共闘






「隊長ッ!海賊の1人が此方に向かってきています!」
「怯むな!全員で包囲しッ…!」

ガツッ!という鈍い音と共に隊長であろう大男の真横を通り過ぎて後ろにいた海兵の顔を殴り飛ばした。数十メートルの距離を一気に風で移動した速さに着いて来れない奴らは突然目の前にあたしが現れて分かってた事ながらどよめき始める

指揮を執る隊長を敢えて残し、あとからあとから向かってくる海兵達を銃の台尻だいじりで殴り、水の剣でひたすら斬り付けていく

ある程度数を減らした後、残っている隊長と隊員達を挑発する



『大将がいなければ何も出来ねぇ犬共が。女1人倒せねぇなんてたかが知れてるぜ。名を挙げたいならあたしを倒してみやがれっつーの!』

その挑発に思った以上に海兵達は乗った。プライドが傷ついたのか先頭の隊長は顔を真っ赤にしながら鬼の血相で追い掛けてくる

すぐさま背を向けてローの言われた通り、町の入り口へ誘い込む。前方に誰もいないのを知り、ロー達も順調に町へ向かっていると察して、急いで後を追った





◇◇◇ ◇◇◇





『うぉお…マジか』

町の入り口を通りすぎ、中央広場の様な所に向かうと、ただの見回りとは思えない程の海兵達がうじゃうじゃいて、思わず立ち止まった

何かあったのか…
どっかの海賊同士が揉めていたのか、それともデカい賞金首でも現れたのか。ともかく面倒臭い島に上陸してしまったと痛感した



『こりゃあマズッ…』
「背中ががら空きだぁあッ!」

背後からの声に気付き、振り下ろされた剣を振り向かずに躱した。大振りなだけあり、地面に刃がめり込んだが、すぐさまその刃を足で押し付け、抜けないようにしてやった



『あんま大振りにしない方がいいぜ。隊長さん』

焦って抜こうとしている隊長の眉間に銃口を当てて、発砲。引き連れていた部隊の隊員は、上が撃たれたのを見て唖然とし、周りの海兵は銃声で漸くこちらの存在に気付いた様にあたしの周りを取り囲んできた



「お前はハーツ・クロムッ!」
「何故白ひげ海賊団の幹部が此所にッ…!」
「白ひげが近くにいるかもしれんッ!警戒しろッ!」

『残念だったな。生憎オヤジは此所にいねェよ』

銃をしまって、水の剣をもう一太刀作り出し、取り囲む海兵達に見せ付ける様に足元で倒れている息絶えた体調の首を一振りで切断。どよめく海兵達に向かってその刃先を向けた



『こうなりたい奴はかかってこい』

「わッ…我々がそんな脅しで怯むと思うかッ!全員一斉にかかれぇええッ!」

服装的に周りを指揮しているらしい海兵が武器を掲げると、おぉおッ!とうるさい程の雄叫びらしからぬ声を上げながら一斉に向かってきた

剣を持ち直し、足を1歩踏み出した直後、背後に慣れ親しんだ気配を感じた。咄嗟に風の力を足元に溜めて一蹴りで数十メートル上空まで舞い上がった


突然飛んだクロムの姿を捕らえようと海兵は一斉に見上げるが、快晴のせいか日の光が視界を阻み、まともにその姿を捉えられずに夢中で見渡していると…





「ROOM」

空間が広がる音と共に一点に集められた海兵達を囲むように広範囲に渡ってサークルが作られた。どよめく海兵達がローの存在に気付いた刹那、地面が揺れだした



「タクト」

ローが指を上に上げると、地面から巨大な岩がサークル内の海兵達諸共空へ突き上げられ、辺りの地面に叩き付けられた。やっぱりローだったか、と笑みを零してその隣に着地する




