予想外







クロムとスモーカーの銃と十手で弾き合いが続く。十手の大きさの割に素早いスモーカーの突きにクロムは愉快そうに口角を上げた



「てめェ、さっきから何笑ってやがる」
『久しぶりに骨のある奴に会ったんだ。嬉しくて笑っちまう』

「いつまでも笑ってられると思ってんじゃねェぞ」

スモーカーの身体がみるみる白い煙に変わっていく。目の前が真っ白になり、気付けばあっという間に煙に囲まれ身構えていると、不意に背後に気配を感じた


『Σうおッ!』

振り向いた瞬間に煙の中から頭めがけて十手が勢い良く飛んできた。ぎりぎり躱したが、次から次へと手やら足やらが四方八方から飛んでくる

煙で景色も霞む…というかほとんど視界は煙で白一色だ。銃で瞬時に飛んでくる手足を射撃してもすぐに煙に変わってしまう

厄介だなッ…煙ってのも…
これじゃあ埒があかないじゃねェか



『だったら…』

クロムは身を低くし、大量の炎を両手に溜め、一気に地面に打ち付けた



乱華炎らんかえんッ!』

地面から乱雑に火柱が噴き出し、周りに漂っていた煙を炎の勢いで一掃した。立ち上がり、すぐさま銃を構えるが、スモーカーの姿はどこにもない




『チッ、何処行きやがッ…』
「ホワイトランチャーッ!」

『Σがッ…!』

上方からスモーカーが煙で急降下してきた。反応が遅れるも、突き出された十手は避けられた。だが、そのまま着地したスモーカーの回し蹴りをまともに受けてしまう。後方に吹き飛ばされたが、食らった部位を抑えながら宙返りし、地面に叩きつけられるのは防いだ



