like U do





君じゃダメなんだと思う。水みたいにコップの中で揺れたり、倒れてベッドに染みを広げる私は、どうしようもなく彼を求める私は。君じゃ足りないんだと思う。

「今日、寒かったな。」

瀬戸くんはコーヒーを飲んでいた。唇からその味がしたから、そうだ。服を脱ぎ捨て胸に顔を埋め、擦りついてくる。それはまるで甘える子供みたい。そのまま先端を口に含み、ころころと口の中で転がして。ちゅ、ちゅと吸う。それから指を使って私の好きなように刺激した。肌寒かった今日は、どうしても君に会いたくて。瀬戸くんはいつでも変わらず接してくれるし、嫌な事も目を背けられる。しばらく会わなかった時はいつもより、もっと良くなれるから。

「期待してたんだな。」

ショーツに触れた君が暗闇の中で笑った気がした。指が焦らすように入り口をなぞり、そのままごつごつとした指が入ってくる。くちゅくちゅと音を立てて的確に刺激し、慣れないうちに奥へさし込む。きゅん、とお腹が疼いて、液は溢れてくるばかりだった。もっとして、もっとして。その言葉を言えないまま、ただ喘ぎ声が漏れる。

「あ、あ。いやっ。」
「やじゃないくせに。」

ぐちゅり。

「はは、やらしー。」

私の反応を見て執拗に感じる場所をせめる瀬戸くんの目を見てみると、ふっと笑ってキスをしてきた。舌を絡め、首筋に吸い付き、耳元でどこがイイの?と囁いてまた口付ける。
玄関で傘が倒れる音がした。私はその傘をさして家に帰らなければいけない。
私は彼氏のおもちゃだ。ただそこにいるだけでは愛されることはない。彼は性欲が薄い。そして行為は短く、燃え尽きず満たされない心は居場所を求めた。瀬戸くんは優しくて、一緒に居て傷つけあう事もなかった。でも好きじゃなかった。私が好きなのは彼氏だけだった。だから、

「なあ、今誰のこと考えてた?」
「怒ってるの?」
「俺のことだけ見ればいいのに。」

だから、君じゃダメなの。何も言わない私に瀬戸くんは少し悲しそうな顔をして、それから私を抱きしめた。なんてな、大丈夫だぜ。名前があの人の事大好きなの分かってるから。分かってるつもりだから…。君は私に覆い被さってじっと見つめる。そして肩に顔を埋めて余裕なさそうに入ってきて、吐息を漏らす。中が広げられて、奥まで深く刺さりこんでくる。君の気持ちは分かっているはずなのに、私は彼と居ることを選んでしまったから。君とはこの関係でしか繋がっていられないのを分かっているから。奥を突かれると痺れるように甘い感覚がうまれて、君にしがみつく事だけしか出来なかった。部屋に響くのは自分の喘ぎ声と軋む音。私の彼氏がくれないもの、気持ちよさは私が一番ほしいものだった。

「あ、うう。」
「久しぶりだから、やばいかも、」

耳を噛み、ため息混ざりに瀬戸くんが言う。体勢を変えて首に口付けられ、水音が響くようになった。あの人と初めてした時から、何か足りなくなって、一日中彼氏との行為を考えるようになった。その度欲はどんどん溢れてきて、お腹が疼いて、でも彼は抱いてくれなくて。自分の体を慰めているうちに、よくない考えが思い浮かんでくるようになったのだ。この穴を埋めてくれる人はあの人じゃなくて、別の人でもいいんだと。瀬戸くんと寝て、瀬戸くんをあの人の代わりにしようとした。薄々気付いていた。何回したって、君は彼の代わりにはなれなかった。一旦手を離してしまったけれど、変わらず求めているのは。彼だけだったのだ。後ろから胸を触り、腰を打ち付けてくる瀬戸くんの息遣い。胸を刺激されると感度が上がったように思えた。それから君が切羽詰まった声で私を抱きしめて、出した。痙攣して、奥へ奥へと行こうとする。しばらくの沈黙。
でもこんな時に思い出すのは彼と最後にした時の事、長い抱擁、指の感覚。彼の顔、表情、声。私は行為が終わった事と、その相手があの人じゃなかった事を考えて泣いた。瀬戸くんは何も言わなかった。頭を撫でて、それから涙を拭った。

「…。」

私はそれが遠ざかっていくのを感じながら、電車に乗った。


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