ダチ





『それが…むしゃくしゃしてる理由だ』
「そうだったのか」

あまり言いたくなかったけれど、思ったより2人が真面目に聞いてくれていたからか、勢いで細かく話してしまった



『ホントに情けねぇ。何か八つ当たりみたいでごめッ…』
「おい、クロム」

俯いたクロムの頭上から、いつもより低いキッドの声が降ってきた。顔を上げると、いかにも不機嫌そうな顔をしているキッドの顔が目に映った

オーラまでもが黒く感じる…



『な、何だよ』
「誰だ?その盗賊ってのは」

『…いや、聞いてどうすんだよ』
「そいつ、俺がぶっ殺してやるよ」

『……Σは!?』

危なく笑ったキッドに、クロムは唖然。キラーはそんなキッドに思わずため息を吐いた。こうなったキッドを宥めるのは難しい…


『何言ってんだよ!前の話だし!』
「俺のダチを襲う奴がわりぃ。地獄に送ってやるから教えろや」

『いやだから!前の話だし!偶然居合わせた奴らだし!キラーも何とか言ってくれよ、このバカに!』

「…キッドが言ってるのが正しい」
「だよな」

唯一キッドを宥められるだろうキラーにすらそう言われてしまった



『お前らなぁ!襲われたっつても、ローが助けてくれたから大丈夫だったんだよ!』
「あ゙?」

ローの名が出て、キッドの眉間にこれ以上ないほどの皺が増えた




「ローってのは、あのトラファルガーの事か?」
『そ…そうだけど…』

明らかにキッドは不機嫌モード。元々鋭い目つきが更に鋭くなる。あの抜け目のねぇ、医者野郎か。どうしてもあの野郎だけは好かねェ…




『なぁ、キラー。何でキッドはあんな不機嫌になってんだ?』
「知らねェ」

小声で尋ねてきたクロムを横目に本当はキラーは知っていた。キッドが何故不機嫌なのか。いや、長年キッドと共にいるキラーだからではなく、誰がどう見てもクロムといる時のキッドの雰囲気は和やかと感じている筈だ

キッドも随分、クロムを好いてるからなぁ…
口じゃダチなんて言っても、本心はただのダチとは思ってないだろう

キラーは不機嫌そうな顔をしているキッドを見つめながら思った。ダチなんてただクロムの前での強がりと一緒。本当は自分だけのモノにしたくてしょうがないのだ

あー、しかもトラファルガー・ローの名が出て、余計に不機嫌になってやがるし。こりゃあ、トラファルガーもとばっちりだろうな…

イライラしているキッドと宥めるクロムの光景にキラーは何度目かのため息を吐いた







◇◇◇ ◇◇◇







『だからもういいんだって。これからはちゃんと注意するし』

それに腑に落ちない様だが、漸くキッドは落ち着きを取り戻した。その後、クロムはキラーに手当ての事のお礼を言って、キッドと一緒に甲板に戻った





『なぁ、キッド』
「あ?」

甲板に戻ったキッドとクロムは床に仰向けになりながら雑談していた




『あたし達さ、ダチになってどん位かな』
「…さぁな」

『だよな。でも、キッドと喧嘩友達になってやっぱり良かったよ』

「…何今更な事言ってんだ?」
『久しぶりにお前と喧嘩して、昔の事思い出したんだよ』

思い出し笑いしながらクロムは懐かしそうに目を細め、背伸びして言った








『おーい。今回の買い出しは誰が行く?』

「俺行きてェ!」
「俺も行くぞ!」
「俺も行きてェ!」
「俺も!」

ある島に停泊した白ひげ海賊団。甲板では島に買い出しに行くクルーを決めている最中。まだ朝の段階で、寝てる奴もいるから人数が少ないのは良いが…

何故かその日はみんな行きたがり、決めるのが大変だった



『はいはい、ちゃんと決めてぇから少し落ち着け。買い出しの経費計算の事も考えて、マルコは行くだろ?』
「あぁ」

『食料の安全面や質に関しては詳しいコックのサッチも買い出し組な』
「おっし!きたぁ!」

『オヤジの酒を買うのには体力もいるから、ジョズとティーチもいいか?』
「おぉ!」
「あぁ、任せとけ」

粗方決定メンバーをあげ、その他のクルーはマルコ、サッチ、ジョズ、ティーチそれぞれに振り分ける事になった



『他の行くクルーはマルコ、サッチ、ジョズ、ティーチの4つのグループに分かれる感じにする。ジョズとティーチの所になるクルーは、力に自信がある奴が入った方がいいと思う』

「人数はどうやって決めんだよ?」
『ジャンケンだろ』






「おっしゃあッ!俺勝った!」
「Σぐは!負けたぁあッ!」

買い出し組を決めるべく、盛大なジャンケン大会がみたいなモノが始まった。決まった人数からして、一組7〜10人ほどとなった



『あー、やっと決まった…』
「お疲れさん。てか、お前結局何処の組に入んだよ?」

サッチが言った事で自分がジャンケンで勝ったのを思い出した。辺りを見渡すと、既に各々グループに分かれており、準備を始めていた



『うわぁ、どうしよう…』
「迷ってんなら、俺の所に来るか?」

せっかく誘われているし、とサッチの組に入ろうかと思ったが、背後からの声で頷こうとした首が止まった

振り返れば、困った様に眉を寄せているマルコがいた



『何だ?何か困り事か?』
「いや、計算を手伝ってほしいんだよぃ」

『は?他の奴らは?』
「みんな計算が全く出来ないみたいなんだよぃ」

計算出来ないって…ヤバくないか?

