決意









「一先ずはイノセンスをアデラの意志で出せるかどうか…からじゃないですか?」
「まぁ、そうさねぇ。いざって時の為にも戦えなくても出せれば無いよりは安心さ」

「兄さんからは無意識に発動して、その間の記憶はないって言ってたわ」
「それじゃあ、明日への優先順位は…」

コムイの部屋から出て行った5人。明日の任務にアデラが同行する事が決定したのは良いものの、何もないゼロの状態でAKUMAと会わすのはやはり危険

一先ず明日に備えて、アデラに何から教えたら良いのかをアレン、ラビ、リナリーは話し合っていた。少し離れた所でリンクとアデラはその様子を見つめていた







『ハワードさん、その…ありがとうございました』
「何の事ですか?」

『ハワードさんが仰って下さったから、もうウジウジするのはやめようって思えました。何か…吹っ切れた感じです』

そう。もうウジウジしない
私の存在価値は自分で決める
いつまでも過去に怯えずに…
前に進まなきゃ…




「…先程とは大分表情が変わりましたね」
『え?』

アデラが聞き返すが、リンクは視線を前に向けたまま続けた




「怯えた表情ではなく、その決意に満ちた表情が本来あるべき貴女だと思いますよ」

『まだまだ私に決意に満ちたなんて言葉は似合いませんよ。結果をだしてからでないと…』

「これからやっていけば良いんです。急ぐ事ではありません」

表情を変えずに話すリンクにアデラは口元を緩ませた




『ハワードさんは…優しいですね』
「はい?」

『さっきも…こんな私に勇気づける言葉を掛けて下さいました。今だって…』

リンク自身…分からなかった
さっきの言葉も今の言葉も、何故アデラに伝えたのか。今まで人の性格や人間性に口を出した事がないというのに…

しかも意識的にでなく、無意識に…
彼女の本当の想いや表情はそんな悲しみでいっぱいなモノでは決してない…と強く思ったのだ



『ありがとうございます』

不意にアデラへ視線を向けたリンクの息が一瞬止まった。感謝の言葉と共に見せたアデラのその表情は…ヒドく澄みきった笑顔

今までに見た事がない程…純粋な表情だった。そして、その表情を見た瞬間、確かに自分の鼓動が1度でも高鳴ったのに気付いた




『ハワード…さん?』
「何でもありません」

リンクは自身の顔を片手で押さえて横に背けた。まるで、微かに染まった頬を隠す様に…

そんな背けた動作を不思議そうに首をアデラは傾げた








◇◇◇ ◇◇◇








「んじゃ、明日に備えて教えておく事を伝えるさね」

話がまとまり、5人は教団の敷地内にある森へ移動していた



「何でわざわざ森なの?修行場で良いじゃない」

「あ、えー…それはぁ…」
「さっき2人で修行してたら、ラビが誤って槌を伸にして壁が一部大破しちゃったんですよ」

「Σえぇ!?ちょっと、ラビ!また壊したの!?」
「ごごごめんさ!うっかりであってわざとじゃないさ!」

「だから科学班が慌てた様子で修行場方向に走っていったんですね」
『なッ…何度か目なんですね』

みんなが白い目でラビを見つめる中、アレンが手を軽く叩いて場の空気を変える様に切り出した



「ラビへのお説教は後にして、本題に入りましょう。まずはアデラに試してもらう事があります」
『何ですか?』

「イノセンスを自分の意志で発動出来るか出来ないか検証するんさ」
『自分の意志で…ですか?』

そっか…
そういえば私…自分の意志じゃなくて無意識にイノセンスを発動してたんだっけ…

操作出来なくても、発動するだけで少しくらいは下級AKUMAへの威嚇にはなるとアレンは続けた

要するにエクソシストになる為の最初の関門




『…やってみます』
「あ、待って下さいね。まずは僕達のイノセンスから見せます。少しばかり創造しやすくなりますから」

そう言うと、アレンさんは少し表情を強張らせた。眩しいくらいの光が左腕を纏った…かと思うと、アレンさんは左腕を勢いよく引き抜いた。そして、光の後に目に映った姿に思わず息を呑んだ



『剣ッ…』
「そうです。これが僕のイノセンス、クラウン・クラウンです」

『真っ白なマント…それに左腕がッ…』
「僕は以前から左手をイノセンスとして武器化していたんですがね。これが完成形なの否か僕には分かりませんが、今はこれで落ち着いてます」

アレンさんの姿は“クラウン”と呼ばれている故なのか…本当に真っ白な道化師の様だった。純白姿に思わず魅入ってしまった

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