怨恨マリーゴールド
春休みも終わり、新学期に入って2週間ほどすぎた。咲也達は卒業したからオレは1人で学校に向かう。新しいクラスになってから気づいたけど、1ヶ月くらい前に来たアイツ…姫も、オレと同じ学校だったらしい。同じクラスになったことは初めてだと思うし全然気づかなかった。朝は監督が一緒に学校に行けって言うから最初は二人で登校してたけど、最近アイツは別の時間に登校するようになった。理由は知らないけど、
(…最近、なんかおかしい気がする。)
アイツは初めてあった時から大人しくて全然笑わないヤツだった。最近は慣れてきたのか笑ってる時もあったけど、ここ数日…ずっと落ち込んでるような感じに見える。何かに思い詰めているような、初めてあったあの時のアイツに戻ってしまったような感じ。…別にオレは、監督以外に興味無いしアイツのことは興味無いけど。監督もアイツが元気がないのを気にしてるみたいだし、何故かオレも…落ち込んでるアイツをみてると落ち着かないんだ。アイツだけじゃなくて、オレもおかしいのかもしれない。あの時、アイツの傷ついた顔を見てからずっと、あの目を見ると目が離せなくなるんだ。これも理由なんてわからないけど、とにかく監督まで元気がないのはどうにかしないと。そう考えながら談話室に入ると、監督…。と咲也、千景がいた。
「あ、真澄くん!おかえりなさい。ちょうど良かった。あのね、姫ちゃんのことで聞きたいことがあるんだけど…」
「ただいま…。帰ってきて1番にアンタのおかえりが聞けて幸せ。アイツのことなんてオレは監督より知らないだろうけど、アンタの質問にはなんでも答える。」
「あはは…ありがとう。あのね、最近なんだけど、なんだか姫ちゃん元気がないような感じがするの。寮にいる時はそうでも無い気がするんだけど、特に学校に行く前…その時に元気がないって言うか、上手く言えないんだけどもしかしたら学校でなにか不安なことでもあるのかなって。真澄くん、同じクラスになったんだよね?なにか姫ちゃんの様子について知らないかな?」
「監督さんもそう思ってたのか。俺も最近様子がおかしいって思ってたんだ。姫とはあんまり話したことない俺でも分かるくらにね。」
「千景さんもそう思いますか!?やっぱり元気がないように見えますよね…」
「…確かに同じクラスだけど、特に話すこともないし学校のこととかは知らない。アイツも誰かと話してるところなんて全然見た事ないけど。」
「オレも姫ちゃんとは学年が違ったし学校での姫ちゃんのことについては全然わからないなぁ…でも姫ちゃん、前にお友達がいないって言ってましたし、喧嘩とかで落ち込んでるわけじゃなさそうですよね。」
「そっか…ということは友達関係で悩んでるわけじゃないのかな?他になにか悩み事とか…」
「真澄、ほんとに何もなさそうなのか?…例えば、みんなには分からないように裏で何かされてる…とか。」
「…え!?いじめ…って、事ですか…?」
「咲也、今のはあくまでも例えばの話だ。まだ決まったわけじゃない。…真澄、心当たりはないか。」
「…そういえば、それが原因かなんて分からないけど、アイツのことたまに見てるヤツがいる気がする…。クラスの女子。名前は知らないけど結構気が強そうなヤツ。」
「…怪しいな。真澄、その女子のことを観察していたらもしかすると姫のことについて少しわかるかもしれない。」
「真澄くん!オレ、姫ちゃんが心配だし明日からその女の子のことを気にしてみてくれないかな…千景さんの言う通り、その子が原因じゃなくても何か知ってるかもしれないし!」
「…面倒くさい。何で俺がそんなことしなきゃいけないの。監督以外の女に興味ないし観察するなんて絶対イヤ。」
「真澄くん!私からもお願い…!姫ちゃん、最近少しずつだけど笑顔も増えてきたし、みんなと仲良くなれてきてると思うの。そんな時に落ち込んでる姫ちゃんは見たくないよ…」
「分かった。アンタのお願いならなんでもする。明日観察してくるから待ってて。」
「…監督さんの願い事ならなんでも叶うな。」
「あはは…、でも、これでとりあえずは姫ちゃんの元気がない理由に近づけそうですね…
!」
少し面倒だけど、監督のお願いなんだし、絶対アイツが悩んでる理由を突き止めてみせる。…そうすれば、今の俺がおかしい理由も、わかるかもしれないから。
✩.*˚
私がみんなと生活するようになってから1ヶ月くらいたった。学年がひとつ上がって高校3年生になり、クラスのメンバーが変わってから気づいたことだけど、碓氷さんも私と同じ学校だったらしい。そのことをいづみちゃんも知ると、2人で一緒に登校することをすすめられた。私は大丈夫なんだけど、碓氷さんは嫌がるだろうな…と思っていたら意外にも了承してくれてそれから最近まで一緒に登校するようになっていた。…最近まで、というのは私が今碓氷さんと一緒に登校することを避けているからだ。碓氷さんのことを避けているというよりも、みんなに気づかれたくいことがあるからだ。
…私は最近、誰かに嫌がらせをされている気がする。今まで学校生活では友達と呼べる人は一人もいなくて、みんなには少し避けられているようなことはあったけど、今されているような嫌がらせをされることまではなかった。
嫌がらせ、という程のことではないのかもしれないけど、最近私の机の中に手紙が入っていることが多い。その内容は最初は私のことを苦手だとかいてあるものだったけど、最近はエスカレートしていて、何故か学校の人には誰にも話していない私の過去のことを知っているような内容のものが多くなっていた。碓氷さんは私の過去のことを知っているけど、碓氷さんがこの手紙の送り主じゃないことはすぐに分かった。碓氷さんはいづみちゃんのこと以外全く興味が無いし、わざわざ私の机に遠回しに過去の事を書いて送る理由もないからだ。そんなことをする人ではないことも1ヶ月ほどしか出会ってから経っていない私でもわかる事だ。
でもそうなると、碓氷さんが送り主ではないと分かってしまうと余計に怖い…。誰にも話していないはずのことをなんで学校の人が知っているんだろう。そんなことを考えても私には全く答えが出なくて、今までずっと送り続けられている手紙を受け取ることしか私はできなかった。
今は手紙だけで他には何もされていないけど、もしかしたらこれからどんどんエスカレートしていって手紙だけでは終わらなくなるかもしれない。そう思って今私は碓氷さんと登校する時間をわざとずらして1人で登下校しているんだ。朝は家事のお手伝いと言って誤魔化して何とかなっているけど、下校の時間をずらすのは部活にも所属していない私にとって、碓氷さんに先に帰ってもらうように説明するのは少し大変なことだった。