苦笑しながら言ったマルコに、クロムも家族ながら情けないと感じてしまった




「良かったじゃねェか。ご指名が来て」
『ごめんな、サッチ。せっかく誘ってくれたのに』

「また今度一緒に行けばいいさ」

そう言ってサッチは背を向ける間際に軽く手を振った。クロムも微笑み返し、マルコ達と一緒に船を降りた








◇◇◇ ◇◇◇








『目的の物が揃ってて良かったな』
「あぁ」

マルコ組はマルコとクロムの2人を先頭に買い物を済ませていた。特に他の海賊や盗賊といった面倒くさくなる様な奴らがいなかったおかげかスムーズに買い出しは進んでいる



「薬や必要な要具はもう買いましたし、あとはいいんじゃないッスかね?」

クルーの1人が買い出しのメモをチェックしながら言った



『どうする?マルコ』
「買い出しは済んだし、海軍もいねェ。船に戻るか」  

そのマルコの言葉にクロムの表情から嫌悪感が漏れだした



『…買い出しぐらいでもあんな海軍共警戒しなきゃならねぇのかよ』

「どんな意気地なしな奴だろうが、時には大きな戦力になりかねないだろぃ。警戒して損はない筈だ」

『…そうかよ』

若干不機嫌気味なクロムの返し。嫌いな海軍に背を向け、逃げてい様に感じていたからか、感情が表に出てしまっていた

あんな奴らなんかに警戒しなきゃいけねぇなんて…ムカつく





「まぁ、海軍がいねェ事に越したことはないだろぃ」

「そうッスね」
「面倒な事にならなくて済むしな」
「いたとしてま、クロム隊長もマルコ隊長もいるし、安心だろ」

『海軍がいても叩きのめすだけだ』
「俺はあんまり関わりたくねェけどな」

マルコがため息混じりに頭を掻きながら言うと、クルー達が可笑しそうに笑った






ガシャアァアンッッ!
「Σは!?何だ何だ!?」
「Σ店が吹っ飛んだ!?」

歩いていた道沿いに古びた店が1件。そこのガラスが突然爆音と共に吹き飛び、数人の海兵もガラスと共に外に放り出された




「ありゃあ海軍だ!」
「何でこんな所に海軍がいんだよ!」

放り出されたのが海軍と気付き、クルー達が響めいた。クロムは殺気を無意識にでも剥き出しにさせ、ナイフを取り出した…が、その手をマルコに掴まれた



「ナイフはしまえ、クロム」

怪訝そうに首を振り向かせると、マルコは前方の海兵達をみながら続けた



「あっちは俺達が目的で来たみたいじゃねェらしいよぃ。他の目的の海賊がいるんだろぃ」
『片付けちまえば良いだろ』

「オヤジに心配かけさせてェのかぃ?」
『それはッ…』

「あっちは俺達に気付いてねェ。俺としても無駄な戦いは避けたいよぃ。だからナイフをしまって、その突き刺さる様な殺気も消せ」

『…はいはい』

言われた事に渋々頷いたクロムは、構えたナイフをしまった。大人しく従ったその様子に安堵し、マルコは再度目の前の光景を目に映した








「うぅッ…きッ…貴様ぁッ…!」

放り出された海兵達が、ゆっくり立ち上がり、最早原型も止めていないガラス窓の奥に刀を構えた。粉々になったガラスの破片を踏み付ける音が聞こえてくる



「んだよ、意外としぶといじゃねェか。海軍様よぉ」

ガラス窓の奥から声が聞こえた。声からして男という事は分かった。そして、その声の主が飛び散ったガラス窓から出てきた



「学習しねぇ奴らだな。俺にそんなもん向けても意味ねェよ」



『あいつは…』
「知り合いか?」

思わず漏れた言葉にマルコは尋ねた


『知り合いなんかじゃねぇ。ただどっかの街で貼り出されてた手配書の男にそっくりだ。いや…本人か』

南の海出身。「海賊王になる」という野望を掲げ、その事で自分を嗤ったものは皆殺し

しかも民間人からの評判は最悪。多大な被害を与え、それで懸賞金が跳ね上がったと言われる凶悪な男。億越えのルーキー



『ユースタス・キャプテン・キッド』




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