分かったこと






「うぉらッ!」
「ふぬッ!」

岩泉と花巻が挑戦したが、的である及川の写真に当たらない。観戦してる松川がどんまーい、と軽く手を叩いている隣で自身の写真を的にされている及川は腑に落ちない様に苦笑している

女子の観戦者が騒がしいのもあり、少し離れた所まで近付いて観戦する事に…




「岩泉先輩袖捲ってるッ!超カッコいいーッ!」
『的が及川先輩って…』

的にされている先輩の写真は近くまで来て、ドヤ顔の写真だと気付いた。それを狙ってボールを打ち込む光景はシュール過ぎて思わず苦笑した。相変わらず黄色い歓声は響いる

そして、松川先輩も撃ち込むがどうも当たらない




「くそ…ドヤ顔の写真にしなきゃ良かったな。外した時にすげぇ腹立つ」
「確かに。松川もおっしー」

「ほれ、次は及川だぞー」
「うぅ…心が痛い……けど!」

松川先輩からボールを手渡された及川先輩は牛乳パンの為に!と意を決した様に的の前へ。それほど牛乳パンが好きなのか…

及川先輩の番になり、女子から更に声援が大きくなった





「及川先輩って牛乳パン好きなんだね。めっちゃやる気になったよ」
『牛乳パンってそんなに美味しいんだね』

及川先輩は袖を捲り、数回ボールをバウンドして、呼吸を整えていた。やはり遊びだからというのもあり、本気ではないだろうけど…雰囲気はいつも通り変わった

制服でも関係なく、ボールを上げてジャンプサーブかと思った……が…





「ふッ…!」
ダムッ!


『ジャンプサーブじゃないッ…』

体育館で見せてもらったジャンプサーブ…ではなくジャンフロ。真っ直ぐ打ち放たれたボールは自身の写真の所へ。壁に当たったのがボールとは思えない音を発して、写真のど真ん中に打ち付けられた




「及川ぁ、本気サーブ打ったら誰も敵わねぇべよ」

松川と花巻が壁へ近付き、写真の状態を確認すると、やはり衝撃でぐしゃぐしゃになった写真を花巻が壁から剥がしてヒラヒラとみんなに見せて苦笑した



「うわぁ…写真ぐちゃぐちゃ。さすが主将だわな」
「普通の試合だったら、アウトだけどな」

「岩ちゃん、負け惜しみ?俺の好物を景品にしたのが敗因だったねぇ」

決着がつき、黄色い歓声に包まれながら3年は校舎に向かっていった。唯織は1つだけ片付け忘れたのか、転がっているボールを拾い、さっきまで先輩達が打っていた場所で立ち止まった





「さすがねぇ、及川先輩。この距離から一発命中なんて」

『あのジャンプサーブが本気かと思ってた…』

「あの?」
『ぁッ…何でもないよ』

声に出てしまっていた。左右に首を振って誤魔化したが、さっきのサーブは本当に驚いた。助走なしで…しかも動きにくい制服。なのにあの威力。体育館で見せてもらったジャンプサーブより強力だった気がする…

無意識にボールを構えていた
あんなスゴいサーブ…やってみたい…

確か…こうやって…
バコッ!






背後からさっきの及川と同じくらいのボールの鈍い音が聞こえ、及川達は一斉に振り返った。さっきまで自分達がサーブ勝負をしていた場所で唯織が肩で息をしているのが見えた。隣では急な唯織のサーブに戸惑っている朱美も



「Σちょッ、あんたやるならやるで声掛けてよ!びっくりするじゃない!」

『あ…あぁ、ごめん。身体が勝手に動いちゃって…』

「もぉ、ホントにバレーになると職業病ならぬ部活病ね。あんたの場合は」

『はは、そうかもね。そろそろ教室戻ろう』







「及川のサーブを見て、真似してみたんだろうな」
「あぁいう大人し目な子に限って、スッゲェえげつないサーブとか打つよなぁ」

面々が驚いている中で及川だけは何故か小さく微笑んで校舎に戻る唯織の背中を見つめた



「唯織ちゃんらしいよ」

挑戦心が強いというか…自分から諦めない子だなぁ
俺のあの本気サーブも真似しようとするくらいだもん
本当に…滅多にいないよね…







◇◇◇ ◇◇◇







「ごめん、唯織!先輩に部活遅れるって言っといてくんない!?」

放課後、朱美を迎えに行くや否や彼女は教室から慌てた様に出てきた。私に気付いたのか、朱美は駆け寄ってきてそう言った。何故か聞くとどうやら先生から呼び出されているらしく、すぐに職員室に行かなければならないのだという

