買い出し








『すいませーん』

買い出しの中にある“傷薬”を探していると、少し古びたレトロな雰囲気の佇まいの良さそうな店があった。とりあえず扉を開けて、中に入った



「いらっしゃい」

奥から出てきたのは人の良さそうなお祖父さん
軽く会釈して、笑顔を向けた




『傷薬ってありますか?』
「おぉ、あるよ。ご案内しましょう」

優しく笑ったお祖父さんにクロムは少しばかり安堵した。海賊である事で、少しばかり邪険に振る舞われると思っていたがそうでもなさそうだ





「ここが傷薬の場所です」
『た、たくさんあるんですね』

「私の店は、品数が豊富なのが取り柄だからね。種類の多さでは、他の店には負けんよ」

そう明るく笑いながら言ったお祖父さんに一言お礼を言って軽く頭を下げた。いやでも、ホントに品揃えが豊富でどれが良いのかまず分からない。とりあえず手に取ってまじまじと見つめて考えた

暫くたくさん並ぶ傷薬に圧倒されていると、お祖父さんが尋ねてきた




「娘さん。あんたは海賊なのかぃ?」
『あッ…まぁ…』

「おー、やっぱりか。通りでしっかりしていると思った。因みに…何という海賊だぃ?」

笑顔で聞いてくれているお祖父さん。だが、白ひげ海賊団という名前を告げて、この人はどう反応するのか…

そう不安になったが、クロムはポツリと言った




『白ひげ海賊団です』

「ほう。そうか、白ひげか」

お祖父さんは目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。お祖父さんの態度は全く変わらず微笑み掛けてくれている…

何故…?
白ひげ海賊団として素直に受け止められるの?



『あたしを、その…追い出さないんですか?』

「何故追い出すんだぃ?」

『白ひげ海賊団が…世間から良い目で見られていないのは知っているので…』

クロムは過去の経験から分かっていた事だ

「白ひげは島を支配している」
「全ての戦争は、白ひげが元凶」

何でもかんでもオヤジを悪く言う声しか聞こえない
全ての行為が世間から“悪い、凶悪な行為”として受け止められている

オヤジは気にするなと言うが、“家族”として1人の“娘”として腸が煮えくり返る様な気分だった。だからこそ、お祖父さんの反応には正直驚いた



『何でそんな笑顔を…』

「私はそんなの気にしないさ。そりゃあこの島を戦争とかに巻き込みに来たというなら話は別だが、今はお客さんとして来てくれているんだ。それに、こんな優しい娘さんがいる海賊なんだから、そんなに悪い海賊だとは私は思っていないよ」

お祖父さんはクロムの手を優しく包んだ
シワだらけの暖かい大きな手…
この人の優しさが伝わる様だった




「海賊だから危険な事もあるかもしれないが、君はまだ若い。これからが本番なんだよ?あまり無理せず、今を精一杯生きなさい」

『…ありがとうございます、お祖父さん』

クロムがお礼を言うとお祖父さんは優しく笑った





バンッッ!

「おい、オヤジッ!また来てやってぞッ!」

和やかな雰囲気をぶち壊す様に突然荒々しく扉が開かれ、ズカズカと入ってきたのは金髪の男達5人。如何にも柄が悪いゴロツキの様な感じだ

お祖父さんは一旦あたしを棚の影に隠れる様に促し、ゴロツキ達の元へ…




「あんた達また来たのかッ…!」

「あん?誰に口聞いてんだよ?」
「俺達が誰だか知ってんだろ?」
「こんな寂れたチンケな店に来てやってるだけありがたいと思えよ。おっさん」

ゴロツキはゲラゲラ笑いながら商品の傷薬をポイポイとさも当たり前の様に袋に詰めていく。クロムはお祖父さんの拳が微かに震えている事に気付いた。怒りからか恐れからかは分からない

不審に思い、此方へ戻ってきたお祖父さんに小声で尋ねた




「すまんな、娘さん。騒がしくて…」

『あいつらは何者ですか?』

「ここら辺を拠点にしてる海賊だよ。5人と少ないが…あいつらの凶暴さには私達も逆らえないんだ」

『この島に武力的な思考は無いんですか?』

「私達は平和を愛している。武力なんて持ちたくないんだ。そうしたら、この有り様だ。この島を拠点にしてから彼らはあぁやっていつも食料や薬品を強奪していくんだ」

『…そうですか』

抵抗出来ないと分かってての拠点化か
卑怯なヤツのする事はたかが知れてるな…





「オヤジ!主がお帰りだぜ?早くお見送りしろよ!」

「Σあッ、はい!娘さんは此処にいておくれ。危険だから」

お祖父さんは苦笑して、駆け足でゴロツキ達の所へ向かった。クロムは目を鋭くさせ、静かに背中の剣を引き抜いた





「じゃあなぁ、オヤジ!また来るからなぁ!」
「まッ…またのお越しを…」

「此処はチンケな割には品揃えは良いんだよなぁ」

「ハハハ、確かになッ!次は向かいの食料でも調達すッ…」
『待てよ、お前ら』
「Σむッ、娘さん!?」

クロムは背後から剣の刃をゴロツキの1人の首元へ向けた




『その荷物、置いていけ』

「お?良い女じゃねェの?」
「ここら辺じゃ見掛けねェな?」
「名前なんて言うんだ?」

『お前等みたいなめんどくせぇ奴らに名乗りたくねぇな』
「おいおい、つれねェな?船に来て、俺達と1発ヤんねェか?」
「お、良いねェ」
「俺達が楽しませてやッ…」
バキャッッ!