今日もなんとか碓氷さんに先に帰ってもらうようにお願いして、少し教室で時間を潰していた。碓氷さんが教室を出てしばらく経ったし、もうそろそろ私も帰ろう。そう思って席を立つと、同じクラスの女の子…九条 怜華さん、だったかな。九条さんが私に話しかけてきた。
「ちょっといいかしら。話があるんだけど。」
「…話、ですか?はい。大丈夫です。」
「ここじゃ話せないから、ついてきて。」
そう言って九条さんは教室を出て歩き出してしまった。九条さんとは1度も話をしたことがなかったと思うけど、私に用事ってなんだろう。私は急いで荷物を持って九条さんの後に続く。
九条さんはそのまま屋上のほうに向かって歩いていって、そのまま屋上の扉を開けた。ホームルームの時間からだいぶ経っていることもあって、部活をしている生徒以外には学校にはあまり残っていない。そのため屋上には誰もいなくて九条さんと私のふたりだけが屋上にたっていることになった。
「単刀直入にいうけど、私あんたのこと大っ嫌いなの。」
九条さんは綺麗な顔を最大限歪めて、私にそう言った。陰で悪口を言われることは少なくなかったし、慣れているとは思っていたけどいざ直接そんなことを言われると私は驚いて、一瞬時が止まってしまったような感じがした。
…今までの手紙の送り主は、もしかして九条さんだったのかな。
「…えっと、ご、ごめんなさい。わたし、九条さんに何か気に触るようなことしてしまいましたか…?」
「…そうやって人の気持ちも知らないで勝手に傷ついた顔するところも大っ嫌い。あんたは私の大切なものを全て奪っていったのに、なんで自分だけ被害者ぶってんの!?…やっとあんたも私と同じ思いをして、立ち直れなくなるくらい傷ついたと思ったのに…っ、どうして今あんたは幸せになろうとしてるわけ!?本当に許せない…っ」
「…っ、ほんとうに、ごめんなさい、私そこまで言われても九条さんが怒っている理由に心当たりがないんです…、あの、詳しく教えてくれませんか?そうすれば、私も心の底から謝ることが出来ると思うので…。」
「…自分でわからないやつに理由なんて教えるわけない。ねぇ、どうしたらあんたは私と同じ思いをしてずっと傷ついたままでいてくれるの?…そうだ。あんたが小さい頃から大事にしてるあれ、学校にも持ってきてるんでしょ?それが無くなったらあんたも私と同じ気持ちになるのかな…」
「…なんで、そのことも知って…」
「…うるさい、早く貸して。今すぐ傷つけてやるから…!」
「やめてください!このこだけは、絶対に酷いことなんてさせません…!っ」
九条さんが私の鞄の中にいるモカちゃんを引っ張りだそうとした時、私は咄嗟に九条さんの前に飛び出した。
「…っどいてよ!」
「いたっ…!」
その途端、頬に感じた痛みに耐えられなくて、そのまま私は倒れ込んでしまった。それでも今鞄を手放したら絶対にだめだと思って、私はそのまま自分の鞄を抱え続けた。
「っ!…今のは、あんたが自分から飛び込んできたんだからね。次はないから。もう二度と私の前に現れないで。」
そう言って九条さんは屋上から出ていってしまった。…ほっぺたがいたい。さっきは痛みしか感じなかったけど、少し時間がたった今、手で叩かれてしまった場所に触れてみるとすごく熱くなっていて、腫れているような感じもした。
どうしよう、そろそろ夕食の準備もしなくちゃいけないし帰らなきゃいけないけど、今の状態のまま帰ってしまったらこの腫れている頬をみんなに見られてしまう。
…伏見さんには申し訳ないけど、体調が悪いことにして今日の夕食の支度は変わってもらおうかな…。体調が悪い、というのは嘘ではないけどみんなに嘘をついてしまうのは少し心が痛い。けどこのことをバレてみんなに心配をかけてしまう方が申し訳ない…。俯いて自分の部屋に戻ればなんとかバレないかな…。1ヶ月くらいたってはじめの頃よりはみんなとも少し仲良くなれて、私自身も成長出来ているような気がしているけど、これ以上みんなに迷惑をかけたくないんだ。ただでさえあの場所で生活させてもらっているだけでありがたいことなのに面倒事を持ち込むようなことなんて絶対にしたくない。みんなは優しいから、私のことを心配してくれることは何となくわかるんだ。だから絶対に、このことはみんなにバレないように自分一人で解決しよう。
今日はとりあえず伏見さんには連絡しておいたから、寮に帰ったら体調が悪いことを改めて伝えて、そのまま自分の部屋で眠ってしまおう。そうすればきっと、誰にも気づかれずに済むと思うから。
そう考えながら歩いていると目の前に寮が見えてきた。…できるだけ談話室にいる人が少ないといいな。
そのまま扉を開けて一言声だけかけていこうと思い談話室にはいると、そこには寮のみんな、全員がそこにいた。…なんで今日に限ってみんな揃ってるんだろう…!私以外揃っていたこともあり扉を開けた時みんなが私の方を見てしまっていた。これ以上ここにいるとバレてしまう、早く部屋に戻ろう…
「た、ただ今帰りました…。すみません、伏見さんには伝えてあるんですけど、今日は少し体調が悪いのでこのまま自室で休ませていただきます。明日からはきちんとお手伝いさせてもらうので、よろしくお願いします…」
「…姫ちゃん他に俺たちに言うべきことはねーの?」
「ご、ごめんなさい。もっとちゃんと謝るべきでしたよね…」
「そうじゃないって、ちょいこっちきて」
摂津さんにそう言われて手招きされてしまった。今そっちに行ってしまったらほっぺたのことをバレてしまうと思って一瞬戸惑ってしまったけど、ここで拒否するのも逆に怪しまれてしまうため大人しく摂津さんの近くまで私は向かった。
摂津さんの前まで行くとそのまま腕を引かれて、突然のことに驚いて私はバランスを崩して摂津さんの方に倒れ込んでしまった。そのまま流れるように摂津さんの手が私の腫れている方の頬とは反対の頬を手で優しく掴んで私の顔を上げた。
「…腫れてる。何があった?」
「…な、なんでもないんです。ちょっとぼーっとしながら歩いてたらぶつかっちゃって…」
「そんな嘘つかないで。…姫ちゃん最近帰りが遅いよね。理由を聞いても誤魔化しちゃうし、何があったかちゃんと教えて。」
私が苦し紛れに下手な嘘をつくと、今度はいづみちゃんに疑われてしまった。もう誤魔化しはきかなくなってしまったけど、せめてあのことはバレないようにしよう…。
