白色の春





ここにいて、ずっと傍にいてと。そう誓ってもずっと一緒にいれない人なんて沢山いる。だけど、私たちはずっといられると思っていた。二人でいて、手を握り合って、ただ寄り添うだけで。たったそれだけで私たちは、完璧な二人だと思ってた。

朝、目覚ましを止めてまず君からのメッセージを確認する。最近のルーティン。君からの通知は来ていない。それが当たり前で。君からのトークを開いたまま、傍に置いて化粧をする。おはようの通知もないまま、出かけて、夕方にまた見る。少し何か送ろうと打ち込んで、やはり消す。そしていつも通り上手く眠れないまま、朝になっている。だからうるさい携帯をとって、アラームを消す。そして通知欄にいない君を確認する。

買い物に行った時、御幸の好きなカレーを見つけた。君と行ったところを通ると、きゅっと胸がしめつけられた。部屋に帰っても、君の置いていったものが目に入って、苦しい。一日が過ぎていくごとに、君が遠くに行ってる感じがして、離れていく君に手を伸ばそうとする。私の行ったことある場所は、君と行ったところばかりだ。そこに行く時はいつも一緒だったのに、ここに君がいたはずなのに。

「おはよう」

そのメッセージが入ってたのは、そんな日々を繰り返してたある日だった。その通知を見た時、すぐに返信して、それからしばらく話をした。色んな写真が送られてきた。向こうで上手くやってるんだ、と言うと、良いところだぜと返された。

「…。」

私たちが喧嘩したのは、御幸がこの町を出る前だった。なんでか、いつもならしないような事で喧嘩して、意地をはって口もきかなくなって、君は一人で発ったね。行くことが決まった時、ついてきてほしいって言われたのを覚えてる。私は、今ここで何をしているんだろう。長い間連絡もなく、本当に自然に消えていった関係は私を縛り付けていた。私は彼のことを好きだった、でも愛してるかどうかは分からなかった。愛してるって、よく分からないし、そういう感情はなったらすぐ分かると思ったから。だけど今ならわかるのだ。春は、君と出会った季節だ。それを、君と別れた暗い季節にしたくない、春のことを私はまだ好きだから。

「今どこ?」

私は君からのメッセージを相変わらず待ち続けていた。そして、行く当てもなく歩き続け、送ってもらった写真を頼りに知らない町で御幸を探し続けた。見つかるわけもないのに、ひたすら歩き続けた。しばらくして君から着信があって、それから君が現れた。

「おいっ名前。」
「長い間座席に座ってたからお尻が痛いよ。」
「ほんと、急にも程があるって。」

車に乗って、どこへ向かっているかもきかずに、外の景色を眺めていた。

「なあ、本当に帰るのか?」
「何も持たずに来たし、帰らなきゃ。」
「そうか、」

じゃあ、次は荷物持ってこないとな。
流れてる音楽は、私の好きな音楽だ。私たちは多分、離れてなんかいなかったのだ。君の中には私がいた。私の中にも君がいて、消そうともしなかったし手放さないように大事に持っていたような気もする。私たちはとりとめのない話をしながら、次第に日常へと帰っていく。

「次はもう帰らなくていいように、準備してこいよ。」

私は君を愛していた。一度君を手放した時に確信した。家族のように、心の底から。何気なく御幸と過ごしていた日々こそがそうだったんだと。君と一緒に暮らしている家に帰ることや、君を待つこと、一緒に眠りにつくことが愛だったんだと思った。それが分かったなら、きっともう。これまで以上に君との時間を大切にできるだろう。

別れ際にしたキスを忘れないように、君と住んでいた家までの道へ駆けていった。


back