連絡
『部屋にも船の中にもオヤジいねぇんだけど』
「もしかしたらオヤジも知ってて既に甲板いんのかもな」
『そうだったら捜し損だな』
「ぶっちゃけ今更だが、あのスクアードがオヤジに知らせない筈ねェもんな」
『確かに。あ〜、それなら最初から甲板に行けば良かった』
「ま、そんな大事でもないだろ。のんびり行こうぜ」
『…あぁ』
「何だよ、何か気に掛けてんのか?」
『そういう訳でもないんだが…』
頭がもやもやする。早くしないと何日もぶっ続けで戦っているならジンベエの安否が心配になる。あのポートガス・D・エースの安否だって…
「お前ら何してんだよぃ!」
『あれ、マルコじゃん』
後ろから突然声を上げられ、すぐさま振り向いた。通路の奥からマルコが慌てて駆け寄ってきていた
「どうしたんだ?そんな慌てちまって」
「お前らを捜してたんだよぃ!」
『もしかしてジンベエとあの船長の事でか?』
「知ってるなら何でそんなのんびりしてんだよぃ!」
「いやいや、単なる決闘みたいなもんだろ?それだけで慌てなくてもッ…」
「バカかッ!もう他の幹部もオヤジもみんな甲板に上がってんだよぃ!」
あの連絡は思いの外、大事だったらしい
◇◇◇ ◇◇◇
『霧が濃くなってきたか?』
「あぁ、此処ら辺は霧が出やすいみたいだよぃ」
甲板で待機してしばらく、辺りは濃い霧に包まれ、ホントにこんな所で戦っているのかと疑問に思うほど視界が悪くなった。でも、オヤジがスクアードから聞かされた場所は間違いなくこの島の近辺だと言っていたが…
戦いはもう勝敗が決まっててもおかしくない頃だし、不安だけが募った
すると、前方の霧の中から突然叫び声が響いてきた。誰の声だ?あのスペース海賊団の船長の名を叫んだとしたら、恐らくクルーの誰か…
じゃあジンベエはどうなったんだ…?
だんだん霧が薄れていき、前の景色もハッキリしてきた。デッキの手すりから身を乗り出して目を凝らした
2人倒れてる…?
まだ完全に晴れきっていない霧越しでぼやけてはいるが、体格ですぐ見分けはついた。1人は体格的にジンベエ。もう1人は、ポートガス・D・エース。少し離れた所には数十人の人影がいる。恐らくエースの部下達だろう
『あいつが…ポートガス・D・エース』
呆然としていたエースの部下達がどよめき始めた。無理もない。急に白ひげ海賊団が現れて、狼狽えない奴はほとんどいないだろうし
「俺の首を捕りてェのはどいつだぁ?望み通り、俺が相手になってやる」
オヤジの姿を見たら、更にどよめきが大きくなった
オヤジはあいつと闘る気なんだなぁ…
「ジョズ!ジンベエを運ぶぞ!」
「あぁ!」
オヤジとマルコ、そしてジョズが船から飛び降りた。倒れていたエースはボロボロの身体を無理矢理に立ち上がらせ、オヤジに声を上げていた
仲間は見逃せ。代わりに俺は逃げねぇ…と
あんな身体でまだ立つのか
あの時の自分を見ている様な不思議な感覚…
クロムは船縁から地上の様子を頬杖を付いて黙って見つめた。エースは背後の仲間に逃げろ、と未だに叫んでいる。あいつ自身は逃げずにオヤジと戦おうとしている
「オヤジに勝てるわけねェのにな」
『…あぁ』
隣で同じく頬杖を付いていたサッチの言葉に浅く頷いた
そう。オヤジには勝てない
能力的にも、あの大きな器にも…
◇◇◇ ◇◇◇
あれから数時間。エースはオヤジにズタボロにやられていた。いや、というより最初からボロボロではあった
『もう夜か…』
空を見上げれば、霧は完全に晴れ、今の状況には似つかわしくない満天の星空が全てを見下ろしていた
「終わりか?あれ」
『…だろうな。もうキツいだろ』
クロムとサッチは船縁に足を投げ出しながら座り、オヤジとエースの戦いをずっと眺めていた
彼はどうやらメラメラの実を食べた能力者らしいが、その力を持ってしても結局オヤジのグラグラの実の能力の前では無力に等しい。息を切らしてうずくまっているエースがまだ立とうとしている姿にクロムは目を細めた
あのまま仲間になればいいのに…
「ありゃあ仲間になるな」
『何でそう思う?』
まさかのサッチの言葉に、思わず聞き返した
「なるっつーか、するんだろうな。見てる限りじゃ、オヤジは全然あいつを殺そうとしてねェし、するつもりなさそうだ」
『…そうか』
「そーれにしても…似てるなぁ。あいつ」
『誰に?』
「お前にだよ。クロム」
サッチの思わぬ言葉に眉を寄せた。薄々感じてはいた。過去の自分と姿が重なると。けれどいざ傍から言われると変な気分になった
「ジンベイと闘って、その後にオヤジと闘って…まんまお前じゃねェか。あの逃げねェでオヤジを睨み上げてる目もな」
『…あんな目、してたのか』
あの時の自分。オヤジの首だけを狙っていたあの頃
オヤジを…殺そうとしていたあの頃
クロムの頭に昔の記憶が蘇った
「俺の娘になれ!」
「俺の息子になれ!」
オヤジの声に我に帰り、地上を見る
そこにはオヤジがエースに手を差し伸べていた
その様子を見て、思わず息が止まった。何故ならその場面が昔の自分の姿とひどく似ていて、重なったから…
「ふざけんなぁあぁッ!」
突然の言葉が理解出来ずに激怒したのか、オヤジに殴り掛かろうとしたエースだったが、それより先にオヤジがエースを殴った
【連絡 END】