クロムは言葉を遮る様に剣の峰でゴロツキ達5人を店の玄関ごと外へ殴り飛ばした。急な事にそこ周辺の住人達が何だ、何だと集まりだした





「このアマッ!何しやがんだぁッ!」
「Σうぁ゙ッ…!いてェッ!」
「おいッ!こいつ腕の骨折れてんぞ!?」

『胴体と繋がってるだけ、ありがたいと思えよ。カス共』

扉が外れた店から出てきたクロムは表情を変えずに剣をゴロツキに向けた

ヒドく冷たい目で見下ろしながら…





『あたしはお前らみてぇなヤツらが1番大っ嫌いなんだ。此処の人達が抵抗出来ねぇの分かってて拠点化だ?笑わせんな、どアホ共』

「てめェに関係ねェだろッ!俺達が何処を拠点にするかなんてよぉッ!」
「海賊はそういうもんだろうがッ!」
「海賊は欲や野望の為なら女、子供でも平気で殺すッ!俺達だって例外じゃねェんだぞぉおおおッ!」

骨が折れた1人以外の4人が一斉に向かってきた。それでも平然と立つクロムに、周りの住人達から逃げろ声が飛ぶ



「娘さん、逃げろッ!死んでしまうぞッ!?」

「死ねッ!女ぁああッ!」
ボォオオッ!

「Σうおッ!?何だ何だッ!?」
「炎ッ!?」

『お前らさっき言ってたよな?海賊はみんな欲や野望の為ならどんな奴でも殺すって』

炎を吹き出しながらクロムは左胸の服の襟元を鎖骨したまで下げた。そこには堂々と彫られた白ひげ海賊の紋様が…

それを見てゴロツキ達だけでなく、周りの住人達も目を見開いて驚いた様にどよめいた




「こいつッ…白ひげ海賊団ッ!?」
「女のクルーなんていたかッ!?」
「見た事ねェぞ!あんな奴ッ…」

『オヤジだったら、てめぇらみたいなグズ…真っ先に殺すだろうな。まぁ…そうじゃなくても、あたしは殺す。その面をズタズタに切り刻んでやるよ』

1歩1歩近付くと、ゴロツキ達の表情が青ざめていた。そして、冷や汗を流しながら命乞いを始めた



「ま、待てよッ!俺達はお前らに何もしてねェだろ!?」
「たかが1つのちっせェ島だろ!?」

“たかだ小さな島”
そのゴロツキの言葉に周りの島の住人がムッと怒りの表情を露にした。が、やはり反抗する一歩が出ず、怒りを我慢している様に手を震わせていた




「こんなちんけな島の奴らが1つの海賊に支配されてるってだけだろ!?」
「お前ら白ひげには何も邪魔な事なんざしてなッ…」
ガンッッ!
「Σいッ…!」

クロムは喚き続けるゴロツキの目の前に剣を突き刺した



『ちんけちんけってうるせぇんだよ。死ぬ時くらい黙ってろ』

「たた頼むッ!やめてくれ!」
「まだ死にたくねェッ!」
『聞こえねぇな。何の覚悟もねぇ腰抜け共の声なんざ』

「おッ…お前ら白ひげ海賊団だって、島をいくつも支配して領地にしてんじゃねェか!」
「そッ…そうだぜッ!やってる事は俺達と同じじゃねェかッ!」

その言葉にクロムは俯き、剣を引き抜いた。自分達の事を殺すのを諦めたと思ったゴロツキだが、その刹那、鈍い音が響いた



バキッッ!
「ぐあぁッ!」
「Σなッ…」

鈍い音はクロムがゴロツキの1人を目に見えぬ速さで蹴り上げた音。一瞬の出来事に残った4人は硬直した





『オヤジが…お前らと同じだ?ふざけた事言ってんじゃねぇよ』

クロムはギリッと歯を食い縛って、剣を握り締めた。その姿にさきほどの薬屋の亭主が心配そうに眉を潜めた




『確かにオヤジは色んな島を領土にしてる。だが、ただ支配してるんじゃねぇんだよ。その島もそこの住民も他所の奴らに好き勝手させない様に守ってんだ。それなりに覚悟もあって、身体も張ってんだ。それがお前らと違う所だ』

「そんなの綺麗事だッ!」
「世間の奴らはそう思っちゃいねェ!此処の奴らだってそうかもしれねェだろッ!」

クロムは不意に横目で辺りを見た。みんな複雑な顔をしているが、そんな事今更だと正直思った。フッと小さく笑うと、クロムは剣の刃をゴロツキの首元に向けた



『世間の奴らがどう思おうが勝手だ。思うなら思ってればいい。いちいち気にしてる暇は生憎ねぇんだよ。ただあたしは、オヤジを信じてるだけだ』

クロムは表情を変えずに剣を持った右手を頭上に上げた。ゴロツキの顔色が蒼白になっていく




『親を信じて何が悪い』

ズバッ!
「ぎゃぁあああッッ!」
「うぁ゛ッ!」

4人の内の2人の腹を同時に裂いた。2人は即死したのか、叫び声の後すぐに血を噴出しながら息絶えた

返り血を手で拭い、剣も引き抜いた。滴る血を一瞥して、もう2人の方に目を向けた。が、そこにはもう男の姿はなかった。地面に深く足跡が残っていた



『チッ、逃がしたかッ…』
「娘さんッ!」

呼び掛けられ、振り向いた。みんなの顔が青ざめている。思わず顔を逸らし、背を向けた。また変に気が回ってしまった。まぁ、此処の人達がバカ共から解放されたから良いか…

クロムはそのまま立ち去ろうと振り向かずに足を進めようとした


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