「…ごめんなさい。本当はぶつかってできた怪我じゃないです。でも、このことはどうしてもみんなには言えないんです。本当にごめんなさい…」
「…なんでアンタはそこまで俺たちのことを頼らないの?みんなアンタのことを心配して理由を聞きたがってるんだけど。誰も好奇心で理由を聞きたがってるわけじゃない。1ヶ月一緒に生活してきてまだそんなことも分からないの?」
「真澄のいう通りだな。俺達は姫が苦しんでる姿をこれ以上見たくないからこうしてみんなでここに集まって話を聞こうとしてるんだ。…それに姫。真澄は全部は知らないだろうけど、俺達は知らない姫が悩んでることについてなんとなくだけどわかってると思うよ。あの監督さんにしか興味のない真澄が姫のために頑張って調べてくれたんだ。せめて俺達には話せなくても真澄にだけは相談してやってくれ。」
「姫ちゃん!オレからもお願い!正直、オレ達にも相談して欲しい気持ちはあるけど、真澄くんが1番心配してくれてたんだ。それに、姫ちゃんも誰かひとりでもいいから悩み事をうちあけたらきっと今よりも楽になると思うよ!」
「…別に俺はそんなに言われるほど心配はしてないけど。でもこれで充分わかったでしょ?咲也と千景だけじゃなくて他のやつらもみんなアンタの力になりたいって思ってる。ここまで心配されてそれでもひとりで解決するって言うならもう何も言わないから。」
本当に私は何をしてるんだろう。私がひとりで大丈夫だって、ひとりで何とかしようって考えた結果逆にみんなに心配も迷惑もかけてしまうことになったんだ…。碓氷さんのいうとおり、佐久間さんや卯木さんだけじゃなくて、ほかのみんなも私のことを心配してくれてることは何も言われなくてももうわかり切っている事だった。…なんでここにいる人達はみんな私に優しくしてくれるんだろう。お人好し、という言葉では収まりきらないくらいみんな暖かくて優しい人ばかりだ。そんな人たちに心配してもらえる私はなんて幸せものなんだろう。今までずっと自分は不幸なことしか起きない悲しい人生を送っていくんだと思っていたけど、ここのみんなに会えて本当にその気持ちが変わった。…みんなと一緒にいたい。迷惑も心配も沢山かけちゃうかもしれないけど、わたし一人じゃ抱えきれないたくさんの悩みをみんなに聞いて欲しい。みんなならきっと、私の全てを受け入れてくれるから…、
「…怖かったんです、私が誰にも話していないはずの過去の事を学校の人が知っていて…、そのことを毎日手紙で送り続けられて…っ、今日その人に呼び出されて…モカちゃんに酷いこと、しようとしたから変わりにわたしがとびだして…っ!」
「…うん、辛かったよね。姫ちゃん、もう大丈夫だよ。俺たちが姫ちゃんのことを守るから。…ね、丞。」
「…俺もか。まぁ、そうだな。雛咲、それ以上話さなくていい。もうみんな分かったから少し落ち着け。」
泣きながら喋りすぎてしまって何を言っているかわからない私を月岡さんと高遠さんは優しく落ち着かせてくれた。口にしたら一気に今までの緊張がとけてとまらなくなってしまった。誰かに自分の悩みを聞いてもらうことって、こんなにも安心することなんだ…。
「姫。こっちにおいで?…うん、いい子。ちょっとごめんね…うーん、すごく腫れてるね。このままだと跡が残っちゃうといけないから、ちゃんと手当しておこうか。」
「あず姉、傷ってどれくらい酷いの?…うわ、すっごい赤くなってる…。女子の顔殴るとか最っ低な女だね、有り得ないんだけど。」
「わわわっ!姫さんほっぺたとっても痛そうです…僕が変わってあげられるといいんですけど…な、なんてこんな無理なこといってすみません…!僕なんかがこんなこと言うの迷惑ですよね…!」
「むくおちついて〜!むくが慌ててるとひめが余計に困っちゃうよ〜」
「…はっ!そうですよね…!すみません、今1番辛いのは姫さんなのに…」
「む、椋くんそんなに謝らないで…!心配してもらえて本当に嬉しいよ、ありがとう。」
「で、でも姫チャン。明日からどうするっスか…?今日そんなことがあったんだったら、また姫チャンになにかしてくるかもしれないっス…!」
「…うん、でも私ね、その子が本当に悪い人だとは思わないんだ…。だから明日、もう一度会って話をしてもらおうと思ってるの。」
「なっ…お前な、どれだけお人好しなんだ。それに殴ってくるようなやつが大人しく話だけしてくれるわけないだろ。それこそ真澄も一緒につれてくだとかしないとまた同じことの繰り返しだ。」
「…そう、だね。でも私ひとりで行かなきゃだめだと思うんだ。これは碓氷さんに迷惑をかけたくないとかじゃなくて、ちゃんとその子と向き合って話す必要があると思うの。きっと、私の過去のことに関係がある話だと思うから…。」
「…俺もアンタに賛成。面倒とかじゃなくて話し合いなら俺がいない方がいいと思う。それに、アイツには見えないところで待ってるから。それならアンタが危ない目にあいそうだったら助けに行く。」
「そ、そこまでしてもらわなくても大丈夫です…!碓氷さんも危ない目にあってしまうかもしれないですし、」
「女の力に勝てないほど弱くないから。避けることくらいちゃんと出来る。それにそうでもしないとみんな納得してくれないと思うけど。」
「…そうだな。姫1人で向かうのは許可できないが碓氷が近くにいるなら許可する。それが話し合いの条件だ。」
「…分かりました。碓氷さん、明日よろしくお願いします…。でも、危なくなったらちゃんと逃げてくださいね…!」
「…分かった。」
「みなさん、明日、話し合いが上手くいかなかったら相談にまた乗ってくれますか…?」
「もちろん!大事な姫ちゃんのためだもん。みんなで上手くいくことを願ってるからね!」
「いづみちゃん、ありがとう…!私頑張るね。」
九条さんには今日二度と会わないって言われちゃったけど、このまま無かったことになんてもう出来ない。上手くいかなかったらどうしよう、また九条さんに嫌な思いをさせちゃったらどうしよう。沢山不安なことはあるけど、きっと、九条さんは本当は悪い人じゃないと思うんだ。そうじゃないと、私を叩いた時にあんなに傷ついた顔をする必要なんてないから。話せばわかってくれると思う。少し怖いけど、明日は頑張ってこのことを解決しよう。そう考えながら今日一日を終えた。
⋆*❁*
「…く、九条さん。お話したいことがあるんですけど、今大丈夫ですか…?」
昨日決心して、私は今九条さんに思い切って話しかけてみた。…お話、聞いてくれるかな。ここで拒否されちゃったらどうしよう、そもそも話すら聞いてもくれないかもしれないんだよね…!
