印象








「明日試合だから、今日の練習はいつもより気合い入れんぞ」

「エースが燃えてますよ」

「いつでも燃えてんだろ、ウチのエースは」

「ちょっと岩ちゃん、熱くならないでよぉ。練習出来ないこっちの身にもなって」
「怪我はお前の不注意だろうが」

HRが終わり、3年男バレ4人は部活の為、廊下を体育館に向かって歩いていた。ブーブー文句を言っている及川に苦笑している松川が不意に校庭を見る

丁度窓から第3体育館が見えたが、ある事に気付いた




「なぁ、あそこにいるのって夢咲と金田一じゃね?」

松川が立ち止まり、窓の外を指さした。それに釣られて3人も立ち止まり、指さされた先を見る

確かに唯織と金田一が一緒にはいるが、金田一の表情が呆気に取られた様に目を見開いて固まっていた。唯織は背を向けているから表情は分からない



「あいつ、何か驚いてね?」

「何話してんだろうな。金田一が夢咲と喋ってるなんて見た事ねーけど」

「つーか、あいつなんであんな早くにいんだ?」

「珍しいねぇ。こっから声掛けられるんじゃない?」

それを聞いて花巻はイタズラに笑い、2人を驚かしてやろうぜ、と窓を開けた。と、その途端…





「あいつが変わって民主派の王様になってたとしても、俺は同期として絶対負けませんッ!あいつよりもすげぇプレーをしてみせますからッ!見てて下さいッ!」

金田一の大声が飛び込んできた。呆気に取られたものの、その言葉の内容に4人は顔を見合わせた




「金田一も熱くなってるな」
「ハハハッ、次は顔赤くしてんぞ?」

花巻と松川がからかった様にケラケラ笑っている中で、及川は金田一の言葉に眉を寄せた




「ねぇ、岩ちゃん。金田一が言う同期ってさ…」

「影山だろ。王様って言ってる時点で」

「何で唯織ちゃんと飛雄の話してんだろ。金田一は」

「さぁな。おら、お前らとっとと行くぞ」

岩泉は及川の背中を軽く押し、前で未だに笑っている花巻と松川と歩いていく。及川は暫く立ち止まって2人を見ていた



「唯織ちゃんは何で飛雄を知ってるんだろ…」







◇◇◇ ◇◇◇







「ふぬッ!」
ダムッ!

「おぉ、金田一。今日はいつにも増してブロック硬ぇじゃねぇか」

「うすッ!明日の練習試合は負けられませんから!」

金田一が言うと、岩泉は満足気に金田一の背中を叩いた。それを舞台に座って見学していた及川が見つめていると、国見が話し掛けてきた



「及川さん、膝の具合どうなんですか?」

「ん?そうだねぇ。俺は割と元気なんだけどさ。練習に参加するとウチのエースがうるさいから今日は見学」

そうですか、といつもの様に必要以上の会話をしない国見。コートに戻ろうとした所を及川に呼び止められた



「国見ちゃんさ、何で金田一があんなに燃えてるのか…知ってる?」

「…さぁ、俺もよく分からないですけど。あ、でも影山と唯織先輩の話をしてから明日の試合のやる気に火が点いたっぽいですよ」
「Σえッ…何…飛雄と唯織ちゃんの事って…」

「いや、今朝影山と唯織先輩が青城近くの広場で一緒に話してたのを見たってクラスメイトから聞いて、それを教えたんですよ。金田一に」

そしたらあんな感じに…、と改めて金田一に目を向けた。スパイクもブロックもいつもより気合いが入っているのか、声も張っている



「まぁ、練習に身が入っていいんじゃないですか?」

苦笑して、国見はコートに戻っていった。及川は呆気に取られたまま、表情を崩せずにいた

飛雄と唯織ちゃんが今朝2人でって…
何それッ…




「金田一、お前続けて練習しすぎだ。1回休め」
「いえ!まだまだッ…」

ガシッ!と頭を鷲掴みにされた。身長の大差はあれど、岩泉の握力は人並みではない。その握力で頭を掴まれた金田一は、見上げてくる岩泉の鬼の剣幕にたじろいだ



「いいからコートから出ろ」

「うッ…うっス…」

金田一は足早にコートから出て、舞台上に置いていた水筒に手を掛けた時、及川に呼び掛けられた




「金田一、聞きたい事があるんだけど」
「Σうぇッ!?おッ…及川さんまで何でそんな顔怖いんですか…」

舞台から降りてズイッ、と詰め寄ってきた及川に金田一は苦笑して、後ずさった



「さっきさ、唯織ちゃんと喋ってたでしょ。体育館で」
「Σな、何で知ってんスか…!?」

「そん時にさ、お前唯織ちゃんに飛雄の事言ってただろ。あれって何でそんな話になった訳?」

鋭い目付きで見上げられ、たじろぎながらも金田一は口を開いた




「く…国見から聞いたんですよ。今朝影山と唯織先輩が一緒にいたって。それで、どうしても唯織先輩から影山の印象を聞きたくて。それで…」

「…唯織ちゃんは何だって?」

及川の問いに金田一はグッ、と口を噤んでまるで悔しさを抑えた様な表情になった



「俺は中学の頃のあいつの独裁者ぶりが大嫌いでした。人の話なんてまともに聞かない超自己チュー野郎だって…今でもそう思ってます。でも……唯織先輩はそう思わなかったそうです」

金田一の言葉に及川も驚いた様に目を見開いた




「中学はそうだったかもしれないけど、今は違うかもしれないって。昨日自分が影山の王様の冠を外しちゃったから…って」

微笑みながら言ってました、と金田一が続けた。及川は固まったまま黙っていた



「何か唯織先輩があいつを理解しようとしてる事にムカついて…だから俺、明日はあいつに絶対勝って、唯織先輩にカッコいい所を見せたいんです!」

そろそろ練習戻ります!、と一礼して金田一はコートに戻っていった。及川は固まった思考のまま舞台に寄り掛かり、背中を仰け反らして小さくため息を吐いた



「よりにもよって……飛雄かよ…」

あの飛雄と話をして、唯織ちゃんの事だから気の利いたアドバイスを送ったに違いない。唯織ちゃん自身飛雄を自己チューだと思わない所からして、仲は悪くない…



「人に隔たりなく接っするのも考えモノだねぇ。唯織ちゃん…」

反対コートでいつもの様にサーブ練習をしている唯織を見て、及川は目を細めた


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