目覚め
あ
あ
あ
「さっむいなぁ。今晩はよぉ」
「あんた声が大きいわ。誰か来たらどうするの?」
「誰も来ねぇって。何時だと思ってんだよ」
人生でほとんど出たことがない外に何故か出された。部屋の温度よりも遥かに冷えるであろう気温だろうけど、体力も神経もズタズタの今の私には何にも感じなかった
逃げ出すとでも思っているのか、前には男の人、真後ろには女の人。私の両手は後ろでクロスされて縄でキツく縛られている
足取りが覚束無い、目の前も霞む…
無理もない。血は雑に拭われてはいるものの、
裸足の足では所々にある小石に躓く。その度に縛られた縄を引かれて無理矢理立たされる……まるで
「でも、本当に大丈夫なのか?」
「私の目に間違いなければ…ね。アンタも見たでしょ?
女の人が言う
そして何で私は外に連れ出されているのか…
『Σ痛ッ…!』
「てめぇよぉ!いい加減にしろよなぁ!足付いてんだろ!」
急に頭痛がし、途端にまた膝から崩れ落ちてしまった。多量出血からなのかは分からない
いつもなら立ち上がるまでずっと髪の毛を掴んでいるのに。恐る恐る目線を男の人へ向けると、その人は目を怪しく光らせて、言い捨てる様に鼻で笑った
「こんな使えねぇお前でも、これからの俺達の欲を満たしてくれるんだ。感謝しなくちゃなぁ?」
感謝…そんなの思っていない事なんて前から分かっている。この2人の中で私の存在はあっても無くてもいい…寧ろ要らない存在…
一体どういう意味なのか…
既にボロボロの思考では考える事も出来ず、ふらっとまた覚束無い足取りで歩き始めた
◇◇◇ ◇◇◇
「あそこね」
「お、マスター」
『マス…ター…?』
「ん?あぁ、貴女達でしたカ」
ある路地裏に入ると、そこにはシルクハットを被り、スーツ姿の人間とは思えない体格と顔をした人が立っていた
「夜分に申し訳ありません。マスター」
「受話器越しからただどうしても逢わせたい子がいると一言言って切られた時は、イタズラかと思いましたヨ」
「場所を告げなくても我々の行く所を当てられるとは、流石です」
「まぁ、長年の勘てやつですヨ。所デ…」
目が合ってしまった。何故か悪寒がした。この人とは今日、初めて逢うのに…身体が微かに震えている
怖いッ…
「その子が貴方達がどうしても逢わせたかった子…ですカ?」
「そうです」
俯いていた顔を男に無理矢理上げさせられた。マスターは首を傾げながら笑っているのかそれが無表情なのか分からない表情で見下ろしてくる
どうしても逢わせたかった…何で?
この人は2人の一体何?
前から知り合いの様な口調だったけど…
「我々ブローカーは暫くマスターのお役に立てませんでした。ですが…今回は必ずマスターのお役に立つと思います」
ブローカー?
聞きなれない言葉に眉を寄せた
「んー…どう見ても普通の幼気な少女ですがネ?」
マスターは頭に疑問符を浮かべる様に更に首を傾げながら顔を覗き込んできたから、思わず顔を背けた。アデラとマスターの様子を見て、男女2人は怪しい笑みを向けて、口を開けた
「マスターの大切なご家族かもしれないです」
家族?何それ…
私はこの2人の子供じゃ…ないの?
そもそもこの人はッ…
「それは本当ですカ?」
声のトーンが少し下がった気がした。見上げると、さっきの不思議なマスターの雰囲気とは全く違う…何か嫌な…雰囲気に変わっていた