「…昨日二度と関わらないでって言ったつもりだっだんだけど伝わってなかった?」
「ごめんなさい、私の顔なんか見たくないことは分かってるんですけど、どうしてもお話したいことがあるんです。少しでいいのでお話を聞いてくれませんか…?」
「…しつこい。教室でたくさん話しかけないでよ。…はぁ。早く屋上来て。」
「あ、ありがとうございます…!」
九条さんにすごく嫌そうな顔をされてしまったけど、またお話してくれることになった。
屋上に移動して私はずっと気になっていたことを九条さんに尋ねた。
「九条さん、私ずっと九条さんに言われたことを考えてたんですけど、どうしても分からないんです。ヒントだけでもいいので、理由を教えて貰えませんか…?」
「…あんたは知らなくて当然のこと。」
「…え?私は知らないこと、なんですか?」
「そう。でも私は知らなくても私のことをずっと傷つけてきたあんたを許せない。…教えてあげる。あんた、小さい頃に両親を事故で亡くしてるよね。」
「…どうして、九条さんがそのことを、」
「あんたの両親を轢いた運転手、今どうしてるか知ってる?運転してた男には妻と娘1人の家族がいて、事故を起こすまでずっと幸せな家庭で暮らしてきてたの。そんな幸せな生活がこれからも続いていくと思ってたのに、普段通り運転していたら小さい女の子が現れて、驚いてすぐにとまろうとしたけど車がそんなに直ぐに止まれるわけがなくてそのまま人を轢いてしまった。それから幸せだった生活は一変して、妻には離婚するって言われて、娘も連れてかれてひとりぼっちになったの。……その運転手の子供が私。」
「…え」
「驚いた?そうだよね。あなたはずっと両親が亡くなってしまった悲しみで精一杯で、事故を起こしてしまった運転手のことなんてこれっぽっちも知らないんだから。それでも、あなたが知らないところで自分以外にも苦しんでいる人がいたの。」
「…ごめん、なさい…、私、そんなこと本当に今までずっと知らなくて…。」
「そんなの分かってる。…それにあなたが悪くないって言うことも。」
「…九条、さん」
「…あなたは悪くないってことなんてちゃんと分かってるの。事故を起こしてしまったのは私の父だし、あなたにはなんの罪もない。それでもこんなことしないと私は壊れてしまいそうで、あなたに酷いことをしてしまった…本当にっ、ごめんなさい…」
「謝らないで、ください。…私からもごめんなさい」
「…なんで、あなたが謝るの。私が酷いことをしたのに。」
「だって、あの時私が車に気づいて走り出すのをやめていたら、あなたのお父さんだって人を殺してしまうことは無かったの。だからごめんなさい…」
「…そんなことない。
でも本当に悪かったわ。さっきは許せないなんて言ったけど、それは私が自分勝手に行動してただけだから。これからはもう二度とあなたの前に現れないから、安心して…」
「…まって!あ、あのね、私歳の近い女の子のお友達って、いないの。だから、私とお友達になってくれませんか…?」
「…は?あなた何言ってるの?私はあなたのことをいじめていたのよ?そんなやつと友達になりたいなんて、」
「そんなやつなんて言わないでください!確かに酷いことはされたかもしれないけど、あなたはちゃんと謝ってくれました。それに、心の中ではちゃんと悪いことだって分かっていてくれたんですよね…?それなら、それで充分です。私の全部を知っているあなたなら、きっと心から仲良くなれると思うんです…だめ、ですか…?」
「…あなたって本当にお人好しなのね。でも、それが長所なのかもしれない。私の方こそ、友達になってくれると嬉しい。」
「…!ありがとうございます…!」
「…本っ当にお人好し。話し合いどころか友達にまでなるなんて誰も予想つかない。」
「う、碓氷さん!」
「…あんた、いつから私たちの話を聞いて…」
「最初から全部。…九条、コイツと友達になるのはいいけど、仲良くしないとうちの過保護集団に責められるから。」
「…それはごめんね。でも安心して。もう二度と、姫には酷いことなんてしない。あんなことした私が何言ってるんだって感じだけど、これからは私が姫のことを守るから。」
「…それならいいけど。姫、帰ろう。」
「は、はい!…怜華ちゃん、また明日ね…!」
「…うん、また明日ね、姫。」
怜華ちゃんが私の過去のことに関係があるなんて全く思ってもいなかった。…でも今日、本当にお話が出来て良かったと思う。お互いに今までは傷つけあってしまったけれど、これからは守りあえるようなお友達にきっとなれるから。
「碓氷さん、今日は本当にありがとうございました…!私これでまた1歩前に進めた気がします。」
「…別にたいしたことしてない。…ねぇ、前から気になってたんだけどその碓氷さんっていう呼び方やめてくれない?同い年なんだから敬語もいらない。」
「え、いいんですか…?じゃ、じゃあ碓氷くんって呼んでもいいかな…?」
「なんでそうなるの。普通に真澄でいいんだけど。」
「…えっ!?下の名前でもいいの…?でも呼び捨てはちょっとなれないから、真澄くんって呼ぶね…!」
「…それでいい。」
「…えへへ、真澄くん、本当にありがとう。真澄くんのおかげだよ。」
「…っ、だから俺は何もしてないから。」
怜華ちゃんだけじゃなくて真澄くんとも少し仲良くなれちゃった…!早くみんなに今日のことを報告したいな。沢山心配かけちゃった分、安心してくれるかな…
「…ただいま。また全員揃ってる…どんだけ暇なの」
「ただいま帰りました!みなさん、あの昨日言ってたことについてなんですけど、私そのこと、怜華ちゃんとお友達になれちゃいました…!」
「え!?ひなりん友達にまでなれちゃったの!?いいねいいね〜!タメの女の子の初トモだね!」
「…姫すごい。頑張ったから、特別にマシュマロ…分けてあげる」
「密さん。今からご飯なんでマシュマロは食後に姫にあげてください。姫、良かったな。これからはそのこと仲良くするんだぞ。」
「攻略何度高めの女子をフレンドにできたら無敵だね、姫ちゃんおめ。」
「みなさん、本当にありがとうございました!みなさんが相談に乗ってくれたので今回私は前進出来ました、これからも迷惑をかけちゃうかもしれないですけど、みなさんのサポート頑張りますので、改めてよろしくお願いします…!」
「「「こちらこそ、よろしく。」」」
