あの後、姫ちゃんとは連絡先を交換して後日また会うことになった。…これからの生活、劇場のことはまだ姫ちゃんには伝えていない。その前にみんなにこのことを話さなくちゃいけない。姫ちゃんには私が1人ではやりきれない家事や洗濯、こう言ってはなんだけど家政婦のような役割をしてもらいたいと思っている。
とは言っても姫ちゃんも高校生で学生だし、お休みの日や平日の学校が終わってからという形になるから仕事という事ではないんだけど。


(…学生組は仲良くやっていけそうだよね。)


寮には姫ちゃんと歳の近い子も少なくないし、基本的にフレンドリーなタイプが多いから大丈夫だろう。…万里くんや十座くんには姫ちゃんが怖がってしまいそうだけど。2人とも根はいい子なのでそこまで心配は要らなさそうだ。
学生組だと…真澄くん、かな。あの子も悪い子ではもちろんないのだけど。不器用な性格で、ストレートに本音をいうから他人を傷つけてしまうことも少なくはない。真澄くんの性格を理解していければ問題は無いだろう。


大人組も穏やかな人が多いし、こういう複雑な事情に理解はして貰えそうだ。


(…一番の問題は左京さん。)


恐らく左京さんは私がこのことを話したら受け入れてくれないだろう。親戚をこの寮に私のお手伝い係として生活させて欲しい。そんなことを言ったらただでさえギリギリでやっていけているこの劇場のことをきちんと理解しているのかと説教を食らってしまう未来が見えている。
…確かにみんなに相談する前に自分だけで勝手に話を進めてしまって、その上この話を受け入れてくださいなんて随分烏滸がましいことを言っているんだってことは分かっている。それでも、私は姫ちゃんとみんなとここで、この劇場とともに成長していきたいんだ。


まずは左京さんに話を聞いてもらおう。そう思い部屋から出て談話室へと向かう。そこには左京さんが新聞を読みながら座っている姿が見えた。こんなに早く見つけられるとは思っていなくて少し緊張してしまう。


…よし、話そう。


「あの、左京さん。少しお話が…」


「…学業に支障が出ないようにきちんとやることはやってもらう。それが条件だ。」


「…え?左京さん…?」


「どうせ姫のことだろう。俺も話は聞いた。姫のここでの生活を許可する。ただしさっきの条件は必ず守ることだ。」


「左京さん、どうして姫ちゃんのこと知ってるんですか?私はまだ何も言ってなかったですよね…」


「…はぁ。監督さんは本当に何も覚えていないんだな。昔監督さんのお守りをしていた時、姫も一緒にいたことがあっただろ。俺もあいつと居た期間は短かったから、姫は当然覚えていないだろうがな。」


「そ、そうだったんですか…!?左京さんと姫ちゃんが昔あったことがあるなんて、全然想像もしなかったです。…あの、左京さん。本当にいいんですか…?姫ちゃんとここで、生活していくこと…」


「なんだ。不満があるから撤回してもいいんだが。」


「とんでもないです!ぜひお願いします!」


「…姫なら、ここであいつらにいい影響を与えてくれると思う。あいつも、小さい頃は本当に芝居を熱心に見ていた。きっとここに来ることでいい刺激になる。」


「そうですよね。姫ちゃんも、今は昔よりも臆病になっていますけど、みんなとなら成長していけると思うんです。なので、改めて姫ちゃんのこと、よろしくお願いします…!」


「…あぁ。あいつらには監督さんから説明しておけよ。」


「はい!」



本当に左京さんが姫ちゃんのことを知っていたのには驚いた。でもこれで、本当にここで生活していけることに決まったんだ。
みんなにも説明しないと。今日は学生組も大人組も夜出かける人はいないみたいだし、夕食を食べながらでも話しておこう。
そう考えながら夕食の支度をしていると学制組が帰ってきた。


「ただいまー。」


「みんな、おかえりなさい!ちょうど良かった。今日は早めに夕ご飯にしようと思ってるんだ。着替えたらみんなを呼んできてもらってもいいかな?」


「はい!じゃあ僕、みんなを呼んできますね!」


そう言って椋くんはみんなを呼びに行ってくれた。






談話室にみんなが集まったのを確認して、私は本題を切り出す。


「あのね、今日早めに集まってもらったのはみんなに話したいことがあるからなの。…明日から、私のはとこの、雛咲 姫ちゃんっていう子とここで一緒に生活をしてもらいたいんです。」



「急になんでそんな話になるんだ?」


「なにか訳でもあるの?」


この説明だけじゃちゃんと理解してもらえない。私は姫ちゃんのことについて過去のことから現在のことをみんなに話した。…どう思ってるのかな、みんなは。役者でもない、ただの高校生の女の子が明日からここで私の仕事を手伝ってもらいながら生活していきますなんて急に言われても戸惑ってしまうかもしれない。私が顔を上げると、みんなは悲しそうな顔で聞いてくれていたのが分かった。


「…うぅ、そんな辛いことがあったんっスね…!俺、泣きそうになっちゃったっス…!」


「いやたいっちゃん泣きそうっていうかもう泣いちゃってるから!でもその子、本当に辛かったよね…1人じゃ絶対寂しいし、オレらと生活するのは大歓迎!」


「…俺はアンタ以外の女に興味ないからなんとも思わないけど、アンタがそうしたいって言うなら俺も賛成。」


「…真澄はブレないな。」


「俺も賛成です。高校生の女の子1人で生活していくことなんて大変だろうし、何より同じ演劇が好きなもの同士なんです。ここでの生活はきっと、楽しくなると思います。」



みんな、思うことは色々あると思うけど、この話を拒む人はひとりもいなかった。みんななら大丈夫って分かってはいたけど、心のどこかで少し不安に思っていたから改めて直接返事を聞けると本当に安心した。


「…みんな、本当にありがとうございます!姫ちゃんはきっとまだ、不安なことが沢山あると思います。それでもきっとここで、みんなと未来に向かって歩んでいけると思うんです。だから、これからよろしくお願いします…!」


…姫ちゃん。ここのみんなはやっぱりとても暖かい人ばかりだったよ。これからきっと、大変なこともたくさんあるし、挫けそうになってしまうことも絶対にあると思う。それでもここで、一緒に歩んでいこう。この物語は偶然なんかじゃなくて、大袈裟を言ってもいいなら、私は「運命」だと思うんだ。みんなとなら共に成長していける。同じ屋根の下で、夢の始まりを…