私の恋人





私は自分を幸せにする方法を知っている。

御幸と二人で暮らすことになって3年経つ頃に、私はそのことに気が付いた。昔から恋愛が下手だった私は、長く人と付き合うことができなかった。けれども御幸とは不思議と長く続いていて、この人とならずっと居られるかもなんて思ってた。不満とか当然あったけれど、あまり見ないようにしていた。ご飯を作りながら時計を気にしてる時とか、カレンダーをめくっておく時とか。街で素敵な服を見つけた時とか、メイクしながら君からの連絡を待ってる時とか。そういう時君のことを思い出すと、あたたかい気持ちになるのだ。けれど、自分が幸せかときかれても何も答えられなくなっていた。

「あの子、結婚したらしいよ。」

最近、結婚の話を度々耳にする。まるでそれとセットのように名前は結婚まだなの?ときかれること。同じような質問を彼はきかれるのだろうか。その時、何て答えているのだろうか。そんなことを浮かべながら、曖昧な返答をしていた。いつもそうするしかないから。

「結婚かあ、いつかはしたいって思うよ。」

御幸はそんなことを言って、携帯に視線を落とした。昔に同じような言葉を私に言っていた。というか、ずっと同じことしかきいたことがないけれど。小さい頃に、何となく自分はいつか誰かのお嫁さんになると思っていたのを思い出した。王子様が迎えにきて、愛の言葉を囁いてくれる。そんな運命の人なんて、くだらないと思うようになってしまった。彼とは将来ずっと一緒に居たいと思う。お互いにいい年だし、そろそろなんじゃないかとも思う。けれど、現実は残酷だった。

彼が寝床に入っていって、私がその隣に寝る。それはいつも、けれどそれから君はいつも私を拒否するのだ。私が伸ばした手をいとも簡単に無視をする。ごめん、今日疲れてるから。今日はもう遅いから。理由をきくと、そう答えて寝息をたてる。分かってる。分かってるんだよ。そんなこと。だったらいつするんだろう。背を向ける彼の真似をして、私も眠ろうとした。何だか急に虚しくなって、今までの楽しかった記憶を思い出そうとした。彼と旅行でこんな所に行ったとか、抱きしめてくれる時の表情とか。彼は忙しくて今日も遅く帰ってきた。忙しい忙しいと毎日言うけれど、ならその忙しいのはいつ終わるのだろう。平日は帰らず、休日も仕事をすることが多い。昔は二人で何か一緒にすることがあったけど、最近はめっきりだ。外は雨が降っていて、私は傘をさして外に出た。どこに行こう、と思ってコンビニまで歩いて行った。それから、本当にコンビニまで行って家まで帰る時に思ったのだ。私は昔から自分を幸せにする方法が分かってたのだと。彼と付き合えた時、とても嬉しくて舞い上がってた。彼と一緒に住めることになった時も本当に嬉しかったのだ。けれど、同時に私たちのゴールがどこなのか不安になった。ここまでして結婚しなかったらどうしよう。自分の親に紹介した時だってそう思った。「いつか」が来るのは分かってる。分かってても、ただいつ来るか分かりもしない将来に期待し続けるのはつらい。待ち続けるのは苦しい、君と私しかいない部屋は惰性で溢れて感情は一方通行になっていった。だけど、これ以上は無理なんだ。

私が幸せになるためには、彼じゃダメなんだ。

「どこ行ってたの?」

御幸の掠れた声に何となく返事をして、その時に手を握ると「ごめんな。愛してるよ。」と言われた。


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