みんながそう言ってくれて、私はすごく久しぶりに、心の底から笑顔になれた気がした。こんなに笑えるようになったのもここのみんなのおかげだ。これからも、こうやってたくさん笑顔になれるような日々が続くといいな。みんなとならきっと、大丈夫…。
(…最近、なんかおかしい気がする。)
アイツは初めてあった時から大人しくて全然笑わないヤツだった。最近は慣れてきたのか笑ってる時もあったけど、ここ数日…ずっと落ち込んでるような感じに見える。何かに思い詰めているような、初めてあったあの時のアイツに戻ってしまったような感じ。…別にオレは、監督以外に興味無いしアイツのことは興味無いけど。監督もアイツが元気がないのを気にしてるみたいだし、何故かオレも…落ち込んでるアイツをみてると落ち着かないんだ。アイツだけじゃなくて、オレもおかしいのかもしれない。あの時、アイツの傷ついた顔を見てからずっと、あの目を見ると目が離せなくなるんだ。これも理由なんてわからないけど、とにかく監督まで元気がないのはどうにかしないと。そう考えながら談話室に入ると、監督…。と咲也、千景がいた。
「あ、真澄くん!おかえりなさい。ちょうど良かった。あのね、姫ちゃんのことで聞きたいことがあるんだけど…」
「ただいま…。帰ってきて1番にアンタのおかえりが聞けて幸せ。アイツのことなんてオレは監督より知らないだろうけど、アンタの質問にはなんでも答える。」
「あはは…ありがとう。あのね、最近なんだけど、なんだか姫ちゃん元気がないような感じがするの。寮にいる時はそうでも無い気がするんだけど、特に学校に行く前…その時に元気がないって言うか、上手く言えないんだけどもしかしたら学校でなにか不安なことでもあるのかなって。真澄くん、同じクラスになったんだよね?なにか姫ちゃんの様子について知らないかな?」
「監督さんもそう思ってたのか。俺も最近様子がおかしいって思ってたんだ。姫とはあんまり話したことない俺でも分かるくらにね。」
「千景さんもそう思いますか!?やっぱり元気がないように見えますよね…」
「…確かに同じクラスだけど、特に話すこともないし学校のこととかは知らない。アイツも誰かと話してるところなんて全然見た事ないけど。」
「オレも姫ちゃんとは学年が違ったし学校での姫ちゃんのことについては全然わからないなぁ…でも姫ちゃん、前にお友達がいないって言ってましたし、喧嘩とかで落ち込んでるわけじゃなさそうですよね。」
「そっか…ということは友達関係で悩んでるわけじゃないのかな?他になにか悩み事とか…」
「真澄、ほんとに何もなさそうなのか?…例えば、みんなには分からないように裏で何かされてる…とか。」
「…え!?いじめ…って、事ですか…?」
「咲也、今のはあくまでも例えばの話だ。まだ決まったわけじゃない。…真澄、心当たりはないか。」
「…そういえば、それが原因かなんて分からないけど、アイツのことたまに見てるヤツがいる気がする…。クラスの女子。名前は知らないけど結構気が強そうなヤツ。」
「…怪しいな。真澄、その女子のことを観察していたらもしかすると姫のことについて少しわかるかもしれない。」
「真澄くん!オレ、姫ちゃんが心配だし明日からその女の子のことを気にしてみてくれないかな…千景さんの言う通り、その子が原因じゃなくても何か知ってるかもしれないし!」
「…面倒くさい。何で俺がそんなことしなきゃいけないの。監督以外の女に興味ないし観察するなんて絶対イヤ。」
「真澄くん!私からもお願い…!姫ちゃん、最近少しずつだけど笑顔も増えてきたし、みんなと仲良くなれてきてると思うの。そんな時に落ち込んでる姫ちゃんは見たくないよ…」
「分かった。アンタのお願いならなんでもする。明日観察してくるから待ってて。」
「…監督さんの願い事ならなんでも叶うな。」
「あはは…、でも、これでとりあえずは姫ちゃんの元気がない理由に近づけそうですね…
!」
少し面倒だけど、監督のお願いなんだし、絶対アイツが悩んでる理由を突き止めてみせる。…そうすれば、今の俺がおかしい理由も、わかるかもしれないから。
✩.*˚
私がみんなと生活するようになってから1ヶ月くらいたった。学年がひとつ上がって高校3年生になり、クラスのメンバーが変わってから気づいたことだけど、碓氷さんも私と同じ学校だったらしい。そのことをいづみちゃんも知ると、2人で一緒に登校することをすすめられた。私は大丈夫なんだけど、碓氷さんは嫌がるだろうな…と思っていたら意外にも了承してくれてそれから最近まで一緒に登校するようになっていた。…最近まで、というのは私が今碓氷さんと一緒に登校することを避けているからだ。碓氷さんのことを避けているというよりも、みんなに気づかれたくいことがあるからだ。
…私は最近、誰かに嫌がらせをされている気がする。今まで学校生活では友達と呼べる人は一人もいなくて、みんなには少し避けられているようなことはあったけど、今されているような嫌がらせをされることまではなかった。
嫌がらせ、という程のことではないのかもしれないけど、最近私の机の中に手紙が入っていることが多い。その内容は最初は私のことを苦手だとかいてあるものだったけど、最近はエスカレートしていて、何故か学校の人には誰にも話していない私の過去のことを知っているような内容のものが多くなっていた。碓氷さんは私の過去のことを知っているけど、碓氷さんがこの手紙の送り主じゃないことはすぐに分かった。碓氷さんはいづみちゃんのこと以外全く興味が無いし、わざわざ私の机に遠回しに過去の事を書いて送る理由もないからだ。そんなことをする人ではないことも1ヶ月ほどしか出会ってから経っていない私でもわかる事だ。
でもそうなると、碓氷さんが送り主ではないと分かってしまうと余計に怖い…。誰にも話していないはずのことをなんで学校の人が知っているんだろう。そんなことを考えても私には全く答えが出なくて、今までずっと送り続けられている手紙を受け取ることしか私はできなかった。
今は手紙だけで他には何もされていないけど、もしかしたらこれからどんどんエスカレートしていって手紙だけでは終わらなくなるかもしれない。そう思って今私は碓氷さんと登校する時間をわざとずらして1人で登下校しているんだ。朝は家事のお手伝いと言って誤魔化して何とかなっているけど、下校の時間をずらすのは部活にも所属していない私にとって、碓氷さんに先に帰ってもらうように説明するのは少し大変なことだった。
