「ねね、まっすーはどう思う?」


「何が」


「え〜聞いてなかったの?だから、ひなりんってモテそうだよねって話!」


談話室で監督のことを眺めてたらいつの間にか一成と太一が隣にいた。
声が大きいから監督に集中できないし俺を巻き込まないで欲しい。


「監督の声が聞こえないから静かにして」


「そんなこと言わないでまっすーも一緒に恋バナしよーよ!」


「監督の魅力についてならいくらでも話してやる。」


「あ〜それは毎回聞いてるし遠慮しとくよ…」


「でもやっぱり姫チャンって絶対モテるっスよね!誰にでも優しいし気遣いもできて、なんかこう…守ってあげたくなるような雰囲気っていうか…!」


「だよね!オレの大学にいたら絶対人気者だろうな〜。ね、まっすー!ひなりんって学校でやっぱ男子人気高いの?」


「…九条と仲良くなってからは、明るくなったし笑顔も増えたから。前よりアイツのこと狙ってるやつは多いと思う。」


「そうなんスね!やっぱり姫チャンは笑ってる方が可愛いから、その気持ち分かるなぁ。」


「へ〜!意外だなぁ。まっすーって結構ひなりんのこと見てるんだね。」


「別に、そんなことないけど。」


「そう?今だって、カントクちゃんのこと見てるのかなって思ってたけどひなりんのこと目で追ってるし。」


「え?珍しいッスね!いつも監督先生のことばっかり見てるのに!」


「違う。たまたま目に入っただけだから。」


「でも前まではひなりんのこと興味ないって言ってたのに学校でも結構気に掛けてるみたいだし、最近は寮でもひなりんのことよく見てるよね〜。」


「…一成。何が言いたいの。」


「そんな睨まないでよ!オレはただ最近のまっすーはよくひなりんのこと見てるなって思っただけだって!」


「…部屋に戻る。」


「え?真澄クン!もうすぐ夕食できるみたいっスよ!ここで待ってた方が…って、行っちゃった。カズくん、真澄クンどうしちゃったんスかね?」


「うーん、ちょっとやりすぎちゃったかな。」





あの日、監督のことを好きになってからずっと、監督以外の女になんて興味なかった。監督のあの時の演技を見て、俺はひと目で好きになった。この先絶対にこんなにも好きになれる人なんていない。正真正銘の最後の愛だ。…ずっと、そう思ってた。それなのに、


「…どうして、アイツから目が離せないんだ」


一成に言われなくても、俺が最近ずっとアイツを、姫を目で追ってることくらい自分が1番わかってる。さっきだって、監督のことをずっと見てたのに。監督と一緒に料理をしてる姫を見たら目が離せなくなった。

学校でもそうだ。アイツはよく笑うようになった。九条以外の友達も最近は増えてるみたいだし、クラスの男子とも話をしているところを見かけることも少なくない。そんなアイツを見て、俺はずっとモヤモヤしてる。学校では俺だけがアイツの友達だったのに、だんだん色んなやつと仲良くなって、俺から離れていってしまう気がした。

…それの何がダメなんだ。別に俺は監督に学校でアイツが1人にならないように一緒にいて欲しいって頼まれたからアイツと一緒にいただけ。九条やクラスのみんながいて、アイツが1人にならない今は俺はその約束を守り続けなくてもいい。

…それでも俺は、



「真澄くん?扉、開けてもいい?」


「…どうぞ。」


「良かった。やっぱりお部屋にいたんだね!ご飯の支度できたから呼びに来たよ。」


「あとで行くから、先に行ってて。」


「真澄くん今は食べないの?遅くなるようならラップしておいた方がいいかな?」


「…いや、そこまで遅くはならないと思う。」



ずっと胸の奥がざわついて、今は食欲がわかなかった。せっかく作ってくれたのに後回しにするなんて悪いけど、今食べに行って残してしまうのも良くない気がした。


「…真澄くん。いつもより元気ないね。」


「いつもと変わらないけど。」


「ううん。何か落ち込んでるっていうか、ずっと思い詰めてるような感じがする。」


「…俺にも分からない。」


「え?」


「自分のことなのに、俺は俺自身のことが全然わからない。どれだけ悩んでも答えなんて出てこない。…ねぇ、アンタなら分かる?教えて、」


「ま、真澄くん!落ち着いて、何か悩み事があるんだよね、私でよければ聞くよ?」


「…なんて相談したらいいのかもわからない。何で悩んでるのかも、どうしたいのかも分からない。」


「うーん、難しいね、そう言われると私も分からないよ…。」


「ねぇ、アンタは好きなやつって出来たことあるの?先に言っとくけど、恋愛感情でだから。」


「…え!?好きな人、なんて。…ないよ。ずっと友達すらいなかったし、恋愛なんて物語の中だけ!ってイメージかなぁ。…あ、もしかして真澄くん。いづみちゃんのことで悩んでるの?」


「…それもあるけど、それだけじゃない。ねぇ、物語の中の話でもいいから、2人を好きになるってやっぱり可笑しいこと?」


「…2人を?うーん、ごめんね。私じゃ真澄くんの求める答えは出せないかもしれないけど、私はそんなに可笑しいことじゃないと思うな。」


「…どうして?」


「ねぇ、真澄くんはいづみちゃんのどんなところが好きなの?」


「…一生懸命なところ。初めてあった時アイツの芝居を見て、上手いわけじゃないけど一生懸命で、芝居が本当に好きなんだって言う気持ちがひと目見ただけで伝わってきた。そこからずっと、アイツの全部が好き。」


「じゃあ、真澄くんのもう1人の好きな人は?」


「…言葉で言い表すのが難しい。でも、ずっと目が離せなくなるんだ。それに、一緒にいて落ち着く。安心できる存在。」


「ふふっ、真澄くんは本当に2人のことが好きなんだね。2人のことが本気で好きなら、私は1人を選ばなくてもいいと思うな。もちろん、結婚とかまで行くと話は別になっちゃうけど、本当に好きなら、1人を諦めることなんてできないと思うから。」


「ずっと監督以外ありえないって思ってたのに、そいつのことも気になって、でもまだ好きだって確信できない…。」


「…今焦って答えを出さなくてもいいんじゃないかな?時間制限なんてないから、真澄くんがこれからじっくり考えていけば大丈夫だと思う!そしたらいづみちゃんともう1人のこと、きっと真澄くんの納得のいく答えが出ると思うな。」




俺は焦りすぎていたのかもしれない。姫の言う通り、今考えるだけじゃ俺の納得いく答えは出ない気がする。これから姫のことを好きなのか、ゆっくり考えていけばいいんだ。…でもきっと、この悩みはほとんど解決した。


「…ありがとう。アンタのおかげですっきりした。」


「それなら良かった!…あ、ご飯、忘れてた…!みんな待ってるかな…真澄くん、今から食べれそう?」


「うん、一緒に行く。…でもその前に」


「…え?」









「…アンタがじっくり考えていけばいいって言った。ねぇ、俺が姫を好きかどうか。ちゃんと答えが出るまで一緒に悩んで。」



答えはもうきっと出てるのに。それでも俺は姫を巻き込んで一緒に悩んでなんて、俺だけじゃなくて姫にも意識して欲しくてそんなことを言った。…誰も知らない、俺だけの特別が欲しい。他の誰かじゃなくて、もっと俺だけに構って欲しい。好きだけじゃ足りないし、大好きじゃ伝わらない。この気持ちだけで答えなんてもう出てる。でも今は気づかないフリしてアンタを巻き込む俺を許して。姫が俺のことを少しでも意識してくれる、その時までは。