「ホワイトスネークッ!」

クロムは咳き込み、口の血を拭いながらすぐさま立ち上がるが、スモーカーは休む暇を与えまいと素早く煙に変化させて急接近してくる

クロムは小さく舌打ちした後、瞳を銀へ…



疾風陣しっぷうじんッ!』

クロムが両腕を前へ振り上げると、スモーカーに向かって強風が吹き荒れた。吹き飛ばされまいと、スモーカーは一旦能力を抑え、十手を地面に突き刺して重心を安定させた

吹き飛ばされないのに気付いたクロムは風を止まさせた。2人は黙ったまま。スモーカーは十手を地面から引き抜き、クロムへの目線を更に険しくさせた



「てめェ…本当に何モンだ?」
『何だよ、その質問』

「炎だけじゃなく、風もあやつりやがった。ただの能力者じゃねェのは確かだろう」

面倒な問答をしてきやがった、とクロムは浅くため息を吐いた



「2つの悪魔の実を食べた時点で、普通なら内蔵が全て破裂する…つまり死ぬって事だ。なのにてめェは2つの能力を持ってやがる」

『海軍に話す義理はねェけど、お前なら別に良いか。そもそもあたしは悪魔の実を食べてねェ』

「だったらその能力は何だ」
『元々の力…って言ったら信じるか?』

「元々?信じられねェ話だが…信じるしかねェだろう。間近で見ちまってるしな」

『まぁそうだよな。でも、一応能力は2つだけじゃねェんだよなぁ』

クロムは不適に笑みを浮かべると、1度目を伏せ、ゆっくり見開いた。オレンジの髪から覗いた瞳の色は海と同じ澄んだ水色

何かを察したスモーカーは、十手を逆手に持ち直し、煙を噴き出させ、構える。すると、視線の先のクロムの足元からはある筈のない水が湧き出し、クロムを覆う様に包み込んだ


「水ッ…」
『能力者に使った事ねェからどうか分からねェけど、能力者の唯一の弱点は水…だろ?』

「…おもしれェ。受けて立ってやる」

スモーカーは最大量の煙を噴き出させ、力強く地を蹴った。クロムは小さく笑うと目を鋭くさせ、手を振り翳した



『溺れろッ!海軍ッ!』
「やってみやがれッ!海賊がぁッ!」

クロムの身体に纏っていた水はクロムの意思に従う様に向かってくるスモーカーめがけて何十本の水柱が放射されていく



「そんな大振りな技が効くとでも思ってんのかッ!」
『この技は相手がどんなに複雑に動こうとも着いていく追尾型の技だ。躱したからって、すぐに追いつくぜ?』

確かに1本1本躱した後、背後を見ると、躱した筈の水柱が滑らかに方向転換し、更に着いてくる



「チッ…厄介だなッ…」
『水ばかりに気を取られ過ぎだぜ?』

ガッ!
「ゔッ…!」

水柱に気を取られ、前方にクロムが急接近しているのに気付かなかったスモーカーは、そのまま腹部に打撃をまともに受けてしまい、その場に叩き付けられた

倒れたスモーカーに水柱が容赦なく後から打ち付ける



『水浸しになった気分はどうだよ』

クロムはニヒルに笑うと、水を手元に集め始めた。それはだんだんと剣の様な鋭利な形へ変形していく




「おのれ海賊ッ!」
「たしぎ!よせッ!」

スモーカーの止めの言葉を聞かず、背後から鬼の形相で駆けてきたたしぎが剣を振り下ろした。だが、クロムは躱す素振りもせず、口元を釣り上げた



バキンッ!
「Σなッ…」

クロムに振り下ろされた剣はいつの間に割って入ったのか、クラウスが蹴り飛ばし、その反動でたしぎは尻餅を付いてしまった



「あッ、貴方はッ…」
「俺達の隊長に…てめェ如きが手ェ出してんじゃねェよ」

たしぎを鋭く睨み下ろしながらクラウスが言い捨てた。見下された言葉にたしぎは思わず歯を食い縛る




『ナーイスタイミング』
「背中くらい守ってやるよ」

クラウスは背を向けるクロムの背中を軽く叩き、再度たしぎに目を移した。たしぎは蹌踉けながらも、立ち上がり、剣を構えた


「今の蹴りだけでそれかよ」
「くッ…不意を突かれただけですッ!」

「剣ばかりに頼ってるからじゃねェのか?女海兵。女だからって甘ったれてんじゃねェよ」
「そんな事ありませんッ!失礼なッ!」

「じゃあ、剣捨てて素手で…戦ってみろよッ!」

クラウスはたしぎへ向かって駆け出し、一気に間合いを詰めると打撃を数弾入れる。何とかたしぎは剣で防いではいるが、後ろに圧される。その様子にクラウスは不適に笑った


「やっぱり、剣頼みだな」
「くッ…貴方ッ…!」




『あーぁ、あいつ女相手って事分かってんのか?ま、海兵だから関係ねェか』
「てめェッ…」

『言っとくが、クラウスは肉弾戦ではかなり強ェぜ?一回あたしの太刀を防いでるしな。あの子新米でないにしても、まだ剣技を身に付けてそう日は経ってねェのか…見た感じはクラウスの言ってた通り、剣に力入れすぎだな』

たしぎとクラウスの攻防戦を一瞥し、目を伏せてから再度スモーカーを見下ろした。水浸しでうつ伏せのスモーカーの前まで歩み寄り、水の剣を逆手に持ち変え、頭上まで上げた



『水で出来てても、頭蓋骨くらいは簡単に貫くぜ?』

スモーカーは黙ってクロムを見上げる


『安心しろよ。お前を殺したら、すぐに他の海兵も送ってやるからさ』
「てめェッ…」

『あ?』
「こんなモンで…俺を殺れると思ってんじゃねェよッ!」

スモーカーは怒鳴りと共に大量の煙を噴き出させ、体勢を瞬時に変えると、そのままの勢いで向けられていた水の剣を蹴り飛ばした

不意を突かれたクロムは弾き飛ばされた反動で体勢が崩れる。賺さずスモーカーは十手でクロムの腹を殴り付けた



『がはッ…!』
「海軍をなめんじゃねェッ!」

腹部にメリッ、と嫌な音が身体に響いた直後、クロムは血を吐きだしながら背後の民家まで殴り飛ばされた。中から悲鳴を上げながら住民が逃げていく



「Σクロムッ!?」
「よそ見は命取りですッ!」

クラウスは背後からの突然の衝撃音に思わずクロムの方へ振り向いた。打撃が止んだのを見て、賺さずたしぎは斬り掛かる



「ハーツ・クロムなんかにスモーカーさんが負ける訳ありませんッ!倒されるのも時間の問題ですッ!」

「は?クロムが負ける?んな事あり得ねェよ」

「あり得ますッ!あなた方の様な秩序を乱すだけの海賊なんかにスモーカーさんは負けませんッ!」

「うるせェ海兵だな、てめェ。俺達はただ自由に航海してるだけだ」

「その自由が、世界からしたら迷惑なんですッ!ハーツ・クロムはそんな自由を掲げて好き勝手に暴れている海賊の中でもかなりの危険人物ッ!此処で野放しにすれば、海軍の恥でッ…!」
パシッ!

たしぎの斬り掛かる剣を躱し続けていたクラウスが、突然たしぎの剣を握る腕を掴んだ。ギリギリとキツく掴む腕から感じた痛みにたしぎの表情が歪んだ



「てめェ…それ以上クロムを侮辱してみろ。原形留めねェくらいに骨砕くぞ」

クラウスの目は殺気しか感じ取られないくらいに鋭い。それにたしぎは恐れからきた悪寒で肩を震わせた




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