今日もなんとか碓氷さんに先に帰ってもらうようにお願いして、少し教室で時間を潰していた。碓氷さんが教室を出てしばらく経ったし、もうそろそろ私も帰ろう。そう思って席を立つと、同じクラスの女の子…九条 怜華さん、だったかな。九条さんが私に話しかけてきた。
「ちょっといいかしら。話があるんだけど。」
「…話、ですか?はい。大丈夫です。」
「ここじゃ話せないから、ついてきて。」
そう言って九条さんは教室を出て歩き出してしまった。九条さんとは1度も話をしたことがなかったと思うけど、私に用事ってなんだろう。私は急いで荷物を持って九条さんの後に続く。
九条さんはそのまま屋上のほうに向かって歩いていって、そのまま屋上の扉を開けた。ホームルームの時間からだいぶ経っていることもあって、部活をしている生徒以外には学校にはあまり残っていない。そのため屋上には誰もいなくて九条さんと私のふたりだけが屋上にたっていることになった。
「単刀直入にいうけど、私あんたのこと大っ嫌いなの。」
九条さんは綺麗な顔を最大限歪めて、私にそう言った。陰で悪口を言われることは少なくなかったし、慣れているとは思っていたけどいざ直接そんなことを言われると私は驚いて、一瞬時が止まってしまったような感じがした。
…今までの手紙の送り主は、もしかして九条さんだったのかな。
「…えっと、ご、ごめんなさい。わたし、九条さんに何か気に触るようなことしてしまいましたか…?」
「…そうやって人の気持ちも知らないで勝手に傷ついた顔するところも大っ嫌い。あんたは私の大切なものを全て奪っていったのに、なんで自分だけ被害者ぶってんの!?…やっとあんたも私と同じ思いをして、立ち直れなくなるくらい傷ついたと思ったのに…っ、どうして今あんたは幸せになろうとしてるわけ!?本当に許せない…っ」
「…っ、ほんとうに、ごめんなさい、私そこまで言われても九条さんが怒っている理由に心当たりがないんです…、あの、詳しく教えてくれませんか?そうすれば、私も心の底から謝ることが出来ると思うので…。」
「…自分でわからないやつに理由なんて教えるわけない。ねぇ、どうしたらあんたは私と同じ思いをしてずっと傷ついたままでいてくれるの?…そうだ。あんたが小さい頃から大事にしてるあれ、学校にも持ってきてるんでしょ?それが無くなったらあんたも私と同じ気持ちになるのかな…」
「…なんで、そのことも知って…」
「…うるさい、早く貸して。今すぐ傷つけてやるから…!」
「やめてください!このこだけは、絶対に酷いことなんてさせません…!っ」
九条さんが私の鞄の中にいるモカちゃんを引っ張りだそうとした時、私は咄嗟に九条さんの前に飛び出した。
「…っどいてよ!」
「いたっ…!」
その途端、頬に感じた痛みに耐えられなくて、そのまま私は倒れ込んでしまった。それでも今鞄を手放したら絶対にだめだと思って、私はそのまま自分の鞄を抱え続けた。
「っ!…今のは、あんたが自分から飛び込んできたんだからね。次はないから。もう二度と私の前に現れないで。」
そう言って九条さんは屋上から出ていってしまった。…ほっぺたがいたい。さっきは痛みしか感じなかったけど、少し時間がたった今、手で叩かれてしまった場所に触れてみるとすごく熱くなっていて、腫れているような感じもした。
どうしよう、そろそろ夕食の準備もしなくちゃいけないし帰らなきゃいけないけど、今の状態のまま帰ってしまったらこの腫れている頬をみんなに見られてしまう。
…伏見さんには申し訳ないけど、体調が悪いことにして今日の夕食の支度は変わってもらおうかな…。体調が悪い、というのは嘘ではないけどみんなに嘘をついてしまうのは少し心が痛い。けどこのことをバレてみんなに心配をかけてしまう方が申し訳ない…。俯いて自分の部屋に戻ればなんとかバレないかな…。1ヶ月くらいたってはじめの頃よりはみんなとも少し仲良くなれて、私自身も成長出来ているような気がしているけど、これ以上みんなに迷惑をかけたくないんだ。ただでさえあの場所で生活させてもらっているだけでありがたいことなのに面倒事を持ち込むようなことなんて絶対にしたくない。みんなは優しいから、私のことを心配してくれることは何となくわかるんだ。だから絶対に、このことはみんなにバレないように自分一人で解決しよう。
今日はとりあえず伏見さんには連絡しておいたから、寮に帰ったら体調が悪いことを改めて伝えて、そのまま自分の部屋で眠ってしまおう。そうすればきっと、誰にも気づかれずに済むと思うから。
そう考えながら歩いていると目の前に寮が見えてきた。…できるだけ談話室にいる人が少ないといいな。
そのまま扉を開けて一言声だけかけていこうと思い談話室にはいると、そこには寮のみんな、全員がそこにいた。…なんで今日に限ってみんな揃ってるんだろう…!私以外揃っていたこともあり扉を開けた時みんなが私の方を見てしまっていた。これ以上ここにいるとバレてしまう、早く部屋に戻ろう…
「た、ただ今帰りました…。すみません、伏見さんには伝えてあるんですけど、今日は少し体調が悪いのでこのまま自室で休ませていただきます。明日からはきちんとお手伝いさせてもらうので、よろしくお願いします…」
「…姫ちゃん他に俺たちに言うべきことはねーの?」
「ご、ごめんなさい。もっとちゃんと謝るべきでしたよね…」
「そうじゃないって、ちょいこっちきて」
摂津さんにそう言われて手招きされてしまった。今そっちに行ってしまったらほっぺたのことをバレてしまうと思って一瞬戸惑ってしまったけど、ここで拒否するのも逆に怪しまれてしまうため大人しく摂津さんの近くまで私は向かった。
摂津さんの前まで行くとそのまま腕を引かれて、突然のことに驚いて私はバランスを崩して摂津さんの方に倒れ込んでしまった。そのまま流れるように摂津さんの手が私の腫れている方の頬とは反対の頬を手で優しく掴んで私の顔を上げた。
「…腫れてる。何があった?」
「…な、なんでもないんです。ちょっとぼーっとしながら歩いてたらぶつかっちゃって…」
「そんな嘘つかないで。…姫ちゃん最近帰りが遅いよね。理由を聞いても誤魔化しちゃうし、何があったかちゃんと教えて。」
私が苦し紛れに下手な嘘をつくと、今度はいづみちゃんに疑われてしまった。もう誤魔化しはきかなくなってしまったけど、せめてあのことはバレないようにしよう…。
「…ごめんなさい。本当はぶつかってできた怪我じゃないです。でも、このことはどうしてもみんなには言えないんです。本当にごめんなさい…」
