嫉妬?
昨日の夜、部屋に入ったが中々寝付けず、そのまま朝になってしまった。ずっとベッドに横になり、窓から見える空を眺めていた
昨日の夜、エースが言い掛けた言葉を思い返していた
「俺はお前がッ… 」
最後の言葉を言い掛けた途端にクルーが来て、結局言葉の最後は分からずじまいになってしまった。後味が悪い
あの顔…なんだよ。こっちまで意識しちまうじゃねぇか
嫉妬か…ローやキッドに会いに行っただけでそんな壁ぶち破るくらいなんて正直未だ信じられない
あの優しいエースが…
『エースに会いにくいなぁ』
何故か気まずくなったのは確かだ。このまま今日は部屋で過ごそうか。そう思ったクロムだった。が…
「クロムー、今ジンベエが来たからお前も早く甲板に来いよ」
ジンベェえぇえこの野郎ぉおおお!
サッチに半場強制的に引っ張られながら甲板に向かった。甲板に出ると、エースがいないか無意識に辺りを見回してしまう自分に気付き、ため息を吐いた
『情けなさすぎ…』
だが甲板にエースの姿はなかった。中央付近には、ジンベエが数人のクルーに囲まれながら雑談をしている。クロムは軽くジンベエを睨みながら、サッチと共にその中央付近に向かった
「ん?おぉ、クロムさんじゃないか」
『だからさん付けすんなっていつも言ってんだろ?で、今日はどうしたんだよ』
不機嫌そうに腕を組みながらジンベエを見上げて話すクロム。そんな心情に気付かないジンベエは笑顔で答える
「いやいや、そんな理由なんて事で来た訳じゃないんじゃ。丁度ジンベイザメ達と釣りをしていたら、オヤジさんの船が見えたからのう。久しぶりに尋ねてみたんじゃ」
『オヤジなら自室にいると思うぜ?会ってくれば良いんじゃねェの』
「おお、そうじゃな。オヤジさんに挨拶しにいかんと」
クロムの不機嫌オーラに気付いていないジンベエは笑顔でクルー達とオヤジの部屋へと向かっていった
クロムは船縁に寄りかかり、ズルズルと床に座り込んだ。いつも一緒にいたのに、今はいなくて少しホッとしてしまうなんて…
「どうしたんだ?クロムは。さっきから様子が変だぞ?」
「そうだな」
座り込んだクロムの姿を2人は怪訝に思った。いつもなら、クルーと共にジンベエと話す筈なのに
「ありゃあ、やっぱ…エースか?」
「まぁ…そうだろうな」
大方の予想はついた。きっとエースの事だと。1回考える素振りをしたサッチはクロムの所へ向かい、マルコはその様子を黙って見守った
「よう、クロム」
『…サッチか』
明らかテンションがダウンしているクロムの隣にサッチはあぐらをかいた
「元気ねェぞ?何かあったのか?」
『別に何でもねェよ。つーか…エースは?甲板にいねぇけど』
サッチは目を丸くして、やっぱりかと心の中で思ったが、顔は極自然な表情を保った
「エースなら…多分オヤジの所だろ。今頃ジンベエ達と喋ってると思うぜ?」
『…そうか』
クロムは苦笑し、頭を船縁の壁に付けた。勘付いてはいたが、ボーッといつになく抜け殻状態のクロムにサッチは尋ねた
「エースと何かあったのか?」
『なッ…別に何でもねぇよ』
クロムはサッチからすぐに顔を反らして一言言った。分かりやすいクロムの反応に苦笑し、サッチは膝に肘を乗せて頬杖を付いた
◇◇◇ ◇◇◇
数時間して、ジンベエと他のクルー達がオヤジの部屋から戻ってきた。話が弾みすぎて長居してしまった、とジンベエが笑いながら言っている声がクロムの耳にも入り、俯いていた顔を上げた
いつの間にか隣にいた筈のサッチは何処かに行ってしまったのか、姿がない
「あれ、隊長どうしたんですか?何か上の空みたいッスけど…」
「クロムも来れば良かったのに。話が盛り上がって面白かったんだぜ?」
『そうか…』
ジンベエと共にオヤジの部屋に向かった隊員達がクロムの前に心配気にしゃがみ込み、尋ねた。ジンベエも同じようにクロムの前に腰を下ろした
「クロムさん、大丈夫か?」
『大丈夫だっつの。つーかさん付けすんなって言ってんだろ』
「あ、すまんな。つい…」
少しキレ気味に言ったせいか、ジンベエは苦笑しながら頭を下げた。クロムがため息を吐いた後、ジンベエは何かを思い付いた様に手を叩いた
「クロム、久しぶりにわしと修行せんか?」
『は?』
クロムは修行という言葉に眉を寄せ、ジンベエを見る。ジンベエは変わらず笑顔のまま。確かに白ひげ海賊団に入団してから、ジンベエが訪れては修行の相手をしてもらっていた。能力の1つである水のコントロールの修行だ
気付けばこの頃修行なんてやっていなかった
『修行…か。でも今日はあんまッ…』
「クロム?」
不意に甲板へ目を向けたクロムが突然言葉を止めて、固まった。それにジンベエは頭に?を浮かばせた。目を向けた丁度にいつの間にいたのか、エースが
しかも目が合ってしまった
硬直していると、目が合ったエースが此方に身体を向けて歩み寄ってくる。クロムはすかさず立ち上がり、ジンベエの着物の裾を引っ張った
『ジンベエ、修行するなら早く行くぞ』
「いいが、時間はまだある。もう少し船にいてもッ…」
『いいから、行くぞ!』
クロムは足早にジンベエを半ば強制的に引きづりながら一緒にジンベエザメの大群の背中に乗り、船から去って行った。まるで突然の嵐の様に船から出て行ったクロムとジンベエの姿を唖然としながら残されたクルー達は見送った
「クロム隊長…ホントどうしたんですかね?」
「ジンベエと修行がしたかったんじゃねェか?随分久しぶりだったみてェだからな」
「そういう様子でしたか?何か逃げてくみたいな感じでしたけど…」
クルーが呟いた言葉にエースは無意識に反応した
やっぱり…ありゃあ俺を避けてるのか?
まぁ…あんな事した事ねェし、やりすぎたな…
もうかなり遠くにあるジンベエサメの群れの影をエースは黙って見つめていた
【嫉妬? END】