no title





その時何だか俺は夢みたいなものを見ていて、とても幸せだった。甘い香りの中何かやわらかく、けど痺れるような靄に包まれていた。その中で君と何度も会って、頬を掠めて足元に落ちていく。掴みたい、自分のものにしたい。今すぐにでも出来そうなのに出来ない。そんな感じが続いて俺はようやく夢から覚めた。

「大丈夫だぜ、会えなくても」

君が急用で来れなくなったと連絡があった時、急に頭が冴えてきて、そこから動けなかった。広い道の端っこで俺は傘を持って突っ立っていて、もう雨は少し降り始めていた。しばらくして連絡を返して歩き始めた。今日はお祭りを一緒に行く約束をしていた。辺りには楽しそうな人が沢山いて、その人達と真逆の方向を歩いて駅まで向かっていった。屋台の熱、笑う声、客引き、日が暮れた濡れた道を間を縫うように歩いていく。

「一人で見ても、きっとつまらねえよ」

携帯が今更震えるのを待ちながら、歌をこぼして。地面に落ちる水滴を見ていた。


back