「…なんでアンタはそこまで俺たちのことを頼らないの?みんなアンタのことを心配して理由を聞きたがってるんだけど。誰も好奇心で理由を聞きたがってるわけじゃない。1ヶ月一緒に生活してきてまだそんなことも分からないの?」
「真澄のいう通りだな。俺達は姫が苦しんでる姿をこれ以上見たくないからこうしてみんなでここに集まって話を聞こうとしてるんだ。…それに姫。真澄は全部は知らないだろうけど、俺達は知らない姫が悩んでることについてなんとなくだけどわかってると思うよ。あの監督さんにしか興味のない真澄が姫のために頑張って調べてくれたんだ。せめて俺達には話せなくても真澄にだけは相談してやってくれ。」
「姫ちゃん!オレからもお願い!正直、オレ達にも相談して欲しい気持ちはあるけど、真澄くんが1番心配してくれてたんだ。それに、姫ちゃんも誰かひとりでもいいから悩み事をうちあけたらきっと今よりも楽になると思うよ!」
「…別に俺はそんなに言われるほど心配はしてないけど。でもこれで充分わかったでしょ?咲也と千景だけじゃなくて他のやつらもみんなアンタの力になりたいって思ってる。ここまで心配されてそれでもひとりで解決するって言うならもう何も言わないから。」
本当に私は何をしてるんだろう。私がひとりで大丈夫だって、ひとりで何とかしようって考えた結果逆にみんなに心配も迷惑もかけてしまうことになったんだ…。碓氷さんのいうとおり、佐久間さんや卯木さんだけじゃなくて、ほかのみんなも私のことを心配してくれてることは何も言われなくてももうわかり切っている事だった。…なんでここにいる人達はみんな私に優しくしてくれるんだろう。お人好し、という言葉では収まりきらないくらいみんな暖かくて優しい人ばかりだ。そんな人たちに心配してもらえる私はなんて幸せものなんだろう。今までずっと自分は不幸なことしか起きない悲しい人生を送っていくんだと思っていたけど、ここのみんなに会えて本当にその気持ちが変わった。…みんなと一緒にいたい。迷惑も心配も沢山かけちゃうかもしれないけど、わたし一人じゃ抱えきれないたくさんの悩みをみんなに聞いて欲しい。みんなならきっと、私の全てを受け入れてくれるから…、
「…怖かったんです、私が誰にも話していないはずの過去の事を学校の人が知っていて…、そのことを毎日手紙で送り続けられて…っ、今日その人に呼び出されて…モカちゃんに酷いこと、しようとしたから変わりにわたしがとびだして…っ!」
「…うん、辛かったよね。姫ちゃん、もう大丈夫だよ。俺たちが姫ちゃんのことを守るから。…ね、丞。」
「…俺もか。まぁ、そうだな。雛咲、それ以上話さなくていい。もうみんな分かったから少し落ち着け。」
泣きながら喋りすぎてしまって何を言っているかわからない私を月岡さんと高遠さんは優しく落ち着かせてくれた。口にしたら一気に今までの緊張がとけてとまらなくなってしまった。誰かに自分の悩みを聞いてもらうことって、こんなにも安心することなんだ…。
「姫。こっちにおいで?…うん、いい子。ちょっとごめんね…うーん、すごく腫れてるね。このままだと跡が残っちゃうといけないから、ちゃんと手当しておこうか。」
「あず姉、傷ってどれくらい酷いの?…うわ、すっごい赤くなってる…。女子の顔殴るとか最っ低な女だね、有り得ないんだけど。」
「わわわっ!姫さんほっぺたとっても痛そうです…僕が変わってあげられるといいんですけど…な、なんてこんな無理なこといってすみません…!僕なんかがこんなこと言うの迷惑ですよね…!」
「むくおちついて〜!むくが慌ててるとひめが余計に困っちゃうよ〜」
「…はっ!そうですよね…!すみません、今1番辛いのは姫さんなのに…」
「む、椋くんそんなに謝らないで…!心配してもらえて本当に嬉しいよ、ありがとう。」
「で、でも姫チャン。明日からどうするっスか…?今日そんなことがあったんだったら、また姫チャンになにかしてくるかもしれないっス…!」
「…うん、でも私ね、その子が本当に悪い人だとは思わないんだ…。だから明日、もう一度会って話をしてもらおうと思ってるの。」
「なっ…お前な、どれだけお人好しなんだ。それに殴ってくるようなやつが大人しく話だけしてくれるわけないだろ。それこそ真澄も一緒につれてくだとかしないとまた同じことの繰り返しだ。」
「…そう、だね。でも私ひとりで行かなきゃだめだと思うんだ。これは碓氷さんに迷惑をかけたくないとかじゃなくて、ちゃんとその子と向き合って話す必要があると思うの。きっと、私の過去のことに関係がある話だと思うから…。」
「…俺もアンタに賛成。面倒とかじゃなくて話し合いなら俺がいない方がいいと思う。それに、アイツには見えないところで待ってるから。それならアンタが危ない目にあいそうだったら助けに行く。」
「そ、そこまでしてもらわなくても大丈夫です…!碓氷さんも危ない目にあってしまうかもしれないですし、」
「女の力に勝てないほど弱くないから。避けることくらいちゃんと出来る。それにそうでもしないとみんな納得してくれないと思うけど。」
「…そうだな。姫1人で向かうのは許可できないが碓氷が近くにいるなら許可する。それが話し合いの条件だ。」
「…分かりました。碓氷さん、明日よろしくお願いします…。でも、危なくなったらちゃんと逃げてくださいね…!」
「…分かった。」
「みなさん、明日、話し合いが上手くいかなかったら相談にまた乗ってくれますか…?」
「もちろん!大事な姫ちゃんのためだもん。みんなで上手くいくことを願ってるからね!」
「いづみちゃん、ありがとう…!私頑張るね。」
九条さんには今日二度と会わないって言われちゃったけど、このまま無かったことになんてもう出来ない。上手くいかなかったらどうしよう、また九条さんに嫌な思いをさせちゃったらどうしよう。沢山不安なことはあるけど、きっと、九条さんは本当は悪い人じゃないと思うんだ。そうじゃないと、私を叩いた時にあんなに傷ついた顔をする必要なんてないから。話せばわかってくれると思う。少し怖いけど、明日は頑張ってこのことを解決しよう。そう考えながら今日一日を終えた。
⋆*❁*
「…く、九条さん。お話したいことがあるんですけど、今大丈夫ですか…?」
昨日決心して、私は今九条さんに思い切って話しかけてみた。…お話、聞いてくれるかな。ここで拒否されちゃったらどうしよう、そもそも話すら聞いてもくれないかもしれないんだよね…!
