがに唯織も肩で息をしているのを見て、岩泉はボールを上げる手を止めた



『いえッ…まだいけまッ…』
「ダメだ。そんなに動いて脱水したらぶっ倒れるだろうが。とにかく水分補給しろ」

再びボールを拾おうとしたら、腕を掴まれて、スゴい剣幕で言われた。逆らう事なんて出来る筈もなく、大人しくコート外に出て京谷君から貰ったスポーツドリンクを手に取った




「そういえばさ…唯織ちゃんって狂犬ちゃんと仲良いの?」

振り向けば、及川先輩と岩泉先輩も水筒を飲みながら此方に来ていた。ていうか、狂犬ちゃんって…



『誰ですか?狂犬ちゃんって…』

「京谷の事だ。こいつが作ったあだ名だ。誰もそう呼んでねぇけどな」

「俺達も練習を一緒にやってるから、狂犬ちゃんの性格とかは知ってるつもりだけど…まさかあんな事するなんて思いもしなかったからさ」

及川先輩が私が持っているドリンクを指差して言った

あんな事って…
あぁ、さっき京谷君がこれを私に渡した事か…




『仲良くないですよ。今日初めて話しましたし……あぁ、でも部活始まる前に3年の先輩方に絡まれているのを助けられました』

「何で3年に絡まれたの?」
『あッ…私の不注意でぶつかっちゃって。それで…』

「へぇ…なるほどな。あいつも女子には甘いっつー事か?」

岩泉が関心気味に頷きながら及川に振った。けれど及川はさぁね、とそっぽを向いて、コートへ戻っていってしまった。その反応が拗ねている様に見えて、首を傾けた

どうも気になったから小声で岩泉先輩に尋ねてみた





『及川先輩って、その…京谷君の事…あまり好きじゃないんですか?』

「あだ名付ける時点でそれはねぇだろ。大方他の女子が自分以外の男の話をしてるのが気に食わないんだろ。あいつはナルシストだからな」

『あ…そうですか』

ナルシストなんだ、と違う所に気がいってしまった。まぁ、モテる人はそれ相応にプライドだってあるだろうし…

そういうモノか、と1人で勝手に解決した



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