「良いタイミングで飛んだな」
『ダチの気配くらい分かるっての。ところでロー、変だと思わねぇか?』

「何がだ」
『島の見回りにしては数が多い。何かしら目的があるんじゃねぇかと思うんだけど…』

ローも薄々感じていた。確かに今始末した海兵もなかなかの数だった割には、まだまだ町の奥に海兵がいるのか、騒がしい

銃声やら爆音やらが聞こえるところからして、今の時点で既にどこかの海賊団と海兵がやり合っていて、そこに偶然居合わせてしまった…という感じだ




「キャプテン、周りは粗方終わったよー」
『お疲れさん』

ベポと他のクルー達が戻ってきた。数が数だったからか、中には息を切らしている者もいる



「つーか、海兵やたらと多くねェか?」
「あっちにもうじゃうじゃいるしよぉ…何かあったのか?」

『どっかの海賊とやり合ってる所に運悪く居合わせたって感じだろ。どうするよ、ロー』

「あ?」

『あっちの海兵達に気付かれるのも時間の問題だし、買い出しだってこんな状況じゃ出来ねぇだろ』

見た所巻き添えになりたくないからか、いつもなら賑わっているであろう周りの店達が全て閉まっている。窓からこちらを伺っている影があるのは確かだが…






「嫌な予感がする」

『は?何がッ…』
「なぁ、あっちから誰か来てね?」

ペンギンが海兵が群れている所を指差しながら言ったのに、自然に視線が移る。確かに誰かが…というより何人かが此方に駆けてきているのが見える。そいつ等を追い掛けるように海兵達も着いて来ているのか、騒がしい声も近付いてくる

というか…その人物には見に覚えがあった





「ユースタス・キャプテン・キッドぉおッ!」
「抵抗は止めてお縄につけぇえッ!」





『なぁ、こっちに来るのキッドに見えんだけど』
「気のせいだ」

『海兵共がキッドの名前を叫んでるんだけど』
「気のせいだ。巻き添え食う前にとっととこの島から出ッ…」

ローが振り向くと、そこにクロムはいない。すると、ベポ達が苦笑しながらその問題の後方を指差していた





◇◇◇ ◇◇◇






「キッドの頭ぁッ!海兵共かなりしつこいですよぉッ!」
「船にまで追ってこられたらマズいんじゃねェですかぁ!?」

「ウジ虫みてェに沸いてきやがる。撒くのが無理なら此処でケリつける。てめェらは先に戻ってろぉッ!」

クルーにそう促し、足を止めて海兵達と向き直ったキッドは金属の破片で造り出した巨大な腕を振りかざして、口角を釣り上げた

すぐ近くまで来ていた海兵は数で対抗しようと一斉にキッドへ向けて剣を振りかざした




「地獄に堕ちてェ奴はかかってこッ…」
スパンッ!

腕を上げようとした瞬間、肩に軽く重みが掛かり、何だと思えば突然飛び掛かってきた海兵達が一斉になぎ倒された。海兵と一緒に辺りに飛び散ったのは水。一瞬硬直したキッドだが、目の前に降り立った人物を見て我に帰った