「…昨日二度と関わらないでって言ったつもりだっだんだけど伝わってなかった?」
「ごめんなさい、私の顔なんか見たくないことは分かってるんですけど、どうしてもお話したいことがあるんです。少しでいいのでお話を聞いてくれませんか…?」
「…しつこい。教室でたくさん話しかけないでよ。…はぁ。早く屋上来て。」
「あ、ありがとうございます…!」
九条さんにすごく嫌そうな顔をされてしまったけど、またお話してくれることになった。
屋上に移動して私はずっと気になっていたことを九条さんに尋ねた。
「九条さん、私ずっと九条さんに言われたことを考えてたんですけど、どうしても分からないんです。ヒントだけでもいいので、理由を教えて貰えませんか…?」
「…あんたは知らなくて当然のこと。」
「…え?私は知らないこと、なんですか?」
「そう。でも私は知らなくても私のことをずっと傷つけてきたあんたを許せない。…教えてあげる。あんた、小さい頃に両親を事故で亡くしてるよね。」
「…どうして、九条さんがそのことを、」
「あんたの両親を轢いた運転手、今どうしてるか知ってる?運転してた男には妻と娘1人の家族がいて、事故を起こすまでずっと幸せな家庭で暮らしてきてたの。そんな幸せな生活がこれからも続いていくと思ってたのに、普段通り運転していたら小さい女の子が現れて、驚いてすぐにとまろうとしたけど車がそんなに直ぐに止まれるわけがなくてそのまま人を轢いてしまった。それから幸せだった生活は一変して、妻には離婚するって言われて、娘も連れてかれてひとりぼっちになったの。……その運転手の子供が私。」
「…え」
「驚いた?そうだよね。あなたはずっと両親が亡くなってしまった悲しみで精一杯で、事故を起こしてしまった運転手のことなんてこれっぽっちも知らないんだから。それでも、あなたが知らないところで自分以外にも苦しんでいる人がいたの。」
「…ごめん、なさい…、私、そんなこと本当に今までずっと知らなくて…。」
「そんなの分かってる。…それにあなたが悪くないって言うことも。」
「…九条、さん」
「…あなたは悪くないってことなんてちゃんと分かってるの。事故を起こしてしまったのは私の父だし、あなたにはなんの罪もない。それでもこんなことしないと私は壊れてしまいそうで、あなたに酷いことをしてしまった…本当にっ、ごめんなさい…」
「謝らないで、ください。…私からもごめんなさい」
「…なんで、あなたが謝るの。私が酷いことをしたのに。」
「だって、あの時私が車に気づいて走り出すのをやめていたら、あなたのお父さんだって人を殺してしまうことは無かったの。だからごめんなさい…」
「…そんなことない。
でも本当に悪かったわ。さっきは許せないなんて言ったけど、それは私が自分勝手に行動してただけだから。これからはもう二度とあなたの前に現れないから、安心して…」
「…まって!あ、あのね、私歳の近い女の子のお友達って、いないの。だから、私とお友達になってくれませんか…?」
「…は?あなた何言ってるの?私はあなたのことをいじめていたのよ?そんなやつと友達になりたいなんて、」
「そんなやつなんて言わないでください!確かに酷いことはされたかもしれないけど、あなたはちゃんと謝ってくれました。それに、心の中ではちゃんと悪いことだって分かっていてくれたんですよね…?それなら、それで充分です。私の全部を知っているあなたなら、きっと心から仲良くなれると思うんです…だめ、ですか…?」
「…あなたって本当にお人好しなのね。でも、それが長所なのかもしれない。私の方こそ、友達になってくれると嬉しい。」
「…!ありがとうございます…!」
「…本っ当にお人好し。話し合いどころか友達にまでなるなんて誰も予想つかない。」
「う、碓氷さん!」
「…あんた、いつから私たちの話を聞いて…」
「最初から全部。…九条、コイツと友達になるのはいいけど、仲良くしないとうちの過保護集団に責められるから。」
「…それはごめんね。でも安心して。もう二度と、姫には酷いことなんてしない。あんなことした私が何言ってるんだって感じだけど、これからは私が姫のことを守るから。」
「…それならいいけど。姫、帰ろう。」
「は、はい!…怜華ちゃん、また明日ね…!」
「…うん、また明日ね、姫。」
怜華ちゃんが私の過去のことに関係があるなんて全く思ってもいなかった。…でも今日、本当にお話が出来て良かったと思う。お互いに今までは傷つけあってしまったけれど、これからは守りあえるようなお友達にきっとなれるから。
「碓氷さん、今日は本当にありがとうございました…!私これでまた1歩前に進めた気がします。」
「…別にたいしたことしてない。…ねぇ、前から気になってたんだけどその碓氷さんっていう呼び方やめてくれない?同い年なんだから敬語もいらない。」
「え、いいんですか…?じゃ、じゃあ碓氷くんって呼んでもいいかな…?」
「なんでそうなるの。普通に真澄でいいんだけど。」
「…えっ!?下の名前でもいいの…?でも呼び捨てはちょっとなれないから、真澄くんって呼ぶね…!」
「…それでいい。」
「…えへへ、真澄くん、本当にありがとう。真澄くんのおかげだよ。」
「…っ、だから俺は何もしてないから。」
怜華ちゃんだけじゃなくて真澄くんとも少し仲良くなれちゃった…!早くみんなに今日のことを報告したいな。沢山心配かけちゃった分、安心してくれるかな…
「…ただいま。また全員揃ってる…どんだけ暇なの」
「ただいま帰りました!みなさん、あの昨日言ってたことについてなんですけど、私そのこと、怜華ちゃんとお友達になれちゃいました…!」
「え!?ひなりん友達にまでなれちゃったの!?いいねいいね〜!タメの女の子の初トモだね!」
「…姫すごい。頑張ったから、特別にマシュマロ…分けてあげる」
「密さん。今からご飯なんでマシュマロは食後に姫にあげてください。姫、良かったな。これからはそのこと仲良くするんだぞ。」
「攻略何度高めの女子をフレンドにできたら無敵だね、姫ちゃんおめ。」
「みなさん、本当にありがとうございました!みなさんが相談に乗ってくれたので今回私は前進出来ました、これからも迷惑をかけちゃうかもしれないですけど、みなさんのサポート頑張りますので、改めてよろしくお願いします…!」
「「「こちらこそ、よろしく。」」」
みんながそう言ってくれて、私はすごく久しぶりに、心の底から笑顔になれた気がした。こんなに笑えるようになったのもここのみんなのおかげだ。これからも、こうやってたくさん笑顔になれるような日々が続くといいな。みんなとならきっと、大丈夫…。