最初から決めていたわけじゃなくて、たったさっき何となく言おうかななんて気持ちになったから、電車がくるサインがきこえたとき不意に好きと言った。
それは地下鉄のプラットホームに吸い込まれたように見えたけど、御幸は目を大きくして私の事を見つめるだけだった。ただ風が通り過ぎていくのを感じていた。

「じゃあ、また。」

私たちは降りるまで本当に何も話さなかった。決死の告白でも何でもなかったから、たまたま一つあいてた座席に座った時も少しも気まずい気はしなかったし。でも少しずつ嫌な気分になって、降りる頃にはどんな顔をして御幸の顔を見ればいいのか全く分からなくなっていた。でも御幸は私の前で吊り革を掴んでどこかを見ているのだ。少しも目も合わないから、なんだか悔しくなって携帯を出したが特に何もする事はなくて、電源をつけては消して、目をつむってみたりして、またつけては消して画面を伏せまたつけていた。御幸の足が私の膝にあたっている事を気にしているのも私だけのようにしか思えなくて不意に手に力がこもって息苦しくなって、堪えてるうちに降りて、改札を。抜けて、いつの間にか手を振っていた。

「じゃあね。」

私と御幸は中学が一緒だった。
高校に入ったとき全く知らない人ばかりの中に、彼がいたので話しかけていたのだった。それまで一言も喋ったこともなかったくせに、随分馴れた風にしたから向こうはめんどくさそうにしていたのを覚えている。私は御幸のことをすぐ好きになった。中学の時の口うるさい先生、理科の授業でやった実験、どの先生が一番眠かったとかそんな他愛のない話を掘り返すうちに御幸は大きな声で笑うようになった。だからその口元とか綺麗な目をじっと見ていると決まって「なんだよ、」と言われるから、何度も飽きるくらいにそのやり取りをするのだ。それが幸せだった。それから連絡が来たのだ。

「実家帰ってたんだ。」
「まあな、冬休みだし。」

そしてふと気がついたら御幸と一緒に歩いていたのだ。ゆっくり歩いていた。御幸の吐く息は白くて、その水蒸気しか見れなかった。でもすごく冷静で、落ち着いているのに胸が苦しくて、多分私達は一時間も一緒にいなかったのにそれでも充分満たされていた気がしたのだ。だからかは自分でも分からないけれど、レールの擦れる甲高い音にはじかれて御幸の目も見ずに好きと言っていた。




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