お願いね!と両手を合わせて言って朱美は急いで職員室へ向かっていった。あの急ぎっぷりは補習関連かな…と1人で苦笑して、私は体育館へ向かった




『あ、京谷くーん』

廊下の奥、丁度階段を降りていく京谷と鉢合わせた。何の警戒心もなく声を掛けてきた唯織に京谷は目を丸くして振り向いた




『授業お疲れ様ぁ』
「…あぁ」

『手の調子どう?』

唯織が聞くと、京谷はガーゼを貼っていた手を黙って見せた。この前までのかすり傷はかさぶたになっていて、治りかけていた

それにホッと安堵した様に唯織は微笑んだ




『良かったね、治りかけてて』

「お前…何で俺に構うんだよ」

『え?いや…特に理由ないけど』

キョトンとしている唯織にガクッと肩を落とした。京谷自身、自分が周りからあまり良い印象を与えていない事は分かっている。あまり本人は気にしていないが…



『誰かと話したりするのに理由いるの?』
「人目とか気にしねぇのかよ」

『京谷君は気にするの?』
「しねぇよ」

『同じじゃん』

即答した京谷君に思わず小さく笑ってしまった。京谷君は照れ臭そうに口を尖らせてそっぽを向いた。けど、歩くペースは合わせてくれているから…怒ってはないか…




『あ、そうだ。京谷君って部活の後空いてる?』
「あ?」

『部活後に私いつも練習してるんだけど、京谷君も一緒にやらない?』

及川先輩と岩泉先輩が教えてくれるよ、と付け足した途端に京谷君の表情が険しくなった



「ぜってぇ行かねぇ」

『えー、何で?先輩スゴく丁寧に教えてくれるんだよ?』

「お前だけって訳じゃねぇんだろ?」

『前までは1人だったけど…でもこの前から先輩達が練習付き合ってくれてる』

その言葉に京谷は歩く足を止め、振り返った



「お前、あの2人と仲良いのか?」

『仲かぁ……私が言えた事じゃないけど、及川先輩と岩泉先輩には良くしてもらってる』

「そうかよ。その2人がいるなら行かねぇ」

京谷はまた背を向けて歩きだし、唯織もえー、と不満を漏らしながらも後を着いて行った







◇◇◇ ◇◇◇







京谷君と体育館まで色々話をしながら向かって、今日は男バレ側の扉から入った

扉の開く音で、既に中で準備を始めていた1年の金田一君と国見君が此方を振り向いたが、目を丸くしてまるで信じられないものを見るかの様な表情を浮かべた




『2人共、お疲れ様ぁ』

「うッ…うぃっす…」
「お疲れ…様です…」

手を軽く振って挨拶する。2人がぎこちなくだが挨拶してくれたのに、京谷君はそのまま何も返さずに更衣室に向かおうとしていたから、思わず手を掴んで引き止めた



『京谷君、挨拶は?』

「るせぇ、俺は着替える」

『後輩と先輩の間には挨拶が必須』

更に京谷の手を握って詰め寄ってくる唯織。京谷はしつけぇ!と掴まれた腕を振り払おうと唯織に逆に詰め寄った



「手ぇ離せよッ!」
『先輩なら先輩らしく挨拶ぐらいしなさい!』

言い合っている2人をただ呆然と見ているしかない金田一と国見はお互い目を合わせて苦笑した




「夢咲先輩って、結構怖いモノ知らずなんだね」
「何か外から見たら…夫婦喧嘩みたいだな」


『京谷君ってば!』
「うるせぇ、夢咲!俺の勝手だろうが!」

ぐぬぬぅ…と2人が睨み合っていると男バレ側の扉が開いた。体育館に入ってきたのは3年と2年の面々。メンバーは体育館内が騒がしいのに怪訝そうな表情だ


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