『よぉ、キッド』
「なッ…クロム!?」

手をひらひらさせて愉快そうにしているクロムの足には水が纏っており、さっきの海兵達をその力で蹴り飛ばしたのだと瞬時に理解した




『何だよ、やっぱりお前だったんじゃねぇか』

「てめェが何で此処にッ…つーか何だその帽子」

『あぁ、これローから借りてる奴』
「は?ローってッ…Σうぉッ!?」

話している間にキッドの背後に迫っていた海兵が剣を振り上げたのに気付き、すぐさま片手でキッドの頭を伏せさせ、もう片方の手で海兵達の頭を銃で撃ち抜いた



『お前自然ロギア系じゃねぇんだから、まともに剣受けたら死ぬぜ?』
「うるせェ!大きなお世話だ!女は引っ込んでろ・・・・・・・・!」

カチンと最後の余計な一言はあたしの沸点を余裕で超えた。キッドの上着の胸倉を掴んで睨み上げる



『女だからってなめてんじゃねェ!男のお前よりは断然海兵どころか大将だって蹴散らせんだからなぁ!』

「ハッ、赤犬に逆に蹴散らされた奴の言葉とは思えねェな?今だって本当は海兵共にビクビクにしちまってんじゃねェのか?」

完全な煽りに一気に頭に血が上り、胸倉を掴むのをやめてキッドに銃口を向けながら言い放った



『面白れぇ!そう言うならどっちが海兵蹴散らせるか勝負しようぜ!当然お前は男なんだからあたしよりも倒せるよなぁ!』

「あったり前だろうが!誰に向かって言ってやがんだ!勝負持ち掛けた事後悔させてやッ…」
「ROOM」

言い合っている2人を囲む様にサークルが出現し、瞬時にその場からローが立つ後方へ移動した。その直後、2人がいた所に銃弾が集中して放たれた

当然、忽然といなくなった2人が何処に消えたのか海兵達はどよめきながら辺りを見渡す




『おぉ、ありがとう。ロー』

見上げた先のローは視線は前方に向けたままあぁ、と小さく返事をしてくれた。隣のキッドは何故か眉をいつも以上に寄せながら立ち上がった



「トラファルガー…てめェ俺を助けて何企んでやがる」
「何言ってる。クロムがお前の傍にいたから一緒に移動させただけだ。蜂の巣にならなくて良かったな」

『ホントホント。良かったなぁ?髪が更に赤くならなくて』

さっきの仕返しとばかりに煽るとキッドはあたしの胸倉を掴んで立ち上がらせて青筋を立たせたままガン付けてきた



『悪人面がもっと悪人面になってるぞ』

「あ゙?誰のせいだと思ってやがんだ。シバくぞ」
『あ?やってみろやチューリップ頭』

またもぐぬぬ…と睨み合いをし始める2人にローはやれやれと呆れ顔でため息を吐いた。そんな3人の姿に気付いた海兵達は予想外なメンツに騒ぎ出した




「あの女ッ…見た事あると思えば白ひげ海賊団零番隊隊長のハーツ・クロムッ!」
「ユースタスとハーツを瞬時に移動させたのはトラファルガー・ローの仕業かッ!?」
「何故タイミング良くユースタスの逃げた先にあの2人がッ!何か企んでいるのかッ!?」

その騒ぎ声に目の前のキッドから目を向けると、ロー越しから海兵がそんな事を叫んでいる。胸倉を掴むキッドの手を振り解き、ローに呼び掛けた



『海軍がまた意味わかんねぇ事言ってんぞー』
「完全に巻き込まれたな」

ローとあたしはほぼ同時にキッドに視線を向けた。すると、キッドはあたし達の反応に大きく舌打ちをした




「何でこっちを見やがる!てめェらが勝手に巻き込まれたんだろうが!」

そう怒鳴りながらズカズカとローを抜かしていつの間にか大群の様に集まっている海兵に向き直るキッド。あたしはとりあえずローの隣まで歩み寄った



「俺はお前のせいで巻き込まれた様なもんだがな」

横目でそう言われ、うっと言葉が詰まる



『なッ…何だよ、巻き込まれたくなきゃ船に戻ってれば良かっただろ。どっち道此処の町じゃ買い出しは無理だろうし』

「まだ教えるつもりの薬がある。中途半端に中断するのは俺が許さねェ」

『キッドはダチなんだよ。ほっとけねぇだろ?』
「会って早々に喧嘩してる奴が何言ってんだ。それに勘違いするんじゃねェ。ユースタス屋と和気あいあいとしてるのはお前だけだ」

痛い所をブスブスと刺されながらあーだこーだと言い合っていると、わなわな肩を震わせているキッドが顔を振り向かせてあたし達を鋭く睨み付けた



「てめェら…後ろでごちゃごちゃ言ってんじゃねェよ」

ドスの効いた声で言われ様と肝の据わりきっている2人は平然として逆に浅くため息を吐いた

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